第5話 恐怖の大掃除! 今年の汚れは今年のうちに


 師走の街は何となくせわしくて落ち着きがなかった。猫も杓子も先生も走るというこの年末にのんびりどんぶり歩いている宇宙人が一人。その微妙ないでたちはこの星のある物に酷似しているという。そして、彼は皆からこう呼ばれることとなった。

「ハンペーン! どこ行くの?」

大きな袋を抱えた少年が駆けて来て彼を呼んだ。
「やあ。はじめ。それはまた随分大きな荷物だね。君の方こそ何処行くんだい?」
「ゴミ捨て場」
「ごみ?」
「うん。ぼくの家、ゴミ捨て場から遠いから大変なんだ。いつもはお母さんが捨ててくれるんだけど、今日は大掃除でゴミもたくさんあるから手伝ってるんだよ」
「そうか。エライなあ。どれ、重そうだね。おれが持って行ってやるよ」
「でも……」
「遠慮するなって。何しろ、おれは宇宙のヒーローなんだ。こんなゴミくらいチョチョイのチョイと捨てられるのさ」
ハーペンが胸を張る。
「ホント? 助かるよ。ぼく、もう手が痛くなっちゃって……」
とはじめが赤くなった手を開いて見せた。
「おー、すごく頑張ったんだな。でも、もう大丈夫。このハーペン様が来たからには、君に辛い思いなどさせはしない」
と更に胸を張る。
「ありがとう」
とお礼を言うはじめ。

「ちょっと! あんた、見慣れない顔だね。そのゴミの袋、中身を見せてちょうだい。ちゃんと分別が出来てるか確かめるんだから……」
と、いきなり大またでやって来たおばさんが、ずずいと前に出て、ハーペンがぶら下げていたゴミ袋をむんずと掴んで鼻をひくつかせながら中を覗いた。
「ほら見ぃ。言わんこっちゃない。プラゴミが混ざってるじゃないか! 今日は燃えるゴミの日なんだかんね! プラゴミは燃えないゴミの日に出してちょうだい」
「ブラもみだって? おばさん、そんな大胆な……。いくらおれでもおばさんはちょっと遠慮したいぞ。出来ればもっと若くて可愛い女の子がいいんだぞ」
「ハンペン!」
はじめにつつかれ、慌ててゴホンと咳払いする。
「いや、もとい、おれはヒーローだからな。ブラもみなんて恥ずかしくてやりたくても出来ない立場にあるんだぞ」
「プラゴミだよ」
と呆れるはじめ。
「ああ、プラノミってか? そいつはどんなノミなんだい? 何だかとってもかゆかったりして……」

「いい加減におし!」
ハーペンの言葉におばさんはここぞとばかりに大声で喚いた。
「いい加減ったって、どの辺りが丁度いいのかわからないぞ」
「やだよ、あんた、日本語も読めないのかい? ここに表示が書いてあるだろう? とにかく、このティッシュ箱とヨーグルトの容器はプラだかんね。持って帰ってもらうよ」
とゴミ袋を引っくり返してそれらを無理に渡してくる。

そして、おばさんは更に細かくゴミの中身を見て言った。
「何だい? こんなにお菓子の箱やティッシューペーパーが……! しょうがないねえ。無駄に使ってばかり……。あーあ、もったいないったらありゃしない。今時の若いもんは無駄使いばかりするんだからね。ほら、こりゃ、満点屋のレシートじゃないか。まんじゅう10個も買ったのかい? あらら、こっちにはスーパーのレシート……。こんなに買い物して……。やだ! こんな高いおさしみ買ってんの? あたしゃ、生まれてこのかた、こんな高い物食った事がないよ。ああ、悔しいっ! こんな微妙なくせして贅沢な……。もったいないったらありゃしない。こんなに無駄使いばかりしてるからゴミがたくさん出るんだよ。あーあー、ホントにバカみたいに高い物買っちゃってる! 飲み物や食べ物にかけ過ぎじゃない? 贅沢ばかりしてるからどんどん体がバカになっちまって、こんな微妙な姿になっちまうんだよ」
おばさんは更にゴミの袋をあさって粗探しに夢中になっていた。

