合体変身!ボルダーガイン


第1話 落ちて来たヒーロー


 光。降り注ぐ光……。風……。目覚めるとそこには、見知らぬ青い空が広がっていた。手に触れるのは柔らかな緑。風にそよぐ木の葉も、ここではみんな緑色をしている。
(ここは一体……?)
彼はボンヤリ考えた。
(おれは、戦っていた。宇宙で……。奴らと……。戦って、そして、吸い込まれるように青い星に落ちた……。この青い星に……)
彼はガバッと勢いよく起き上がった。
「奴は? おれのアーマーは何処だ?」
しかし、彼の周囲には誰もいない。そして、アーマーもない。あるのは緑の草と木々。そして、静寂。そんな彼を、かわいらしい姿をした森の小動物が珍しそうに眺めている。
「この星の名前は、確か……」
彼は頭に簡単な星の座標を思い浮かべた。

「ああ来て、こう来て、3つ目の角を右に曲がって5つ目の太陽系の星だから……えーと、野球じゃなくて、お灸じゃなくて、月給はまだだし、昇給もボーナスもなしなんてあんまりです、隊長!」
彼は興奮してどん! と地面を叩いた。
「イチチッ! 何て固い地面なんだ」
彼は悪態をついたが、ハッと何かを思い出したように叫んだ。
「そうだ! 地球だ! この星の名前は地球と言うんだろ? 遥か銀河の果ての果て。辺境にあるど田舎の星!」
それを聞いて、まるであんたには言われたくないわ、と言うかのように、イタチは歯を剥き、しりっぺを一つおみまいした。プワンと広がる強烈な臭いに男は慌てて鼻をつまんで駆け出した。


「うへっ! 死ぬかと思った。もうっ! 可愛い顔しているくせになかなか油断のならない奴め!」
男はゼイゼイと息を切らしながら周囲を見回す。
「こんな事じゃあ、何時敵が襲って来るかもしれないぞ」
焦る男は頼もしい相棒を呼ぶ事にした。
「アーマーよ。おれの元へ来い!」
心で強く念じた。すると、たちまち彼の周りの空間が歪み、輝くオーロラの光と共に微妙に赤い超合金フルメタルアーマーが現れ、彼に着装した。それは彼専用の特殊戦闘服、兼、装甲だった。それで、彼はこれまで歴戦の勇者として戦って来た。彼こそは戦士であり、宇宙の平和と秩序を守るヒーローなのである。その彼の雄姿の象徴であるアーマーは子供達の憧れであり、シンボルであった。彼もまた、それを誇りに思い、自らの意志で呼ぶアーマーは彼自身でもあった。

「そうだ。おれは帰らねば。この超合金メタルフィットアーマーなら、宇宙だって飛べる」
彼は自信に満ちた笑みで立ち上がろうとした。と、その時……。
「な、何だ? この重さは……!」
彼は悲鳴を上げ、その場に崩折れた。
「ウウ! お、重い……! 何なんだ? この異常な重さは? ウソだろ? ダメだ。このままじゃつぶれる……! 誰か助けて……!」
アーマーが彼の体にメリ込んでいた。普段なら、羽よりも軽いはずのアーマーが今はまるで巨大な鉄か岩石か、それとも装甲車丸ごと1台か、はたまたダイエットに失敗した恐竜丸ごと1頭背負わされたかのような重さを感じた。
「くそっ! これもまた、ストリクトのワナなのか? それとも……?」
彼は慌てて解除しようとした。が、装甲はピッタリとハマったきり、ビクともしない。そこで、彼はハッと気づいた。この星の重力が異常に強かったため、自分はこの星の引力に引き寄せられて落ちたのだと――。

「そうか。それで、やけに体が重かったのか。それに、アーマーも……」
アーマーは戦闘服だ。いろいろな装備や何かがめいっぱい施されているのだ。重力の重い星ではモロにその負担がかかってしまう。彼は納得した。が、今はそんな理論がわかったところでどうしようもない。一刻も早くアーマーから抜け出さなければ本当につぶされてしまう。宇宙のヒーローにも、そんな落とし穴があったのだ。アーマーの中で彼はもがき、ボルダーチョップやロケットポンチやライダーチックなどありとあらゆる技を自分が死なない程度に試してみた。が、装甲の中にあってはまるで効果がない。
「ちくしょ〜っ! このヴェルヘス ナント ナクサハート リー ハーペン様が、こんなことでくたばれるかっつの!」
彼はオーラを高めグォォーッと勇者のオタケビを上げた。閃光が彼の体から迸り、装甲は破られるかと思われた。が、やはり無理だった。

