鱗手オキル短編集
ビーム出た






舐めるように後半4頁を読み通してただいま最終行。Enterを何気なく7回押して、できた空行の上にカーソルを行ったり来たりさせて遊ぶこと5秒。疲れてるなと思い、大きなあくびをした後、その空行の適当なところに切り取った段落を貼り付けておいてまた前の前の前の頁へと逆戻り。後で直そうと赤文字にしておいた部分に関しては良い修正案が思いつかず、とりあえず目に付いた不要のインデントの生き残りをBack Spaceを2回押して殺した直後、僕の右肘に蜘蛛を見つけた。小指の爪の半分に満たないちっこいヤツで、僕と目が合うなりそいつは「シェケナベイベー」と言った。「ノー・サンキュー」と言って肘を持ち上げると、蜘蛛は「いえええああああ」とかなんとか叫びながら襖の方へと跳んでいった。


僕はその持ち上げた右手で目をこすってから、その間に左手が勝手に書き込みやがったyyeewaaを削除する。さらに、両手で助詞「は」の下に「mata」と書いてから削除して、日本語入力に戻す。何をするんだっけと思うこと3秒、ああそうだアレじゃないスか、頭の中で音読した際の音の好みの問題で「何々は」を「何々はまた」に変えようとしていたのよ。思い出した。思い出したと思ってから嘘だと気づく。そもそも「頭の中で音読」をまだしてない。疲れているなと思いながら「つかれつかれつか」と入力してからまたそれを削除する。ようやく「また」と書き込む。いやいやいや、だからこれ読み返すまで書いちゃいかんヤツじゃないスか、きーっ、とまた削除して、図書館で借りた本の一冊を膝に乗せる。本は何か歌うようにゴロゴロ言っている。僕は少し癒やされる気持ちで、頑張るぞ、と思う。


腰のところに毛玉ができてないか梳くように撫でる。冷たさに1秒間呆然となる。何だよ、これ本じゃないか。あわてて膝から下ろす。それから、本ってのは読むものだと思い出して、もう一度取り上げる。少し開き癖のある頁の、ある段落を目でとらえる。ああこれ昼間にもう読んだやつだった、と思ってもう一度下ろす。とりあえず、カーソルを上げて、赤文字にしたところをにらむ。瞬きすると、べとっと嫌な音がする。もう瞬くもんか。そこを2度読み直して気づく。癖が出ている。「言い換えれば」がくどい。もう言い換えるな俺。しかも厳密には何も言い換えてないぞ俺。「言い換えれば」で始まる文の上にカーソルを置いて、思い切ってDeleteを押すも、丁度1行でうまく止まれなかったので、「もとに戻す」を押したその時、僕の左肘に虫を見つけた。さっきとちがう何モンだかよくわからない黒っぽいヤツで、僕と目が合うなりそいつは「シェケナベイベー」と言った。とりあえずビームで殺した。