火炎と水流
―交流編―
#2 水に流せない濡れ衣の話
「授業参観?」
夕飯の食卓を囲んでいた時だった。水流がおもむろに鞄からプリントを出して言った。それを聞いて火炎が聞き返したのだ。
「うん。そう。朝っての5時間目だってさ。詳しいことはこれに書いてあんだと」
水流はごはんを頬張りながら言った。
「急に言われても、その日は仕事だ。休めないぞ」
火炎は気に入らなそうにプリントを脇に押し退けた。
「火炎、来れないの?」
桃香がべそをかいてその顔を覗く。
「そんなことはないよ。桃ちゃんの授業参観には必ず行くから心配しないで」
と笑う。
「何だよ? それ。授業参観は同じ5時間目なんだぞ」
「そうか。なら、当然、1年生の教室へ行くさ」
「半分ずつ出ればいいじゃん」
水流が不服そうに頬を膨らませる。
「桃香の方が大事だ。それに、どうせおまえは先生の質問に答えられないだろ? おまえのせいで恥をかくのはごめんだ」
「ちぇっ。はっきり言うなあ。けど、大事な話があるから、ぜひ来て欲しいって烏場先生が言ってたぞ」
「烏場先生?」
「ああ。すげえいい先生だよ。今日、理科の実験の時、ちょっとした事件があってさ」
「事件?」
「うん。クラスの男子が女の子のスカートに火をつけちまったんだ。そんで教室中大騒ぎさ。校長とか他の先生達もみんな来るし……」
「火をつけただって?」
火炎が聞きとがめた。
「人間の分際で火を悪さに使うなんて許せん。そんな奴は燃えない火で懲らしめてやろうか」
火炎が言った。
「まあまあ、そんな熱くなるなって。火はすぐに消しとめられたんだし、おいらの活躍で教室だって火事にならなくって済んだんだぜ」
と得意そうな水流。
「活躍だって? おまえ、水の力を使ったのか?」
厳しい顔で火炎が言った。
「仕方ねえだろ? そうしなきゃ大変なことになってたんだぜ。今頃は学校が丸焼けになってたかもしれないんだ」
しゃあしゃあとしている水流に火炎は声を潜めて訊いた。
「それで、誰にも見られていないんだろうな?」
「ああ。バッチリさ。おいらがそんなへまをすると思うかい?」
「思うから言ってるんだ」
その言葉に水流があちゃっと片手で顔を覆う。
「うふふ。水流ってドジだもんね」
桃香も笑う。
「何だよ、ひでえな。桃ちゃんまで……。とことんおいらのこと信頼してねえんだな?」
「当然だ」
火炎が言う。
「とにかくさ、そんなこともあって、6年1組の父母の方にはぜひ出席して欲しいんだってさ」
「おれはおまえの父母じゃないぞ」
「けど、保護者にはちげえねえだろ?」
「ほざけ。おまえはあくまでも同居人なんだからな。身分の程をわきまえろ」
「身分だって? それって差別発言じゃん」
「何?」
「先生が言ってたぜ。昔にはそういう身分の差とかがあって結婚したくても自由にならなかったこともあったけど、今は自由の時代なんだから、そんなこと言うのは時代錯誤だって」
「ほう。誰と結婚したいって?」
「そりゃ、おいらだって年頃になったら美人でスタイルのいいボインちゃんと……」
ゴニョゴニョと言っている水流に桃香が言った。
「それって差別だよ、水流。女の子は胸の大きさがすべてじゃないんだから。ねえ、火炎、そうだよね?」
桃香の言葉に火炎もうなずく。
「そうさ。やっぱり桃ちゃんは賢いなあ」
「おい、いやらしいぞ。その言い方」
「そんなことないもん。火炎はいい子だもんねえ」
桃香が火炎の頭をなでなでする。と、火炎も満更ではなさそうに目を細めている。
「そうそう。いい子なんだ、おれ。水流とは違ってさ」
「むかっ。なんだいなんだい。おいらだけ退け者にしやがって……。なら、いいよ。先生に言いつけちゃうもんね。火炎は桃ちゃんばっかり可愛がっておいらに冷たくするんですって……」
「言いたきゃ言えよ。どっちが正論かはすぐにわかることだ」