「グワアァー! このままじゃ、ホントにヤバいよ。誰か助けて!」
と、彼が本気で叫び、もがいていると、丁度、運よく通りかかった人がいた。鼻歌混じりに朝のジョギングをしていたその男は、声を聞きつけると急いでハーペンの元へ駆けつけた。
「おい! どうした?」
体格のいい筋肉質の男がアーマーに手を触れた。と、その途端、カッと閃光が閃いて、男の姿は見えなくなった。
「お? これはどうしたことだ? 急に体が軽くなったぞ」
いつものようにシャキーンとカッコよく大地に立ったハーペンは、これまたいつものようにポーズを決めた。
「うん。上々だ。さすがにおれはヒーローだからな、順応力もあるってワケさ。アッハッハ。ストリクトの奴らめ。思い知れよ。たとえ、宇宙の果てまで逃げたとて、正義は勝つのだ。このおれは勝つ! おれが正義だ! 空気がうまい!」

すっかり気をよくしたハーペンは軽く屈伸運動などやりながらブツブツとつぶやいては悦に入っていた。
――何だ? ここは一体何処なんだ?
突然、彼の中で声がした。野太い男の声だ。
「何? アーマーの中から声がするぞ。バカな? おまえは一体誰なんだ?」
――誰とは何だ? そう言うおまえこそ誰なんだ?
声が言った。
「そう言うおまえこそって。おれはハーペンだ」
――何? ハンペン? そのペンペンが何でおれの中にいる?
「おれの中だって? おまえの方こそ、勝手におれのアーマーに入り込んで来たくせに図々しいぞ」

――何? 助けてと言うから来てやったって言うのに、その態度は何だ?
「助けただって? 宇宙で最も強くカッコいいと言われるこのおれを」
と言うハーペンの言葉に男は呆れた。
――ハハーン。おまえ、かわいそうに。こっちが弱いようだな。どうせ、流行りのアニメか何かのコスチームプレイか何かしてて脱げなくなってもがいてたんだろ? まったく。今時の若い者は軟弱だからな。おれのように日頃の鍛錬を欠かさない男からすると、実に哀れなものだ。少し体を鍛えた方がいいぞ
「何? あんた、このおれにケンカ売ろうってのか?」
――ハハハ。おれは、こう見えても空手6段だぞ。おまえのような軟弱なヒヨッコが相手になるか
「空手? そいつは、この星の武道なのか?」
――何だ? 空手を知らんのか? 話にならんな
「じゃあ、おまえ、本当に強いのか?」
――まあな

「じゃあ、証拠を見せてくれ」
――証拠? そうだな。知らないのなら、ちょっとだけ見せてやろう
と言うと、男は近くにあった木に狙いをつけると、いきなり
――はっ!
と気合を入れ、シュバッと手刀で十五センチ程のその木を真っ二つにした。
「おおっ! お見事! だが、今、何だかおれ自身がやったような……」
――何を言うか? なら、見てろ
そう言うと、男は周囲の木を片端から蹴り倒し、空手チョップで粉砕した。その目にも止まらぬスピードと瞬発力にハーペンは振り回され、目を回した。
「す、すっげェ! こいつは本物……それにしても……妙だぞ。さっきから、こっちはあんたの動きに連動してるような気がするんだが……」
――それは、こっちのセリフだ。何かこう、おまえとピッタリ密着してるような……?
――「何だかすっごく気持ち悪いぞ」
と同時に言った。

「よし。確かめてみよう。まず、おれが右手を上げる」
――なら、おれは左手を上げる
「それから、おれは右足を上げる」
――なら、おれは左足を……
「上げられるかあ! そんなことしたら、おれが転ぶ」
――そうだ。何て無様なんだ。しかも、見ろ? おれの腕に何だか妙な殻みたいな物が貼りついてるぞ
「妙な物とは何だ? これは、宇宙最強のアーマーだぞ」
――アーマー? 宇宙?
「そうさ。おれは宇宙の平和を守るため悪を追ってこの星に来た」
――それじゃ、まるでヒーローみたいじゃないか?
「だから、おれはヒーローなの!」

