鱗手オキル短編集
ヤメレ!





「相棒、結婚式って知ってるかや」
「知ってるでよー」
「ようく知ってるかや」
「ようくは知らねーでよー。実はおら、相棒ちゃんと今それについて話そうとしていたんだけれど、改めて考えてみると、あれってよう分からんね。何なんね、あれ」
「よしきた、まずはそこから見直してみようや」
「OK、教えてくれろ相棒ちゃん」

「さあ何でも聞いてごらんね。……おほん、わしは今日から君の担任になったどっかにえらぁいセンセーだ。何でも質問に答えてあげよーのう」
「ほいさ、センセー。じゃ、結婚式て何なのさ」
「そら簡単よ、まず愛し合う二人がおるやん。いやいや別にホントーに愛し合ってるかどうかは問題でないけど、とりあえず自分のためか人のためか社会のためか、愛し合ってることを周知させる使命をもった二人がおるやん」
「おるねー」
「そいつら男と女の場合が多かったりすんだけど、まあそんなこたどうでもいい」
「なして? なしてどうでもいいんですか?」
「うるせ。たまたまオスメスのつがいが多かったりしての、国はそうじゃねーの数えんのめんどくせーから、ひとまず結婚するやつは全部オスメスのつがいってことにして、行政のPCでひいふうみいするんだぁよ。とにかく結婚式ってのは、その愛し合う二人が、親戚やら友だちやらを呼んだり呼ばなかったりして、わんさ集まって、あったらしー戸籍がでけたでよーって共有しあうわけですよ。別にやんなくてもいいしそれは自由」

「でも、結婚式ってそんだけじゃないんじゃないの? 結婚する人やされちゃう人はさ、プログラム沿って色々やることがあるみたいじゃん。あれは何してんの」
「しらねーよ、けつけつしたりこんこんしたりしてんだぁよ。ほらあれだ、文化に応じた種々のテキトー・サイテキな縁起担ぎのサホーってんがあって、そういうのえっちらおちた執り行ってるうちに、ひとまず結婚したよーってカンジが出てくんだぁよ」
「結婚っていいもの?」
「いいもわるいもそりゃ人間が決めるのよ、リモコン次第よ、何事も。石油だって人類に莫大なエネルギーをもたらしたが、戦争激化させるし、ぬめるしよー。くせえしよー」
「そういう一般の話じゃなくてさ、君はいいものだと思ってるの?」
「わたしゃね、要らんと思ってる。どっちかて言うと好きくない」
「おらはええなと思ってる。文化的だし。同時に普遍的だし」

「相容れんこと言うね。どっちなんだ」
「たぶん文化的っていう方に強くひかれてる。この国にはこの国の、この地方にはこの地方の、この家にはこの家の伝統とか習俗とかがね、愛情っていうなんだか普遍的で曖昧なものを、うまいことポエジーにしてくれるところ」
「ポエジーww」
「笑い声を書くなよ、相棒ちゃん。ダブリュンリュンとかヤメレ。そうだね、ポエジーでダメなら、『わかりやすくしてくれる』って言い換えてみようか」
「おまえはそのちゃん付けヤメレ。そしてその『わかりやすく』は、『去勢してくれる』と言い換えてもいいわけでよ、相棒」
「そこが安心できるっていうか」
「そこが安心できねーんじゃねえか」
「なして?」

「わたしとその相棒がだね、この世界とその界隈を歩いてまわり、また歩いて帰って眠り、寝過ぎたり寝足りなかったりして時にはやりきれんで、チャンバラとか右フックとかマッサージとかしょーもねーことをやりあって過ごす、あの時間だよ。あの時間とも呼べないような時間があるわけですよ。あるわけですね。ありますな」
「な」
「で、そいつが全部好きとか嫌いとかさ、指輪とかチュウとか『イヨッご両人!』とかさ、そういうチンケなものに人生というアルバムの大事なとこもってかれんの、わたしヤダ」
「もってかれないよ」
「いいやもってかれる。友人知人家族お世話になった先生が醸し出す、『さあ皆で幸せの歌をうたいましょう』『この賛美歌をくらえ』的なカンジででてくる、世にも恥ずかしい空気の流れにのってさ、挙句に逆らえないでさ、あれですよ。結局、指輪とかチュウとか『にくいよご両人!』とかそういうチンケなもんがわたしの人生の主役面しはじめんのがヤダ」