「くそっ。面白くもねえ。ごちそうさまっ!」
さっと立ち上がって出て行こうとする水流に火炎が言った。
「おい、何処へ行く? こんな時間に……」
「へえ、ちっとはおいらのことが気になんのかい?」
と振り向く。
「夕飯の食器洗うの、おまえの当番だろ?」
「ちぇっ。何でえ。そういうことか。やりゃあいいんだろ?」
と言うと水流はガチャガチャと音をさせながら食卓の上の食器をまとめて持って行った。
「おい、乱暴に扱うなよ」
「へん。わかってらい。こう見えてもおいら、水仕事にかけちゃプロ中のプロなんだぜ。任しとけって」
シンクの洗い桶に食器を放り込むと台所用の液体洗剤をチュッと入れてかき混ぜる。と同時にシンクの中は泡だらけになった。家の中にもシャボン玉がふわふわと漂っている。と、次の瞬間。ガチャーンと派手な音がして皿が割れた。
「水流!」
火炎が怒鳴る。
「あは。ごめん。やっちまった。けど、どうせこれ、そこのコンビニの100円コーナーで買ったんだろ? おいら、すぐに行って買って来るよ」
言うなり彼は飛び出した。
「あ、おい、待て! ちゃんと片付けて行かないか!」
台所には洗いかけの食器と泡でいっぱいになったままのシンク。しかも足元には割れた皿が飛び散ったままだ。
「くそっ。これだから言ってるんだ」
火炎がぶつぶつ言いながらあと始末を始めた。
閉店間際に飛び込んだコンビニにはまだ程々に人がいた。仕事帰りの人や学生。そして、いかにも料理の途中で急に調味料が切れているのを思い出し、慌てて飛び込んで来たようなエプロン姿のおばさんもいた。水流は雑貨や文房具の棚を通り過ぎ、100円コーナーへ向かった。
「えっと家にあんのは……この花の絵の付いた皿だな」
水流は中皿を1枚持つとレジに向かった。途中、文房具の棚にあったミニカー型の消しゴムに目が止まった。手にしてみると飾っておきたいくらいよく出来ている。だが、ポケットの中には200円しかない。水流はチッと舌打ちをした。それでは2つの品を買えないことを知っていたからだ。何しろ、最近では物を買う度に消費税というものが取られるようになっていた。その消費税というものが曲者で、100円と書いてあっても100円では買えないのだ。
「ったく。面倒な世の中になっちまったもんだぜ」
手にしたそれを仕方なく棚に戻すと水流は再びレジに向かおうとした。
その時、同じ年くらいの男の子が狭い通路を無理矢理すれ違おうとしてどんとぶつかってきた。
「何だよ、危ねえな。気をつけろよ」
水流が振り向いて言ったが、その子は無視した。そして、次のコーナーで曲がる寸前、さっとその手にさっきの消しゴムを掴んでズボンのポケットに入れた。
「何だよ、あいつ……」
解せない顔で水流はその子の後ろ姿を見送った。しかし、奥に行ったということは、他にもまだ買い物があるのかもしれない。水流は思い直すとレジに進んだ。そして、会計を済まそうとお金を出し、レジのおばさんがおつりを用意している時だった。さっと出口から外へ飛び出して行く子供がいた。さっきの子だ。しかもレジでお金を払った様子はない。とその時、店の男の人がその子を呼び止めた。
「ちょっと、君! 待ちなさい」
手首を掴まれて振り向くその顔を水流は知っていた。今日、教室で見たばかりだからだ。
(あいつだ)
村田淳。あの事件を起こした子だ。
「君、まだお金を払っていない物があるんじゃないかな?」
男は店長だった。淳はじっと男の顔を見上げると言った。
「お金を払うよ。それならいいでしょう?」
彼はポケットから消しゴムとそしてブランド物のサイフを出した。サイフの中には子供のこづかいにしては多過ぎるほど入っている。それを見て店長が訊いた。
「どうしてこんなことするの?」
淳は俯いて、それから顔を上げて言った。