――バカ言うな。ヒーローが自分のアーマーにつぶされそうになってもがくか? ふつー
「仕方ないだろ? この星の重力があまりに強すぎなんだよ」
――へえ。そうなのか?
「そうさ。あんな重さに耐えられるなんてマットーな人間じゃないから」
――だが、アンタ、今、平気で立ってるぞ
「そりゃそうさ。おれはヒーローだからな。並の人間とはちがうのさ」
――そうかね? なら、これでも?
男はいきなり自分に向けてチョップを放った。
「グェッ!」
ハーペンは胸を押さえてうずくまった。

「痛ゥ! 一体、何てことをするんだ? おれの手は」
――ウ、ウウッ。そうとも……。これは、おれの手であり、おまえの手でもある
と、男はうめきながら言った。
――そして、この体は、おれの体でもあり、おまえの体でもあるんだ
「どういうことなんだ? 一体」
――つまり、おれ達は一つの体に合体しちまったってことさ
「合体?」
――そうだ。おれ達は一心同体なのさ
「何てことだ。もし、こんな時に、ストリクトの奴らが攻撃して来たら……?」
ハーペンは嘆いた。が、状況はそんなヒマなど与えてはくれなかった。敵が来たのだ。茂みの向こうに緑のアーマーを着込んだ男が一人、こちらに向かってやって来るのが見えた。

 「ストリクト星の奴だ」
ハーペンが言った。
――何? スプリング ハズ カム?
男が言った。
「ストリクト星だ!」
ハンペンは怒鳴った。
――何だ、そりゃ? スプーンおじさんの親戚かい?
「ちがーう! つまり、そのあんたから見れば宇宙人っていうか……」
――ガハハハ。宇宙人だって? バカバカしい。そんな者がいるならぜひ1度お目にかかってみたいものだね
男は大声で笑った。

「そんな大声で笑うな! 頭がガンガンする」
とハンペンは自分の頭を押さえた。
「大体、おれだって宇宙人なんだぜ。この星からは遥かに遠いそれは、あまりに遠すぎて君には何も見えないかもしれないが、だけど、そこには確かに在るんだ。微妙にきらめくメイビー星がね」
ハーペンは、故郷を想ってしみじみと言った。が、装甲の中ではとてもこもっていて、男の耳にはハッキリと聞こえなかったようだ。
――ベイビー星? そいつはまた随分ちっこくて弱そうな星だな」
と笑う。
「だから、ちがーう! って。メイビー星だ!」
――何? デイビー星? 悪魔の星か?
「だから、さっきからちがうって言ってんだろうが! メイビー星なの! メイビー星! 誰が何と言ってもメイビー星だったらメイビー星なの!」

「黙れ!」
と、突然会話を遮ったのは向こうからやって来た緑のアーマーの男だった。
「こんな田舎でおまえの一人漫才を聞きに来た訳ではないぞ。しかも寒い。寒過ぎるぞ。君、誰だか名前言ってくれる?」
「何? 名前だって? それ程までと頼むなら特別に聞かせてやらない事もない」
「誰が頼むか! もう、いい!」
と男が怒鳴る。
「私は空気の読めない男は嫌いだ」
と背を向ける。
「おい! そっちから聞いたくせに、聞けよ! おれは、ウェルヘス ナント ナクサハート リー ハーペン。宇宙のヒーローと人は呼ぶ」
「ヒーローが自分で言うか?」
と突っ込むが、それを遮るようにまた声がした。

―――おれは、岡山豪助! 空手6段、剣道2段、書道1級、漢検4級だ。覚えとけ!
ハーペンと同じアーマーの中から声が響いた。
「何だ、それ?」
ハーペンはアーマーの中の男に言った。無論、それはテレパシーではないから、会話はすべて外に漏れている。
――おまえばかり長く言うなんてずるいだろ? おれも、相応のアピールをさせてもらった
豪助が堂々と言った。
「私は、ストリクト星から来たメノン パム少佐だ」
緑のアーマーの男が言った。

――何? メロンパンだと? うまそうな名だ
と言う豪助を無視してメノンは続けた。
「そう。私は宇宙きっての切れ者と噂される」
――何? 宇宙きっての痴れ者だと? そいつは許せん!
「何が痴れ者だ! おまえの耳は節穴か?」
――心配するな。一応、しっかり二つは穴があるぞ
「全く。あまりにバカバカしくて話にならん。私は帰る」
とメノンがプリプリと怒って言った。すると、それまで黙っていたハーペンが訊いた。
「帰るって何処へ?」
「ストリクト星だ! 決まっておろうが」

