ガイストスキャナー
アクアリウム
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少年はベッドの中でその音を聞いた。耳の奥で繰り返される漣のような低いノイズを……。はじめは、庭のもみの木が風に揺れている音かと思った。しかし、そうではない。この家の周囲を巡る風ならば、たとえ通気口の細い管を通る風であろうと、少年はすべて熟知していた。
夜明けにはまだ間があった。張り詰めたような時を刻むのは机の上のデジタル時計。5秒に一度、微かなため息のような瞬きを漏らす。
壁に掛けられたカレンダーは12月。整然と並んだ数字の中で、24日にだけマジックで丸い印が付けられている。
それは彼の11回目の誕生日だった。
そして、その日には父親が帰って来る。
彼の父は軍人だった。もう何か月も前から中東での任務に就いていた。が、クリスマスイブには帰って来ると連絡があったのだ。少年はそれを楽しみにしていた。
――次の休暇には南の海へ行って、一緒に海へ潜ろう
2年越しになる父との約束。いつか海に潜って美しい魚達の群れを観察したい。それが彼、ジョン フィリップ マグナムの夢だった。
10才になれば、スキューバダイビングができる。そうしたら、資格を取って、自由に海の中を探索する。水族館とは比べ物にならない広大な自然と、そこで暮らす生き物達の神秘が垣間見られるだろう。そして、魚達とともに泳ぐ自分自身の姿を瞼の裏に想像して、彼は幸せな気分になった。
机の上にあるのはコンピューターと帆船の模型。それにトナカイの人形が一つ。大きな棚には、隙間なく並んだ本と、大好きなF14の模型。父は少年を陸軍士官学校へ進学させたかったようだが、どうせ軍隊に入るなら、空軍か海軍の方がいいとジョンは考えていた。
空と海。
どちらが好きかと問われると迷うところもあった。が、あえて言うなら空軍のパイロットがいいと彼は思った。同じ集団であったとしても、戦闘機乗りならば、空では一人になれる。
彼は人とコミュニケーションを取るのは苦手だった。学校でも病院でも、いつも一人、浮いた存在だった。
(そうだ。明日はまた病院に行かなくちゃいけないんだ)
そう思うとジョンは憂鬱になった。
そもそも去年のクリスマスに海へ行き損ねたのもそのせいだった。秋に受けた検査の結果が思わしくなく、そのまま入院することになってしまったからだ。
――ジョン、君の病気は、急性骨髄性白血病というんだ。難しい病気ではあるけれど、治らない病気ではない。だから、頑張って治療を続けて行こう
そう医者から告知されたのは彼が7才の時だった。治療は決して楽ではなかった。何度も入退院を繰り返し、辛い化学療法を受けなければならなかった。薬のせいで髪が抜け、食事も喉を通らず、彼は誰とも口を利かなくなった。同室だった子どもも次々といなくなった。
――みんな、風に連れて逝かれた……
彼は独り、闇の風に怯えていた。それは、恐ろしい死神の衣装を着て病室の隅にいる。そして、夜になるとそっと近づいて、子どもの傍で死の子守唄を歌うのだ。
――次に死ぬのはおまえの番だ。
闇の記憶とエタノール。
白いシーツに鮮血が散り、彼は遠い海の底で、何かを見つけようとしていた。闇の下に潜む二枚合わせの貝に抱かれて眠る記憶を……。
時はゆったりと流れ、波は何度も彼を絶望の淵へと追い詰めた。
しかし、ついにジョンは病魔に打ち勝った。最後に行った放射線治療と薬品の集中投与が成功したのだ。
――頑張った甲斐があったね。結果も良好だし、3年の間、再発しなければ、もう何をやっても大丈夫だよ
ところが、2年が過ぎた去年の夏、突然、ジョンは体調を崩した。そして、秋に受けた検査で病気が再発したことを知った。学校や教会にも通い始め、ようやく地域での生活に慣れて来たところだっただけに、ジョンはもちろん、彼の両親にとっても衝撃は大きかった。
しかし、臍帯血を使った最新の治療を受けた彼は奇跡的に回復した。春の終わりには退院し、今年は再び学校に通えるようになった。そして、この秋からはずっと調子がよかった。明日の検査の結果が良ければ、海へ潜る許可ももらえるかもしれない。