「おい、はじめ。このおばさんは誰なんだ?」
「団地の三村さんだよ。いつもゴミ捨て場にたむろしてるんだってお母さんが言ってた」
はじめがヒソヒソとハーペンの耳元に囁く。
「ふむふむ。そんなにゴミ捨て場が好きなのか? それはまた随分変わった人だなあ。将来はゴミと結婚でもしたいのかね?」
と言ってガハハと笑う。それを三村が横目で睨む。

「おばさん、このティッシュの箱はプラじゃないよ。この間、学校の工作で使った時、先生がこれは紙で出来てるって言ってたもの」
と、はじめが言った。
「んまあ! あんた、子供のくせに大人に意見しようっての? 生意気よ!」
三村の剣幕に一瞬怯んだはじめだったが、彼は正直に言った。
「でも、これは紙だよ。それにこのヨーグルトの容器も……」
それを聞くと、おばさんの顔は真っ赤に膨れた。
「お黙り! まったく、親の顔が見たいもんだね! このくそ生意気なガキが……!」
「だって本当のことだもん」
はじめが主張する。と、三村はますます猿山の猿のようにキイキイ喚いた。
「プラだと言ったらプラなのよ! あたしがプラだって言ってんだから間違いないの!」
すごい剣幕で拳をブンブン振り回して来るおばさんに狂気を感じて彼は怯えた。
「いやだ。この人、怖いよ……」
はじめが泣きべそをかいてハーペンの後ろに隠れる。

「ちょっと! おばさん、子供に怒鳴ってどうするんだよ?」
と、遂に黙って見ている訳には行かないぞとばかりにハーペンが口を突き出して言った。
「何だい? おでんもどきは引っ込んでおいで! あたしゃ、この子に社会のルールを教えてるんだ」
とガミガミ言うおばさんの前にサッと緑の影が近づいて言った。
「それはどうかな? 私には、その子が言ってる事の方が正しいように思うのだが……」
「そうだそうだ! 兄ちゃん、このおばさんの方が間違ってるぞ。このティッシュ箱とヨーグルトの容器は紙で出来てるんだ。おれ、この間、ゴミを集めに来ていた役所のおじさんにちゃんと訊いたんだもん」
振り向くとメノンとヤキチョバが大きなゴミ袋をぶら下げて立っていた。

「な、何なの? あんた達は……! このあたしが間違ってるって言うの? なら、証拠を見せてよ」
強気に言うおばさんにメノンは冷静に言った。
「まず、このティッシュの箱……、この部分はプラスチックだと明記してある」
「ほら、ごらんなさい」
と得意気に言うおばさんにメノンが手で静止して言うった。
「が、それは、あくまで取り出し口の一部に過ぎない。そして、その部分はきれいに切り取られている。つまり、きちんと分別されているのだ。そして、このヨーグルトの容器。一見ツルツルでプラスチックのように見えるが、実はこのように簡単に手で破く事が出来るのだ。しかも、燃える。つまり、この容器は紙を加工して作られている物。つまり、少年は間違っていない事が証明された」

「そうだそうだ! すごいぞ、兄ちゃん」
とヤキチョバも加勢する。
「ふうむ。なるほど。わかったぞ。これはどう見てもおばさんが悪い」
とハーペンが自信たっぷりに胸を張りまくって言った。
「それに、このおばさん、人の家のゴミを覗き見するって評判のいやな奴だぞ、兄ちゃん」
ヤキチョバが告げ口する。
「そうだそうだ! 今もはじめの家のゴミを覗いてたぞ」
とハーペン。
「そう言えば、昨日、わたし達もこのおばさんに注意されちゃったのよ。ねえ、チョクちゃん」
「そうよ。しかも、明らかにこのおばさんの方が間違ってたのにね、レージュンちゃん」
いつの間にかやって来た二人も言った。それぞれが手に小さなゴミ袋を提げている。
「そうよ! その人、いつも間違った事言って来るから、みんな頭に来てるのよ」
つぼねおばさんがどんと大きな袋を持って来て言った。