「あいつがやれって言ったから……」
彼は、水流を指差して言った。
「脅されたんだ」
それを聞いて店長の目がキラリと光る。
「何だって?」
水流は驚いた。
そこへつかつかと店長が来た。
「君があの子に命令したのか?」
「ち、違うよ。おいら、そんなことしてねえ」
水流は言ったが、淳はニヤリとして言った。
「うそじゃないよ。証拠はそいつのポケットさ」
「何?」
言われて店長がそこに手を突っ込むと、水流にとっては身に覚えのない物が出てきた。シャーペンの芯だ。触れてもいないそれがどうして自分のポケットに入っているのか水流には見当がつかなかった。ひたすらちがうと主張するしかない。しかし、そこにいた大人は誰も信じてくれなかった。それから、彼は店の奥にある事務室へ連れて行かれた。
そこでいろいろ質問され、親に連絡すると言われた。
「何でだよ? おいらには親なんかいねえし、第一、本当に知らねえんだ。何でそいつがおいらのポケットに入っていたのかも、村田が何でおいらに命令されてやったなんてウソを言うのかも、本当に何も知らねんだよ」
がんとして言い張る水流に店長はため息をついて言った。
「村田君は素直に認めたよ。君も素直になったらどうだい? そしたら、おじさんだってそんなきついこと言ったりしないで済む」
「やってもいねえことをやったなんて言えるかい」
水流がふてくされる。
「困ったなあ。それじゃあ、やっぱりお巡りさんに来てもらうしかないかな?」
「お巡りさんだって?」
動揺する彼に店長は言った。
「学校にも連絡して担任の先生にも来てもらわないといけなくなるよ」
店長は水流が犯人だと決めつけて疑わない。
(くそっ。これじゃ何を言っても堂々巡りだ。かといって火炎にも烏場先生にも迷惑かけらんねえし……。おいら、どうすりゃいいんだ?)
その時、事務員が呼びに来て店長が背中を向けた。
(よし。今だ。水になってずらかっちまえば……)
しかし、それは無理だった。水流本人が消えても服が残ってしまう。ますます厄介なことにもなりかねない。
(ちぇっ。これもみんなあいつのせいだ)
しかし、その問題児は明後日の方を向き、知らんふりしている。
(まったく、何てえ野郎だ。ここを出たらこてんぱんにやっつけてやっからな)
水流は心の中で悪口を言った。すると、ドアの向こうに人影が現れた。烏場先生だった。
「これは先生、ご苦労さまです」
店長が上辺だけの挨拶をする。
「うちの生徒がご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
先生が詫びた。
「聞いたところによりますと、二人共、あなたの受け持ちの生徒だそうですね。一体どうなっているんですかね? 最近は子供の心も荒んでいるようですが、それを指導する教師の質も随分下がっているようですな。このままでは日本の将来もどうなってしまうんだか……」
皮肉たっぷりに店長が言う。が、先生はただ頭を下げているだけだった。
「先生! そんな奴に頭下げる必要なんかねえぞ! そいつに人を見る目なんかまるきりねえんだ。おいらのこと万引きしたと濡れ衣をきせやがって……」
先生の目が水流に注がれる。
「それは本当なのか?」
「ああ。断じてしてねえ」
先生はうなずいてくれた。しかし、店長は譲らない。
「だってねえ、証拠があるんだよ」
「証拠?」
先生の言葉に男は勝ち誇ったように言う。
「この子のポケットから店の品が出てきたんですよ。それに、村田君がこの子の命令を受けて無理矢理万引きをさせられたと証言しているんです。村田君は質問にも素直に答えてくれますし、服装もきちんとしていますしね。とてもうそをつくような子には見えません。父親は外交官、母親はフライトアテンダントで今、外国に行っているのだとか……。どうりでこの子にも品があると思いましたよ」