――ホウ。ストリップとはうらやましい。ぜひ、ごいっしょさせてもらいたい
と豪助が言った。
「誰がおまえなんぞ連れて行くか! そういうものは一人でこっそり見るものだ」
と真面目に応えるメノンにハーペンが言った。
「それで、行き方は知ってるんだろうな?」
「当然だ! 大人の常識! って一体何を言わせるんだ! くそっ! おまえ、宇宙への飛び方を忘れたのか? いい年をして迷子とは情けない」
メノンがバカにしたような顔で笑う。
「どちらにせよ、こんなバカを相手にしても始まらん。私は去る」
とメノンは、両手を高く掲げ、天を仰ぐと思い切り空へ向かって跳躍した。が、40センチ程地面を離れた足は、そのまままた地面に落下した。

「ん?」
首を傾げ、もう一度気を取り直してジャンプする。
「シュワッ!」
が……。それは、あまりにショボく、何度も繰り返すのでますます変な生き物のように見えた。
――ガッハッハ。宇宙人ってのはカエル跳びしながら宇宙へ帰るのか? そいつは愉快だ
豪助が豪快に笑ったので、ハーペンも負けじと笑った。
「うるさいっ! 黙れ! 私は、私は宇宙一スマートな男……そんなはずはない。そんなはずはないんだ」
メノンもかなり意地になったらしく、しつこいくらいピョンピョン跳ぶ。
「惨めだな」
ハーペンが言った。

「何? 貴様、この私を愚弄するつもりか?」
「別に愚弄などしていない。ただ、面白いものは面白いと言っただけさ。人間、素直が一番だ」
――おお、その通り! 初めて意見が合ったな。ハンペン
「ハーペンだ」
と言い争っている二人。それをまた制してメノンが言った。
「そんな事はどっちでもいい。それより、どうなっているんだ? やい、ハンペン! まさかと思うが、おまえが何かやらかしたんじゃないだろうな?」
メノンの怒りに呼応してアーマーにクリーム色の網目模様が浮き出している。
「やらかしたとは何だ? 聞こえが悪い。もともと、この星の重力が強過ぎるんだ。おかげでおれなんか危うくアーマーに押し潰されるとこだったんだぞ」
「威張って言うような事か? 情けない奴め!」
「何! そういうおまえなんか飛べないメロンパンのくせに!」
「貴様! 何でも微妙であいまいなメイビー星人のくせに! これ以上の侮辱は許さんぞ!」
「やるか?」
「おーし! 宇宙での決着をつけてやる!」
彼らは戦闘モードに突入した。

――おい。おまえら、宇宙人同士でケンカはよせよ。世界は一つ。小さな宇宙って言うだろ?
豪助が止めに入ろうとするが、二人は聞かない。
「貴様からケンカを売っておきながら、何がよせだ?」
と蹴飛ばす。
――いきなり何をしやがる? それはおれの足だぞ
豪助が叫ぶ。
「おーよ。おまえの足だから蹴ったのだ」
メノンが言うと、豪助は、
――知っててやっただと? ならば、よし! おれの本当の強さを見せてやる! おまえが宇宙人だと言うなら、おれが技を使ったとて問題なかろう
豪助は、
――ハアッ!
と気合を入れるとメノンに強烈な空手チョップを叩き込んだ。
「ぐぇっ!」
アーマーの上からなのに、かなりのダメージを与えた。

「スッゲー! やるじゃん。けど、それっておれの出番を盗ってるし」
ハーペンが文句を言った。
「何を一人でブツブツ言ってる? ハンペン、貴様、頭でも打ったか?」
メノンにはまるで状況がわかっていなかった。
「おれは、まともだ。おれの中に勝手に入って来た奴がいるんだ」
「何? 道理で貴様の技にしては威力があると思ったぜ」
「どういう意味だ?」
――ガハハ。そうだろうとも。当然だ。こんなヘナチョコハンペン野郎とは鍛え方がちがうからな
と言って豪助はうれしそうに豪快に笑う。
「くそっ! バカにしやがって」
ハーペンとメノンが同時に叫んだ。そして、二人同時に殴り掛かる。その力はどちらも互角。二人はアーマーのベルトからソードを抜いた。