「ちょっと、あんた! 言うにことかいて嫌われてるとは何よ? あたしゃ、みんなのためを思ってわざわざこんないやな役回りをやってあげてんのよ!」
「いやならやめればいいのに……」
と、はじめが言った。
「そうよ。誰も無理にお願いなんかしていませんからね」
つぼねが言った。
「何言ってんの! みんながやりたがらないからやってあげてんじゃない。そもそも、みんながルールを守らないからいけないのよ!」
「だから、あんたが間違ってるんだって……。みんなはちゃんと決められた通りに出してるような気がするぞ」
と、ハーペンが言った。
「そうだそうだ。おばさん、日本語もちゃんと読めないんだろう?」
ヤキチョバがヤイヤイとステップを踏みながらはやしたてる。
「そう! ……って言うかレージュンちゃん」
「それってヤキチョバちゃんにだけは言われたくないって感じね、チョクちゃん」
二人は小さなゴミ袋をチョコンと二つ仲良く並べて置いた。と、そこへリンゴンガンゴンガラガラドンと調子っぱずれのオルゴールを響かせてゴミの回収車がやって来た。

「おじさん、いつもありがとう」
はじめが言うとおじさんもニコニコ笑って
「ありがとう」
と言った。
「本当にご苦労様です」
とメノンも言った。
「なあに、仕事だからね。街がきれいになって、みんながいい気分で過ごせるのが一番だよ」
と笑う。

「そうか! よし! おれもヒーローとして、街の中をきれいにするぞ」
ハーペンが言った。
「おい、ストリクト星人、おまえらも協力しろ」
ハーペンがエラそうに言った。
「えーっ? やだね。せっかく部屋もきれいにしたところなんだ。おれは、これから公園に行って遊ぶんだもんね」
ヤキチョバが言った。
「わたし達はまだお部屋の片付け残ってるし、ねえ、チョクちゃん」
「そうそう。そのあとはもっと地球のことを知るために図書館へ行くんだし、ねえ、レージュンちゃん」
と相変わらず密着している二人が言った。
「おい、メノン」
ハーペンが言うと彼は冷静に言った。
「無理だな。今日は、いつもの掃除ではない。年末大掃除をしているのだ。普段なら見逃していた電気の傘の上や桟の上に積もった埃なども丁寧に落とさねばならない」
「チェッ! 何だい何だい! そんならいいよ。はじめ君は来てくれるよね?」
「それがだめなんだ」
「どうしてだい?」
「今日は家も大掃除をしてるんだ。だから、ぼくももっと手伝わなきゃ……ごめんね」
とはじめは言って帰って行った。

独り残されたハーペンの頭上でまたざーとらしく鳴くカラスが1羽。
「ちょっと! あんたもボケッとしてないで自分の家の大掃除くらいしたらどうだい? 自分の頭のハエも追えないうちによそ様のことなんか言えないだろ? 今年の汚れは今年のうちに落とさなきゃ、いい年が向かえらんないよ」
つぼねがばんっとその背中を叩く。と、その勢いにつんのめり、またまたこの間貼ったばかりの尻が裂けた。
「あー、やだ! また尻裂け男がいるッ」
「ホントだぁ。ゴミ捨て場で何やってんのかしら?」
「まさか、残飯あさってるとか?」
「きゃん! やめて! エグいよ。おでんがおでんあさってるなんて……」
どっちがどっちかあまり明白でない女子高生のゆうとメイがキャイキャイ言いながら通り過ぎて行く。

