3つのエコセーズ
―3 カラーズ―


オアシス


確かにそこにあったんだ。
なのにどうして? 見つからない。
ぼくは自分を探せずに
握った指の隙間から
音はどんどんすり抜けた。

おもちゃはみんな出してみた。
宝の箱もみんなだよ。
チェストの中もポケットも
鞄の中も全部見た。
青い地球は逆回転。
壁に車が走ってる。
クローゼットは空っぽで
ぼくの心も空っぽで
いくら呼んでも戻らない。
ねじの緩んだお人形
頭をカクカク揺すってる。
ぼくの前を過ぎる汽車。
偶然振れたスイッチが
眠っていたおもちゃたちを起こした。
汽車は夢いっぱいの貨物を乗せて
空に向かって走ってく。
ぐんぐん ぐんぐん走ってく……。

――グリーンライトドリーム
星降る夢の向こう側……

突然感じたその想い……。
遥か宇宙の闇の底
波打つ光の喜びが
ぼくの心を満たしたの。
燃え立つ炎のメロディーが
ぼくを取り巻いて揺すったよ。
琥珀の中に閉じ込めた
歪んだ歴史のその下で
永遠なる奏者が
虹のクレシェンドを弾いたの。

嗚呼 ああ 嗚呼……
愛しているよ。愛してる……。
ぼくの手はすぐそこに
君の愛は自由に
ぼくの隣で微笑んでいる。
大好きな音楽に抱かれて
瞑ったままの目の奥で
君の残像が微笑んでいる。
オーロラが見えるよ。
ぼくと君のすべてが……

もう一度
ああ もう一度……
ぼくはすべてを投げ打って
そこに神経を集中させた。
指先がそっと鍵盤に触れる度、
君を感じて熱くなる。
心のシリンダーが満たされて
絶頂感に震えてる。
幻想に包まれた君のボディーが
狂おしいまでに欲しくって
甘い蜜のような唇と
乳白色のやさしい夢が
いつだってぼくを楽園に誘う。

「ぼくはここだよ」
どんな時でも君を見てる。
こんなにも身近な場所で
ずっと君だけを奏でているよ。
「だから、お願い! その手でぼくを抱き締めて」
窓を開けて、空を見て、
君を感じたくて、
月に向かって手を伸ばす。
君に向かって想いを馳せる。

譜面台に立てかけた
遠い記憶を思い出せ。
無口な月は夜のまま……。
遠い銀河の果てにある
知らない星で空を見る
誰かの中にいるんだね……。

そうしてそれは銀河を巡り、
魂を巡って、
繋がっていく記憶……。
見上げる瞳の
ブルーライトドリーム
幻想に愛されて
君と戯れた記憶が
いつになくぼくを寂しくさせた。
君が愛したメロディーが
ぼくを離れて螺旋を描く。
ゆっくりゆっくり昇ってく。

その時ぼくらは一つだったね。
淡い幻想の果てに重なった
グリーンライトギャラクシー……
古い楽譜は色褪せて
そこに書かれた符号さえ、
薄れてぼろになっている。
それでも曲は生きていた。
誰かに伝えるそのために
ぼくと出会うそのために
永い時間を越えてきた。
淡い幻想 緑の光……。
光速で回る扉
降り注ぐ光
鍵盤に置かれた指先に
誰かの想いが降り積もる。
鼓動がゆっくり高鳴っていく……。
逆鱗に触れた音符達が渦巻き
ぼくは銀河を貫いて
ぼくはぼくだけの曲を弾く。
そして、
いつか、幻想を貫いてオアシスを目指す。

それは銀河の中の
君の中の
時間の中の
すべての中に隠れてる
永遠の虹……。
繋ぎ合う心……
温かな涙……。
柔らかな星の光の音楽……。
そこでなら、ぼく達は自由に会話が出来た。
そこでなら、ぼく達はわかり合えて、
魂も溶け合って、
二人だけの音楽を奏でた。

光の時間。
君はおもちゃ箱にいた。
黄色いくまとミニカーの間に……
それから木琴とシンデレラの絵本に挟まって
君は白い薔薇を見ていたね。
ぼくはそんな君を手に取って
そっとピアノの上に置いたんだ。
月光が薄い緑に染まってね、
ぼくはそこへ行こうと目を閉じた。
ムーンライトグリーン……。
淡い記憶の向こうから
やさしい人が呼んでいる……。
グリーンライトファンタジー……。
遠い螺旋の向こうから
巡る運命の軌跡……。
希望と絶望の間に開く
遥か未来へ続く扉……。
だけど、ぼくはそこへ行けなかった……。
君を失くしてしまったから……。

細い月が窓の向こうで揺れていた。
魔女は笑って君の幻を映した。
あたかもまだ、君がそこにあるかのように
月は青白く譜面台を照らしていたよ。
だけど、ぼくは知っていた。
もう君は戻らないと……。
ぼくはとても悲しくなって
部屋中、君を探したよ。
心の中も探したよ。
グリーンライトギャラクシー……。
緑の想い……。
切なくて、苦しくて、
叫びそうになって、
世界を一瞬で駆け巡り、
時の彼方まで飛んできた。
グリーンライトドリーム
扉を開けるとそこにあなたがいた。
ここはぼくの家。
あなたの緑色の瞳を見つけて、
ぼくはようやく落ち着いた。

窓明かりの下で
今日もぼくは月光を弾くよ。
けれど、ぼくは思い出せない。
遥かなるグリーン……。
その永遠なる調べを……。
楽譜に綴られた古い想い……
流れた涙は螺旋を描き、
空の銀河と重なって、
ぼくの心にオアシスを作った。
そして、いつか、
あの美しい光へと続く
運命のうねりとなるための記憶を
そこに流れる永遠の音楽を
ぼくは深く魂に刻んだ。