3つのエコセーズ
―2 メルヘン―


女の子


あるところに、とても可愛い女の子がいました。
その子は何でも持っていましたが、たった一つだけ持っていないものがありました。
それを探して女の子はどこまでも歩きました。
だけど、それはなかなか見つかりません。
ツバメがくわえて持って行ってしまったのでしょうか?
それとも、お店にあったそれをだれかが買って行ってしまったのでしょうか?
でも、女の子はあきらめませんでした。

大きな山の上から街の明かりに混じっていないか探してみました。
それから深い湖に潜って、底に沈んでいないか確かめました。
けれど、どこにもありません。

女の子は森の奥へ行ってみました。
そこには大きな木の枝がくねくねと茂って不気味でした。
遠くで梟がほうと一声鳴きました。
しかし、他に鳥はいませんでした。
りすもウサギも何もかも
森は緑に覆われてしんと静まり返っているばかり……。

それでも女の子が進んで行くと、そこに小さな家がありました。
それはお菓子の家でした。
魔女がかじった家でした。
女の子はとてもお腹が空いていたので、ちょっぴりその壁をかじりました。
それはチョコとウエハースで出来ていました。
でも、それは魔女がかじったあとだったので残りはほんの少ししかありませんでした。
だから、女の子は扉の鍵を食べました。
鍵がなくなってしまったので、扉が開きました。

向こうの空には花畑が広がっていました。
その逆に、足元には青い空がありました。
女の子は雲を踏まないように気をつけて歩きました。

そのまま空を歩いて行くとどんどん空は夕焼けになって、とうとう暗い夜がきました。
夜はお化けの時間です。
体が透けて光るお化けがやって来て、ダンスをしようと女の子を誘いました。
ほんとのお化けはさみしくて、いつも体が透けているのです。
お化けはみんなから忘れられて、体がすっかり見えなくなってしまっていました。
けれど、やさしい女の子がお化けを見つけてくれたので、半分姿を現したのです。
そして、女の子と手をつなぎ、いっしょに踊るとお化けはお化けでなくなりました。
お化けは人間の男の子になって女の子に言いました。
「ぼくの宝物の宝石をあげるよ」
けれど、女の子は言いました。
「宝石なんかいらないわ」
「なら、空に咲く花を摘んであげるよ」
「でも……。わたしはそのまま空に咲いてるお花が好きなの」
「それじゃあ、星の砂糖菓子をあげるよ」
「でも……」
女の子はうつむきました。
「わたし、砂糖菓子より欲しいものがあるの」
「何?」
「ずっとずっと捜していたの」
女の子が言いました。
「とてもとても大切なものなの」
足元の空を魚がゆっくり泳いでいました。
「忘れてはいけないものだったのに……」
頭の上の地面から虹のように花がパラパラと降ってきました。
「どこに行っても見つからないの」
女の子の涙は男の子の心臓にチクンと突き刺さりました。
痛くて熱くて苦しくなって、男の子はついに溶けてしまいました。
その水を女の子はそっと手で掬いました。
――お願い。ぼくを飲んで
男の子の声がしました。
女の子はとても喉が乾いていたのでその通りにしました。
それは、とても甘い水でした。
すると、また世界は逆さまになりました。
足元で草が揺れ、空には星が瞬いています。
その空から星が降ってきて、世界を照らしました。

足元に落ちた星を一つ拾うと女の子は微笑みました。
「見つけたわ」
そして、その星にやさしくキスをしました。
すると、たちまち空にはおひさまが上り、青い空で満たされました。
そして、手の中の星はいつの間にか男の子の手になっていました。
もうお化けには戻らない本物の人間の手に……。
「さあ、行こう」
男の子が言いました。
「そうね。行きましょう」
女の子も言いました。
そして、二人は笑いながら花畑のずっとずっと向こうまで駆けて行きました。