「ああ、何てこった。宇宙一強くてカッコいいヒーローのおれ様が……この星では何て冴えなくて惨めなんだ。運命を呪いますよ、隊長」
とそこにたまたま生えていた細い葉っぱをペシペシと叩いて言った。
「ホントだよ。あんな訳のわからないメロンパンややきそばパンの怪人なんかが出て来たのが悪いんだ。わたしゃ、絶対間違ってなんかいないんだかんね。今に見てなよ。あいつらみんなまとめてゴミ回収車に放り込んでやっからね」
もう帰ったのかと思った怪獣ミムラーがしぶとく残っていたのだ。
「ゴミの分別まだまだやるかんね。そんでもって人の家の秘密をあばいてやるんだ。おっと、こうしちゃいらんないよ。今日はスーパーでバナナの安売りするんだった」
グオオーと叫ぶとおばさんは装甲車のような迫力でスーパーに向かってぶっ飛んで行った。

 「おい、そこのスーパーで安売りのバナナを買って来たぞ」
ハーペンが言った。
「おお、何という事だ。このバナナ、まるでお肌の曲がり角をとうに過ぎたような斑点がポツポツ出ているではないか」
オダイコンが顔を顰めて言った。
「斑点? でも、まだ食えるよ」
と大事そうに抱えて皮を剥く。
「私は遠慮しておく。先程、ファンからフルーツの差し入れがあったのだ。りんごにオレンジ、バナナもあったが、まるで私のようにすべすべとした一点のしみもない美しい黄色いお肌に覆われていた」
「なら、それ食えば? だったら、このバナナちゃんはみーんなおれのだもんね」
とギュッと強く抱きしめる。

「おい、何やってるんだ? ハンペン。バナナなんぞ抱きしめて……ぐちゃぐちゃになっちまうぞ。それでなくともハンペンなんてものはぐちゃぐちゃしてんだから収集がつかないだろう」
豪助が言った。
「そうか。バナナちゃんもこのおれに似てデリケートなんだよな」
「何? バリケード?」
「デリケートだ!」
「そうか。フリチ○マーケットか。なら、そこのスーパーの駐車場で明日からだぞ」
「おい、豪助、それって何だ? フリ○ンマーケットって?」
「フリママーケットだ」
「フリンマーケット?」
「そう。略してフリマだ」
「そうか。ヤバイのか」
「そうだ。実はな、そこに行くとヤバイ物がたくさん売ってるんだ。パンツとかボムとか、脱ぎ捨てられた女の服とか、パンツとか、もう使えなくなっちまったダンナとか、パンツとか……いろいろだ」
と声を潜めて言う豪助。
「要は古着や飽きてしまったブランドバックや元彼にもらったけどもう思い出したくもない指輪とか、センスのない彼にもらったダサイネックレスとか、それでもただで捨てるにはもったいないから捨て値で売っちゃえとか、いろいろな物が売りに出されているのだよ」
オダイコンが声を強めて言った。
「おまえ、なかなかリアルだな。経験あるのか?」
「ある筈がなかろう。私は貴様とは違う。常に最新のファッションと最高のセンスを兼ね備えているオダイコンであるぞ」

「きゃあ! オダイコン様、ステキ!」
「オダイコン様、こっち向いて」
いつの間にか道場の窓からゆうとメイが覗いている。
「こらっ! そんな所から覗くんじゃない」
豪助が注意する。
「そいや、あのおばさんも覗いてたけど、女って覗きたいものなのかね?」
ハーペンが2本目のバナナを頬張りながら言った。
「きゃ! いやん! あんなオバンといっしょにしないで」
「そうよ! わたし達に必要なものはオダイコン様のような美しい殿方だけよ」
と騒がしい。
「おまえらも今日くらい早く家に帰って母ちゃんの大掃除の手伝いでもせんかい」
豪助が言った。

「あーら、家なんかもうとっくに終わってるもんね、大掃除。業者さんが来て何処もかしこもピッカピカにしてってくれたわ」
「そうそう。便利よね。今や面倒な水周りやなんかもプロが磨いて新品みたいにしてくれるのよ」
「何と! そうであったか。おれの所も頼もうかなあ」
と豪助が電話帳で探しているのを見て、ユウがササッと携帯を取り出し、検索してくれた。
「ほら、ここよ」
言われた業者へ電話すると、年内はとても無理と断られた。