(そうだ。何事もなければ……)
ジョンは小さな希望を胸に抱いた。
その時、絨毯を靴先で踏んだようなミシリという音が聞こえた。
「誰?」
彼はふとベッドの中で目を開けた。そこに映る闇。窓の向こうでは風が唸り声を上げていた。ついてもいない換気扇のプロペラが、乾いた音を立てて空回りしている。ベッドの下では何かが震えるようなザワザワという音が響いていた。
明かりのない部屋に忍び込むのは風の声……。部屋の隅に置かれたトイボックス。そこからはみ出たシルエット。突き出た二本の砲塔は天井に巣喰う闇に向けられていた。
「誰かいるの?」
ジョンは半身を起して周囲を見た。部屋の中を闇の風がゆっくりと動いていた。
「また、誰かが死ぬの?」
少年は背筋に悪寒を覚えた。
「次は……誰が死ぬの?」
それは自分なのかと思うと恐ろしくて、思わず毛布に顔を埋めた。
彼には見えてしまうのだ。人間に不幸を齎す闇の風が……。
「ガイスト……」
その風のことをそう呼称するのだと最近知った。ガイストとは、ドイツ語で「霊魂」を意味する。その語源は「風」。闇の記憶など、負の記憶を持って人類に害を成す風の総称だ。
ジョンは生粋のアメリカ人だった。が、幼い頃から複数の言語を学んでいた。英語は世界共通言語だと言われるが、その国の事情や本音はやはりその国の母語で語られる。真の意味での国際人として将来を見据えるのであれば、的確な情報を得ることは必須である。両親は、彼にとって必要な教育を惜しみなく与えた。
ジョン フィリップは幼い頃から知的好奇心の旺盛な子どもだった。未知なるものへの憧れや探究心も強かった。父親は、そんな彼に早くからコンピューターを与えた。病弱であまり外に出て行けなかった彼にとって、それは素晴らしい贈り物だった。
モニターに映るそれは、まるでネットの海を進む潜水艦の窓のようだとジョンは思った。
――ぼくはまだ本物の海を知らない魚だけれど、コンピューターを使えば、世界中の海を自由に泳ぎ回ることができるんだ
そうして彼はネットの海に夢中になった。そして、今ではコンピューター言語を駆使してオリジナルのゲームソフトを作成できるほどの実力を持つようになっていた。
彼が今、取り組んでいるのは、戦略シュミレーションゲームの開発だ。戦闘機や軍艦、装甲車などのデータを使って緻密な作戦を立て、もし実際に戦争が起きたらどうなるのかという想定のもと、対ロシア、対ドイツ、あるいは、対中国など、複数の国を相手に防衛力や戦闘力などを比較し、作戦を展開するという軍事データソフトである。
設定としては珍しくなかったが、実践に即した緻密なデータと、CGや効果音など細部に渡って精密に作られたソフトで、とても10才の子どもが作ったものだとは思えないほど出来が良かった。彼はネットで無料公開していたが、プレイした者が時折書きこんでくれるコメントを見て満足した。現実の世界ではほとんど友人がいなかった彼にとってやはり、ネットの海は気軽に言葉を交わせる自由な世界だと思えた。
囚われるのはいやだった。家とか学校とか病院に、彼はずっと囚われて来たのだ。特に、あの闇の風であるガイストだけには捕まりたくなかった。あの闇に囚われた者は死ぬ。そうわかっていたから……。いつも彼の周囲には闇の風が屯していた。隙あらば彼に襲い掛かり、喰らい尽くさんとばかりに……。
耳の奥でゴーッと何かが鳴っている。それは身体の中を巡る血液が流れる音……。潮騒に似たその音を、彼は確かに昔、何処かで聞いたことがあると思った。
だが、それがいったい何処だったのか今はもう思い出せない。
「眠れない……」
ジョンはベッドから起き出すと部屋の明かりを点けた。04時50分。外はまだ暗い。彼は椅子の背もたれに掛けてあったガウンを羽織るとそこに座ってコンピューターを起動させた。モニターに一瞬だけ映った彼の顔は少し青ざめて見えた。肩まで伸びた黒髪をすっと二本の指で梳いて微笑した。女の子のようだとからかう者もいたが、彼は気にしなかった。せっかくここまで伸びたのだ。もう二度と薬のせいで抜けて欲しくない。
