3つのエコセーズ
―2 メルヘン―


世界一の神話


世界一みすぼらしい鳥がいました。
でも、神様は、その鳥に世界一美しい声をお与えになりました。

世界一惨めな色の花が咲いていました。
でも、神様はその花に世界一甘い香りをお与えになりました。

世界一か弱い虫がいました。
でも、神様はその虫に世界一美しい虹の羽をお与えになりました。

世界一貧乏な子供には世界一豊かな心を
世界一不幸な女には世界一やさしい恋人を
神様は平等にお与えになりました。

けれど、人間は醜い生き物です。
強欲のために人を傷つけ、
傲慢な心が涙の尊さを遠ざけるのです。
だから、僕はそんな人間達に罰を与えるのです。
その度傷が増えて行き、
僕の身体は醜くなります。
歪んで腫れて盛り上がり、
どんどん獣になって行く……。
けれど、それでも構いません。
神様は僕に下さいました。
音楽を奏でるこの腕を……。
喜びを感じるこの心を
僕の耳にはいつだって聞こえるのです。
美しい天の響きが
僕を呼ぶ真実の声が
だから、僕は続けるのです。

悲しみが一つ増す度
傷が深く重ければ思いほど
それだけ美しい音を手に入れることができる。
世界一美しい音楽は
世界一悲しい涙から生まれるのかもしれません。

世界一辛い苦しみを乗り越えた時、
人は真実に近づけるのでしょうか?
神様は僕に安らぎをくれるでしょうか?
それとも、
銀のナイフで僕の心臓を抉るのでしょうか?
その時、僕は微笑むのでしょうか?
僕をその手に抱き締めてくれるのでしょうか?
世界一美しい涙を流す人を
僕に下さい。

一つ制裁を与える度に
また一つ傷が増えて
一つメロディーが戻り、
僕はやがてすべての音を手に入れて
この世に完全な音楽を奏でるのです。

汚れた手は聖なる彼女の涙で洗い、
その肌が僕の醜く歪んだ傷を消す。
光はいつか僕達を照らし、
僕はその人の中へ溶けて行く……。
そして、完全なる愛の形へと還るのです。
そこはもう苦しみも悲しみもない満ちた世界……。
僕はその人だけのために音楽を奏で、
その人だけの鼓動を聴いて、
いつまでも同じ夢を見るのです。

世界一醜い心と身体を持った僕がいました。
でも、神様は、そんな僕に真実の愛を下さったのです。
そして、二人はいつか
光に溶けて一つの神話になるのです。