3つのエコセーズ
―2 メルヘン―
篭城
準備は整った
チョコにクッキー
ケーキやパンやバターだって見つけたんだ
飲み物だってちゃんとある
それから大好きなイチゴキャンディー
ハムやチーズやジャムもあるんだ
リンゴにチェリーに
パプリカだって
それからえーとミックスジュース……
バリケードだって完璧だ
だから もう二度とこのドアを開けてやったりしないんだ
もう二度と……
ぼくは怒ってるんだ
すごく怒ってるんだ
たとえどんなに謝ったって
絶対許してやらないんだ
だって ぼくに嘘をついたんだもの
今夜は早く帰ってくるって言ったのに
チェスを教えてくれるって言ったのに……
それで 明日は博物館に行こうって
恐竜の骨を見に行くって
約束したのに……
約束したんだ
なのに
どうして帰って来れないの?
とっても楽しみにしてたのに
絵本も読んでくれるって言ったのに……
――それが大人の事情ってやつさ
誰かが言った
だったら大人になんかならなきゃいいんだ
だから ぼくは大人にならない
可愛いなんて言われたくないけど
でも……
ぼくはずっとぼくのままでいるんだ
大切なものを失くしたくないから……
ずっとこのままでいる……
日が暮れて
人形達はみんな
ドールハウスへ帰ってく
ぼくを無視して帰ってく
ボールが転がる
ヘッドライトが消える
みんな ぼくから離れてく
ワニが威張ったように歩き
電車は連なって
おもちゃの国へ帰ってく……
ぼくはパンにかじりつく
暗闇の中で
ハムやチーズやチョコレート
みーんな食べちゃう
あなたの分なんか残しておいてやらない
この家にある物は全部ぼくのもの
全部ぜーんぶぼくのもの……
雨がぱらぱら降ってきた
風も少し吹いてきた
窓がカタカタ鳴っている
どうして夜はこんなに暗いの?
どうして雨は空から降るの?
どうして風は……
寒くて毛布にくるまって
ぼくはリンゴに噛みついた
絨毯の上には包み紙
食べちゃったお菓子の骸が続く……
時計の針が何度も回り
電車が進めなくて立ち往生してる
ぼくは心の中で立ち往生してる
そして朝
規則正しい靴音が階段を昇ってきた
こんなに早く?
遅くなるって言ったのに……?
ぼくは急いでドアを開けた
「片付けろ」
朝陽の中であなたは言った
「早く支度しないと置いてくぞ」
ぼくは急いで邪魔者たちを部屋の隅に追いやった
「できた」
ぼくが階段を降りて行くとあなたは振り向いて言った
「キッチンにあった食料はどうした?」
「食べちゃった」
ぼくはそっとポケットからキャンディーを出して渡す
「あとこれだけなの」
あなたは手のひらの上に乗った二つのキャンディーを見た
そして 一つをぼくにくれた
「ほら、朝食だ」
そう言ってあなたはキャンディーを剥いて口に入れた
だから ぼくも慌ててそうした
いつの間にか雨は止んで太陽の光が射し込んでいる
篭城はもうおしまい
ぼくたちは博物館に向かった
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