星野あざみ短編集
ブルー





もう随分と長いこと、僕はそれを探していた。青い表紙の特別なノートを……。
ことあるごとに文房具の置いてある店やコーナーを片端から見て回った。けれど目的の物は見つからない。表紙にイラストのない、ロゴやマークも大き過ぎない。文字のない。他の色が使われていない。そんな条件を兼ね備えたノートを……。濃過ぎてもいけない。薄過ぎてもいけない。特別な波長を持ったブルー。

それは群青色に似ていると思った。同時に宇宙に似ているとも思った。断片的な記憶。研究とデータファイル。
私が持ち出したのだ。すべてを破壊するために……。
僕が盗んだのだ。世界が書き換えられる前に……。
時はランダムに動いている。次元を越えた船は無数のエリアから僕を追い詰め、記憶を抹消しようとする。

僕が初めてここに来た時は、まだ、記憶を読み取る装置も、記憶を補完するための媒介装置も存在していなかった。その頃、人々は皆、インクを使い、紙に記録を書いていた。だから、僕もノートが欲しかった。すべてを記録するための媒体。青いノートが……。
それは特別な物でなければならなかった。波長はブルーでなければならなかった。だから僕は懸命に探した。しかし、ノートは見つからなかった。
青い大気の中のブルー。
できることなら、書き留めておきたかった。この宇宙の原理とすべての物の在り方を……。僕が知り得るすべての情報を……。
データが破壊されてしまう前に……。
僕が壊される前に……。

彼らは人間に擬態している。
僕は僕自身に擬態している。
データは剥き出しの宇宙から降り注いだ。僕はそれらを素手で掴み、取り込むことができた。君はそれを受け取り、社会に役立てることができる。或いは破壊し、破棄することもできる。今は未来への分岐点。歪んだ未来を修正し、閉じてしまうか。今、目の前の机で青いノートに数式を書き入れている君に託すか。結果が未来を、時間が過去を追い越して行く。流星が僕の身体を蝕んで行く。禁断という科学。レッドウェーブのハンター達に追い詰められた僕は究極の選択を迫られていた。

ブルーノートは見つからない。それは存在してはならぬもの。永遠の罪人が、自らと共に封印し、宇宙の螺旋へと回帰した。永遠のブルー。最初のページには何を書こう。それは宇宙の始まりの詩……。
僕は学校の教室にいて、普通の生徒に擬態している。もう何度目かの始まりを迎え、放課後にはまた、ブルーノートを探している。