「仕方がない。やはり、今年はおれ達の力を合わせて実行しよう」
豪助が二人の宇宙人の手を取った。が、
「あー、だめよ! オダイコン様にお掃除なんか似合わない」
メイが言ってオダイコンの手を掴む。
「ささ、早くこっちへ。汚れ仕事は彼らに任せておけばよいのですわ」
二人に連れられてオダイコンは行ってしまった。

「仕方がない。大掃除はおれ達二人でがんばろう」
豪助が言った。
「おうよ! ところで大掃除って何だ?」
「普通のそうじがもっと大きくなったやつだ」
「そうか。それじゃあ、ほうきや掃除機もでかいのか?」
「そうだ。うんとでかいから大変なんだ。埃やゴミがたまりにたまって今やすごい事になっておる」
「怪獣ミムラーみたいにか?」
「そう。怪獣ミムラーみたいにだ。って、何でおまえ、その事を知っている?」
「実は、ついさっき、そこのゴミ捨て場で遭遇した」
「そうか。遭遇したか」
と同情的な目をして言った。
「それは幸い中の不幸であったな」
と珍しくシリアスな顔で豪助が言った。

「で、大掃除の件だが、おまえ、宇宙人なら、地球にはないすごい奴とか持ってないのか?」
「すごい奴とは?」
「ボタン一つで何でも吸い込む魔法の掃除機とか」
「ああ、持っているとも。オーデンアームの力はどんな奇跡でも起こせる無限の力だ」
「おおっ! さすがはおでん。で、どうするんだ?」
「おれは、今から掃除機と合体する」
「何! 掃除機と?」
「そうだ。何でこのような事にもっと早く気がつかなかったのだろうかと、おれは微妙に後悔したぞ」
すっくと立ったハーペンは道場の隅にひっそり置かれた掃除用具入れの前に立った。そして、そこにあった掃除機に向かって叫んだ。

「おれに力を貸してくれ! あまりに汚いこの家と街と人の心をクリーンにするために!」
と同時に、ハーペンの周りに微妙な光が現れてアーマーが現れた。そして、いつものようにシャキーンと合体する。

「ワッハッハッ。正義のお掃除戦士、ボルダーガイン参上!」
それは、まるで家電量販店で在庫超過のため、捨て値の赤札処分市に山積みされた安っぽいクリーナーにしか見えなかった。が、体はでかい。吸い込み容量はかなりありそうだ。
「よし! これなら、家中のゴミを吸い込んでくれそうだな。では、あとはよろしく。頼んだぞ。正義のお掃除ヒーローよ」
「おうっ!」
ハーペンが尻からしっぽのように垂れ下がった吸い込み口のホースをブラブラさせながら拳を高く振り上げた。

「よし、行け! ハンペン。世の中の全てのゴミや埃と化す悪を吸い込んでしまえ!」
と豪助は支持して出て行った。
「よーし! こうなったら徹底的にきれいにするぞ! まずはスイッチオン! ハーペン、行きまーす!」
と叫ぶなりドドドドと道場の中を失踪した。微妙に尻を振りながらウインウインと垂れ下がったホースの先からあらゆるゴミが吸い込まれて行く様は何ともこっけいであり、惨めだった。が、そんな微妙な姿をしているにも関わらず、その仕事率は凄まじく、みるみる床も畳もピカピカになって行く。壁も天井も屋根瓦までピカピカのツルツルである。そして、遂に豪助の家の何もかもを吸い尽くして、何もなくなってしまうと、ハーペンは街へと繰り出した。

「やだ、あれ、何? おでん? それとも掃除機?」
「何か微妙。ハンペンになりたいのか、バキュームカーを目指すのかハッキリしてって感じ」
ゆうとメイが目ざとく見つけて言った。