「チンケでもないし、主役面もしないって。それにおらの相棒ちゃんはそんな見えない空気に流されたりしねーよ。強いし、誰とも一緒に歌わないし」
「そうだねえ、そしてそれは励ましですかねえ。それともお説教ですかねえ。よもやプロポーズではあるめえ。……わかったわかった認める。かっくいーおまえの相棒ちゃんはね、今なっさけないなっさけない屁理屈をごねて臆病風に吹かれているわけですよ。あー、何とかしてわたしの近い将来にぶらついてるあの『結婚式』ってやつから、逃げられねーかなー、逃げられんなら、あわよくばぶっ×せないかなーってさ」
「ぶっ×せない。たぶん」
「そうか相棒。そうとわかった以上、わたしゃ無力だよ。クソだよ。さあお説教の続きをどうぞ。公務員のようにどうぞ。横文字もいっぱい使っちゃってくれ。いんてぐりちー、とか、まにゅふぇすと、とか。わしら老いぼれのねーさんにはわからんハイカラな言葉も使っちって、どーぞどーぞ。わたし今あれだよ。……ほらあれ何だっけ。ああくそ、頭ン奥に引っ込みやがる、マタニティブルーとかスカイブルーとかブルートレインとか邪魔をする」

「今のような気持ちのこと? マリッジブルー?」
「言いやがったなテメ。いやたしかにそれだけど、ちがう。相手もいねーしな。人間が人間に寄り添うことから目を背けたくなるよーな、もっともっと根源的な、その……。それをなんだ、いかにもテメエの相棒がわっかりやすいありきたりの悩みを悩んでいるかのごとく言い捨てやがる。どこにでもありふれてる文化人。文明人。日銭を数えたり、蚊取り焚いたり、けつけつしたりこんこんしたり世にも煩わしい社会人の悩みみたく!」
「バカ言えよ」
「バカはおまえだ」
「おらだって、文化なんて大嫌いさね。ホントーは野蛮なやつでよ、そのうち文化財のテンプルでも燃すかもしれん。なにせおら、相棒ちゃんの相棒なんだから」
「ほんとか」
「ほんとさ。大嫌いだから憧れてるだけだよ、複雑なのさ。時にはずっと遠くに見えるものに憧れちゃうこともあるでねえの、一生に一度か二度か三度おめかしして、真っ白くなったりまっ黒くなったりして、いろんな人をびっくりさせたり、ほっとさせたりすることにね。おら、憧れてんのさ。すっごく、憧れてんのさ」

「ちょっと待てよ、おまえ今いいことを言った」
「なにが? 気持は複雑ってとこ?」
「ちがう」
「相棒ちゃん大好きーってとこ?」
「知らねーよww 『びっくりさせたり、ほっとさせたり』だよ」
「それがどした」
「ほっとされるのがイヤなんだ、だからほっとさせるのがイヤなんだよ。得心したわ、『そうだったのねウフフ』って具合に、他人からほっとされることほど心臓に悪いことはねえ」
「じゃ、ぞっとさせるしかないね」
「あたりめえよ」
「願わくば真っ白くなったりまっ黒くなったりして、ぞっとさせたいのだけど」
「考えておく」

「考えておくって言った?」
「どうだか。言ったかもしれないしそうじゃないかもしれない。どうだね新1年生、えらいセンセーの授業、これまでー」
「気を付け―、礼! ありがとーございました」
「OK」
「楽しかったね、結婚の授業ごっこ」
「そんな話、したか?」
「したでよ」
「しかしそれが話の中心だったと自信をもって言えるか」
「おらたちどうも噛み合わんねー。そういう話だと思ったから今それについて蒸し返そうとしてたんだけれど、改めて聞かれるとそんな気がしないね」
「まずはそこから見直してみようや」