店長はそう言うと少しばかり烏場に近づいて声を潜めた。
「子供でも妬みってあるんですね」
その男は完全に村田の味方だった。
「ふざけんなよ! 何でおいらがこいつに嫉妬しなきゃなんねえんだ?」
食って掛かろうとする水流。
「落ち着け、谷川」
それを烏場が制した。
「とにかく、この子達には私から厳重に注意をしておきますので、今日のところは何とか穏便に済ませていただく訳には行きませんか?」
先生は何度も頭を下げた。
「まあ、初犯ということもありますし、相手はまだ子供ですしね。先生がそこまでおっしゃるなら、今回だけは目を瞑りましょう。ただし、今回だけですよ。次にあったら必ず警察に突き出しますからね」
男は烏場に言うと振り向いて子供達、いや、どちらかというと水流に向けて強く言った。
「いいな? 君達」
「はい」
村田はしおらしく、水流は渋々返事した。そして、先生はまた頭を下げて二人をそれぞれの家まで送ってくれた。
が、村田の家は留守だった。先生は彼が家に入るのを確かめると水流をアパートまで送ってくれた。
「ただいま」
水流がドアを開けると中から火炎が怒鳴った。
「水流! 一体何処をほっつき歩いてたんだ? 今何時だと思ってる? 桃香はもう待ちくたびれて眠ってしまったぞ」
「悪い。実はさ……」
水流がしょんぼりと言う。玄関口に出て来た火炎が水流の背後に立つ男を見て言った。
「あ、あなたは……」
「今晩は。夜遅くにすみません。おれは谷川君の担任の烏場と申します」
「あなたが……」
二人は一瞬だけ視線を交わし、それからすぐに火炎が言った。
「まあ、とりあえず中へ入ってください」
それから烏場は部屋に上がると、そこいら中に積まれた本の背表紙を興味深そうに読んでいた。水流は珍しくしんみりと座っている。そこへ火炎がお茶を入れて持ってきた。
「何かあったんですね」
「ええ、実は……」
先生が簡単にそれまでの事情を説明してくれた。
「けど、おいら絶対やってねえんだ。信じてくれよ」
泣きそうな顔で水流が訴える。
「信じるさ。バカ正直のおまえにそんな器用な真似ができるはずがない」
と言う火炎に、烏場もうなずく。
「よかった。火炎に信じてもらえて……」
ほっとする水流に火炎が意地悪く言う。
「おれのことが信じられないなら出て行け。おれを信じられないなら、おれもおまえを信じん」
「火炎……」
不安そうな水流。
「はは。相変わらず厳しいんだな、火炎、おまえは……」
烏場が言った。
「え?」
水流が解せない顔で二人を見る。
「それに随分勉強熱心なんだな。感心したよ」
烏場がうれしそうな表情で近くにあった心理学の本をパラパラめくる。
「え? どういうことだよ? 先生は火炎のこと知ってんの?」
水流が訊く。
「ああ。昔、まだこの日本に侍がいた頃だったかな? 彼はおれが教えたどの生徒よりも勉強熱心で優秀な生徒だった」
「何だって? そんじゃあ、先生ももしかして……」
「ああ。そうだよ。君達の仲間だ。何だ、水流。おまえ、気づいてたんじゃなかったのか?」
当然のように烏場が言った。そんな彼を見て火炎が微笑する。
「ほんと。お久し振りです。でも、おれだってまさかと思いましたよ。いつから名前を変えたんですか? 飛丸先生」
火炎が言った。
「飛丸だって?」
水流が言った。
「おいおい、そんな大声で言うなよ。嬢ちゃんが起きてしまうよ」
「だってさあ」
「ははは。この時代にいくら何でも『とびまる』ってのは合わないだろう? ちょっと現代っぽくしてみたのさ」
「えーっ? 名前って勝手に変えてもいいのかよ?」
「本質を変えなければね。飛丸も翼も本質は飛ぶことにある。まあ、国語力のあるおれだからこそってのもあるけどな」
とちょっぴり自慢しつつ笑った。
「なあんだ。そんで、最初からおいらのこと知ってるみてえな態度してたのか」