「ああ、そこの掃除機屋さん、ちょっと来てここやってくれない?」
つぼねが言った。
「ほい来た、任せといてくれってばダンナ。おれは宇宙の掃除屋さん。おれに吸えない物はない」
ハーペンはつぼねが持て余していた物置もたちまちピカピカのツルツルにして感謝された。
「ありがとう。ホント、助かったよ。何処の誰だか知らないけど、これ、ホントはダンナの分の焼き芋だったんだけど、よかったら食べて」
と大きな芋をくれた。
「いや、お礼なんかとんでもない。おれは、みんなの役に立てるのが1番なんだ。あなたの笑顔だけで十分ですよ」
と言って笑いながら駆けて行く。その度に尻のホースが揺れてウインウインと道路の隅々まできれいにして行った。
「何てまあ。今時、めずらしい掃除屋さんだねえ」
とつぼねはダンナにやるはずだった芋をパクリと食べた。

「あーっ! 兄ちゃん、あんな所に掃除機のお化けがいるぞ」
ヤキチョバが言った。
「何? お化けだって? 何を言ってる、弟よ。時は21世紀。出遅れた地球人でさえ、宇宙へと進出しようという科学の時代に……」
「だって、兄ちゃん、あれってどう見てもメイビー星人のように微妙だぞ」
「確かに。あれは、何とメイビー星のハンペンではないか。どうした? ハンペン、血迷ったか?」
メノンが言った。
「何? マヨネーズごはんは大好きだぞ。いつも3杯はお代わりして豪助がいやな顔をするんだ」
ハーペンの言葉にメノンが呆れる。
「当然だ。羞恥心のない奴とは付き合えん」
「兄ちゃん、まさか、ハンペンに気があったなんて、おれショック感じた」
「どういう意味だ? ヤキチョバ」
「だって、今、ハンペンと付き合いたいって言ったぞ」
「言ってないから……」
メノンが落ち込む。
「そんな事より、ほら、このゴミも捨てて来い」
「えーっ。こんな大きなのいやだよ。重いし、臭いし、手が汚れちゃうもん」
と駄々をこねるヤキチョバにハーペンが言った。
「大丈夫。全てはおれに任せなさい」

そして、ハーペンはグググイーンと出力を超電磁パワフルモードにセットした。
「すっげぇ! 兄ちゃん、すごいよ。あんな大きなゴミがどんどんハンペンの中に消えて行く」
ヤキチョバが叫んだ。
「ワッハッハ。見たか。ストリクトの諸君。メイビー星の恐るべき底力を」
「ところで、ハンペン、吸い込んだゴミはどうしてるんだ? ホントに食ってるのか?」
ヤキチョバの素朴な問いに答えようと振り向いた時、
「見つけたかんね。やきそばメロン! さっきはよくも恥をかかせてくれたね! ここであったが100年目! みんなまとめてゴミ袋に詰めてゴミ回収車に乗っけて持ってってもらっちゃうんだかんね」
と大怪獣ミムラーがぶんぶん腕と首を振り回して突進して来た。

「危ない!」

メノンとヤキチョバはうまくよけたが、ハーペンは尻のホースが引っ掛かってよけられなかった。どっしーん! ガチャンバゴンズガガガゴーンと派手な音立てて激突した。
その拍子にハーペンの合体は解け、今まで吸い込んだ大量のゴミを撒き散らしながらイカレたアーマーがミムラーと合体し、そのままぶっ飛んでゴミ回収車の天井にペコンとハマった。
「あー、おれのアーマーが……!」
慌ててあとを追うハーペン。リンゴンガンゴンと半分壊れたオルゴールを鳴らしながら走り去る回収車……。
「兄ちゃん、おばさんも回収されて行ったぞ」
「ああ。よかったな。弟よ。これで、この町内も来年からは平和な街になるだろう」
遠ざかるオルゴールにカラスの鳴き声とハーペンの悲し気な叫びが重なる。
「アーマーを返せーっ! それに、やっぱり焼き芋食べたかったよぉ!」

つづく