3つのエコセーズ
―3 カラーズ―


夜汽車


夜。汽車が走る。
ゴトンゴトンと汽車が走る。
四角い貨物を引っ張って、
重い客車を引っ張って
ゴトンゴトンと汽車は行く。
四角い窓が連なって
丸い顔が連なって
想いは何処へ行くんだろう?
僕は何処まで行くんだろう?
大きな荷物を引っ張って
重い鎖を引きずって
夜明けの街を目指してる。
幻の君を目指してる。
大勢の客を乗せ
たくさんの悲しみと憎しみと怒り、
そして、喜びと寂しさを乗せ
汽車は森を走ってる。
一生懸命走ってる。
汽車は海を走ってる。
ブクブク潜って海の底
魔女は森に捨てて来た。
心は海に置いて来た。
だから、もう大丈夫。
僕は僕を連れて来た。
闇に溶けた翼で羽ばたいていた僕
夜空の星と仲良くなって輝いていた僕
そして、あなたの隣でまどろんでいた僕
それから、悪い狼に食べられそうになっていた僕を
みんないっぺんに連れて来て
黒い夜空の汽車に乗せた。
何処まで行くの?
月や星や雲の上
霧や指輪やピアノの脚の
黒い扉の向こうまで
ゴトンゴトンって線路を走る。
ゴトンゴトンって震えてる。
ゴトンゴトン。ゴトンゴトン……。
鯨は何の夢を見る?
ライオンは空を見上げてる?
僕の心臓が鳴っている。
ゴトンゴトン。ゴトンゴトン……。
汽車は何処まで走ってく?
バベルの塔まで走ってく?
届かない空へ……
ゴトンゴトン。ゴトンゴトン……。
人間は鉄の塊で汽車を作り、
僕は積み木で汽車を作った。
そして、僕は木製の線路を壊し、
人間は汽車を壊した。
壊れた汽車は透明のまま走ってく。
ゴトンゴトン。ゴトンゴトン……。
線路のないその場所は
囚われるもののない僕だけの世界……。
だから、この汽車は何処にだって行ける。
机に耳を押し当てた。
すぐ側を通り過ぎる僕の汽車。
ゴトンゴトンと過ぎて行く。
黄色い窓の灯火の列と遠い思い出の汽笛を響かせて……
ゴトンゴトンと汽車が行く。
あれは寝台列車だね。
温かい毛布
そっと掛けてくれた人の手
僕は眠りに落ちて行く……
夢の明かりを灯しながら……
ゴトンゴトン。ゴトンゴトン……
ゴトンゴトン。ゴトンゴトン。
もうあと少しで到着だ。
ゴトンゴトンと速度を落とす。
ゴトン ゴ ト ン……
駅に着いた。
トクントクンと心臓が鳴り、
積み木の部屋であなたが笑う。
今は黄色い窓の中
あなたと過ごす思い出の街……