星野あざみ短編集
手の中の小鳥





君は僕の手の中で遊ぶ。本物の空を羽ばたいて飛ぶことはない。口移しで餌を食み、口移しで愛を歌う。僕だけの小さな命。
他の何を失ったって構わない。けど、君だけは絶対に失いたくないんだ。だから、僕はいつも君をポケットに入れて持ち歩いた。いつだって君だけを思い、君だけを見ている。だから君も、どうか僕だけを見つめていておくれ。君の瞳に映るのは、漆黒の空に浮かぶ夕暮れ。でも、僕の心には、くっきりと君の輪郭が刻まれている。たとえ地獄の炎で焼かれたとしても、決して消えることはない。君の傍にいるだけで、僕は満足してしまう。地位も名誉も何もいらない。富だって今すぐ投げ捨ててやる。君だけなんだ。君だけが僕のすべて。そのために生きて来た。いつまでもこうしていたい。この指で髪を梳き、背を抱き、何もかも綿菓子のように絡め取ってしまいたい。そして、君を味わう。嗚呼、君のすべては僕のものだ。柔らかく、温かい命。僕の名前を呼ぶ時のやさしい声。うち震えながら僕の胸に顔を埋める。君の艶めかしい命が僕のすべての感覚を魅了する。
昔、青い鳥がいました。けれど、鳥は籠の中で死んでしまいました。それはきっと僕が餌をやり忘れたせいだね。それとも、僕があまりに強く握り締めたせいかしら? 
羽ばたけなかった鳥。失ってしまった幸せに、取りすがって泣いた。
でも、今度は絶対に上手く行く。僕らは命の契約を結んだ。一蓮托生の命。僕らは一つ。夢を見るのもこの場所で……。僕らは同じ愛に生き、僕らは出会う。何度でも……。
誰も知らない運命の中で、君は僕の手のひらの上。僕はそんな君をじっと見つめた。そして、君はそんな僕を心で感じる。僕らが腰掛けたソファーは、まるで箱舟のようだね。時間という波に揺られ、遠く銀河まで旅する。
嗚呼 何という幸せ。
何という予感……。
嗚呼 もっと強く!強く僕を愛して!
華奢で儚い君の身体に爪を立て、濡れる指先で君を抉じ開け、切り裂いてしまいたい……!
愛するが故に……愛されたいが故に……!
僕らは、灼熱の炎に身を焦がして行った。
感情を抑えることなんてできなかった。
理性に立ち返ることなんかできずに、僕は闇の小鳥を隠蔽した。
飛び立とうとする前に羽を毟り、口を塞ぎ、目を閉じた。
そして、誰にも見つからないように、そっと手の中に封印した。
嗚呼 僕の小鳥。可愛い小鳥。可哀想に……。
僕のためだけに囀り続けてくれたのに……。
だけど、君はもうずっと僕のものだ。飛べない君の羽ばたきを、罪深い僕の心が聞いた。そして、耳の奥に響く囀りを噛み締めながら、僕は生きる。脈打つ度に迸る赤い血と共に、君への愛の証を刻み続けながら……。