「そりゃ丸わかりだろう。君のように未熟な妖怪が混じったらね。だが、自ら学ぼうというのはよい心掛けだ。おれとしても大いに歓迎。協力するよ」
「ほんと? おいら、ちゃんと字が読めるようになるかな?」
「なるさ。火炎だって最初から読み書きができた訳じゃない。誰だって最初は初心者なんだ」
「そうか。おいら自信持てたぞ」
水流はすっかり気をよくした。
「それにしても、その村田って子のことが気になりますね」
火炎が言った。
「そうなんだ。前からいろいろ問題を起こしていて、その都度、両親に連絡をしているんだが、いつも忙しいということで会えないんだ。恐らくあの子にしてみれば寂しいんじゃないかと……」
「だからって他人に八つ当たりするなんて卑怯だぞ」
水流が言った。
「その通りだ。だが、何とかあの子を立ち直らせてやりたいんだ。もともとはいい子だったんだよ。去年、妹さんを事故で亡くすまでは……」
「事故?」
「それがまた妖怪絡みでね。佐原建設の……」
「砂地ですか?」
皆まで言わせず火炎が言った。
「そうなんだ」
烏場はうなずいた。
「知っていたのか。佐原建設は最近この辺りの土地を買い占めていてね。村田の家でもかなりの土地を佐原に売却したらしい。だが、それは合法ではなく、かなりあくどい手段で、ほとんど二束三文で買い叩かれたということだ」
「ひっでえことするな。そんな奴、さっさととっつかまえてひでえ目に合わせりゃいいんだ」
水流がいきり立つ。
「おまえが言うか?」
火炎が冷ややかに笑う。
「そいで、どうなったんだい?」
水流が気をそらそうと烏場の方に向き直って訊いた。
「可哀想に、村田の妹はその土地に出入りしていた重機と接触して……。そこに彼女が大切に育てていた花があったんだそうだ」
「そんな……」
水流が表情を歪めた。
「やさしい子だったんですね」
火炎が言った。
「ああ。村田の両親は外国へ行く仕事が多くて、兄妹はいつも二人一緒だったんだそうだ。なのに、その日に限って淳の帰りが遅かった。その時、事故が起きてしまったんだ。以来、彼は学校に来なくなってしまった。余程ショックだったんだろうね。けど、4月になり、学年が変わってから彼はちゃんと登校するようになった。悲しみを乗り越えてくれたんだと思った。だが、彼は変わってしまった。暴言を吐いたり、暴れたり、同級生に暴力を振るったりとやりたい放題。職員室でも手のつけられない問題児として毎日議題に上る程さ」
「愛する者を失って悲しいのはわかります。けど、そんな横暴を働いていいなんてことはない」
火炎が言った。
「そうだね。だが、彼は荒んでしまった。そして、大人のいうことをまるで信じなくなってしまったんだ」
「でも……」
反論しようとする火炎を制して烏場は言った。
「人間の心とは弱いものなんだ。ちょっとしたことで簡単に壊れてしまう」
烏場は少し寂しそうに言った。
「確かに大人は信じらんねえことあるけど……」
――証拠はあるんだ。この子の両親は立派で服装もブランド品だ。それに比べて君は……
店長のたわごとが浮かんで水流はムカついた。
「何で奴はクラスの連中にも八つ当たりしてんだよ? 子供も信じらんねえのか? そんなのひでえよ。悲しいよ。おいら、絶対やつを立ち直らせてやる。あいつと友達になりてえんだ。いいだろ? 先生」
「ああ。君がその気なら協力するよ」
烏場の言葉に水流は心強く思った。
(人間に生まれて、こんなにたくさんの人間に囲まれてんのに、友達がいねえなんて寂し過ぎるじゃねえか。それに、おいらに掛けられた濡れ衣を解いてあのバカ店長に絶対謝ってもらうんだ)
だが、それがそもそもの波乱の始まりだった。
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