――おお、剣道ならおれも得意だ。貸してみろ
豪助が言った。が、主導権はハーペンにあった。
「フン! そんなに何回もいいところを持って行かれたんじゃ主役としての面目が立たないからな。行くぞ、豪助、おれと一体になって付いて来い!」
ハーペンはソードを斜めに構えて間合いを取った。
「よし! 今度こそ貴様と決着をつけてやる! かかって来い、ハンペン」
「行くぞ、メロンパン!」
二人はでやぁっ! と盛大な掛け声を上げ、互いへ突っ込んで行った。そして、剣と剣とがぶつかり合い、カシンカシンと火花が散った。
「うぬ、なかなかやるな」
「おまえこそ」
打ち合っては離れ、離れてはまた打ち合い、縦横無尽に剣が閃く。そして、何十回目かの打ち合いの末、僅かにバランスを崩した敵の動きを見逃さなかったのは豪助だった。

――今だ! 行け! ハンペン!
その声に呼応するように、ハーペンは斜めから繰り出した剣をそのまま右に払うと相手の肩口に叩き下ろした。
「ギェッ!」
ピンクのソードが一瞬刃こぼれしたようにバチバチとショートし、緑の装甲をほんの少し傷つけた。
「あー! よくもやったな! 今まで誰にも傷つけられた事なかったのにぃ……!」
思わず片膝をつくメノンにハーペンは容赦なく斬りかかる。が、それを必死にソードで受けたメノンはその剣で払い、飛退いて間合いを取った。
「くそっ! 逃がすか」
更に攻撃を仕掛けようとするハーペンの足が突然もつれた。
「うわっ! おっとっと」
つんのめるように何歩かたたらを踏んで、結局石につまずいて転んだ。その隙にメノンは、
「勝負は預けた。また、いつか会おう!」
などと定番の捨て台詞を残して駆け去った。

「くそ! 逃げられたか」
ハーペンは起き上がると悔しそうに言った。それから、自分自身に呟く。
「おい、豪助、何で邪魔する?」
――奴は、もう戦意をなくしている。これ以上傷つける必要はなかろう
という返事が返って来た。
「あいつは敵なんだぞ! 奴らは宇宙の秩序を乱そうとしているストリクト星人なんだ」
しかし、豪助は言った。
――宇宙だって? そんな事は知らん。だが、おれは弱い者いじめは嫌いだ
それを聞いてハーペンはハハハと笑った。
「弱い者いじめか。確かに、おれは強い。少しは手加減する事も必要かもな」
――それは、おれの強さだと思うがね
豪助がボソリと言った。
「ちがう! おれだ」
――いいや。おれだ
二人がもめて互いの襟を掴もうとすると突然アーマーが外れた。途端に装甲は解け、たちまち二人の目の前から消えてなくなった。残された二人の男はじっと互いを見つめ合った。

組み合っていたため、超至近距離での遭遇だった。あとほんの数センチで唇が触れそうな位置なのに驚いて、二人はパッと離れた。
「何てこった! こんなごっつい奴と一つになっていたなんて……」
とハーペンが言えば、
「冗談きついぜ。美女でも美男でもねえ、こんな普通の顔した宇宙人なんて見たことがねえ」
とぼやいた。
「普通だって? こう見えても宇宙一美男で通っているんだぞ」
と反論する。
「おまえさんが美男だっていうなら、地球人はみんな美女と美男の星って事になるな」
「何? そんなに美人が多いのか? この星には」
「まあな、おまえんとこの宇宙基準でいうならな」
「よし! 決めた! おれは、地球に住み込む事にした」
「何?」

「これからは、おれがこの星の美人を守る!」
「守るだって? 一体何から?」
「決まっている。宇宙の敵、ストリクト星人からだ。豪助、おまえを名誉ある我がメイビー星の外宇宙特別警備隊地球支部の隊員として、オーデンアーム技術の結集であるアーマーをおれと共に着用し、正義の戦士『ボルダーガイン』としての任務についてもらう」
「何だ? そりゃ……」
「こんな名誉は滅多に受けられない。君は選ばれたのだ。感謝したまえ」
と誇らしく言うハーペンに豪助は背を向けて言った。
「バカバカしい。おれにはまるで関係がないね。戦争ごっこなら何処か他所でやってくれ。おれは忙しいんだ」
「あ! おい、待ってくれよ。おれは、この星に来たばかりで何もわからないんだ。いろいろ教えて? 豪ちゃん、お願い! 豪ちゃーん」
とあとを追うハーペンの頭上で、カラスもバカにしたような声で、
「かあ!」
と一声鳴くのであった。

つづく