突然、白い冷たさが頬に落ちた。胸の奥で何かが騒ぐ。背中に感じる悪寒。部屋は冷たい夜気で満ちていた。微かな眩暈。しかし、彼はそのイメージを追い払った。
(ぼくはもう病気じゃない。あそこへは戻らない……)
背後に流れる闇の記憶……。ジョンはその声を聞くまいと耳を塞いだ。
それから約1時間。彼はデータ入力に没頭していた。最新の情報が入手できたのだ。彼は早速そのデータを加え、ゲームの難易度を進化させた。新しいデータが増える度、戦闘能力も変化する。単に攻撃力が強ければ勝つという訳でもない。部隊の配置と仕掛けるタイミングによっては勝敗も変わる。奥の深いゲームだった。
「これは……開発中の最新鋭のステルス戦闘機だ。もう実践で使えるのかな?」
彼は夢中になって新しい情報を求めた。そうしてコンピューターに熱中していると何もかもを忘れていられる。病気のことも検査のことも、そして、闇の風のことも……。
「お早う、ジョン」
母親がドアをノックして入って来た。
「お早う、ママ」
彼は慌てて椅子から立ち上がると、歩き出す前に微かな眩暈を感じた。
「まあ、こんなに早くからコンピューターをしていたの?」
母はさっとカーテンを開け、セントラルヒーターのスイッチを入れた。
「早くに目が覚めてしまったから……」
彼は言い訳した。
「こんなに身体が冷えて……。寒かったでしょう? 食事の支度が出来ているわ。早く下にいらっしゃい」
母親は彼にキスすると階下へ降りて行った。
「はい、ママ……」
光の中に溶けて行く微かな粒子……。それをゆっくりと目で追いながら、ジョンは畏怖を覚えた。闇の風の気配はもうなかった。が、もっと恐ろしい何かが足音も立てずに近づいて来る。そんな気がした。
病院へは母が運転する車で向かった。
――行ってらっしゃい、坊ちゃま。戻られたら、びっくりすることがございますよ
執事のキャンベルが言った。
――わかった! クリスマスツリーだ!
――正解です。そろそろ用意しなければと思っていたんです。一番形のいいもみの木を運んで来ますよ
――飾り付けはぼくにも手伝わせてね
――もちろんです。あの一番上の星はジョン坊ちゃま、あなたのものですよ
――ありがとう。ぼく、楽しみにしてるね
冬になると、マグナム家の裏手にある森から一番のもみの木を切り出してクリスマスツリーとして飾るのが恒例だった。そして、毎年少しずつ飾りを増やして行く。今年はまだ新しい飾りを見つけていなかった。が、クリスマスまでにはまだだいぶある。その間に見つければいいと少年は思った。
車がカーブを切った時、ジョンはまた違和感を感じた。
(何だろう? 少し寒い……。それに……)
再発したのではないかという恐怖が彼の小さな胸を締め付けた。
(そんな筈はない。今度こそ大丈夫だとエルビン先生だって言ったんだもの。きっと昨日の夜、あまり眠れなかったせいだ)
空は快晴。日中になれば気温も上がり、ガイストも影を潜めた。
何もかもが順調だった。すべての検査結果がわかるのは三日後。しかし、ほとんど問題はないだろうとエルビン医師は言った。
「それじゃあ、先生、スキューバダイビングをしてもいいですか?」
ジョンが訊いた。
「スキューバ? そうだね、無理をしなければ多分問題はないだろう」
「ほんとに?」
彼は歓声を上げた。
「ただし、完全にいいかどうかはまだ結果待ちだよ」
「わかっています。でも、ぼくはすごくうれしいんです。だって、クリスマスイブにはパパが帰って来るんだもの。そして、ぼくがずっとやりたかったことをさせてもらえるんだ。ずっと……」
今年は最高のクリスマスになりそうだった。
家に帰ると居間には立派なもみの木が飾られていた。
「キャンベル、すごいや! これ、運ぶの大変だったでしょう?」
ジョンはツリーを見上げて言った。
「バルドーラが手伝ってくれましたから……」
キャンベルが言った。
バルドーラは家で飼っているセントバーナードだ。大きくて力があるので重い荷物を運ぶ時などには荷車を引くのを手伝ってくれる。しかし、気まぐれな性格をしているので、手伝うというより、邪魔したり、遊んだりしていると言った方が近かった。しかし、バルドーラが皆に愛されているのは確かだ。大きな体に愛嬌のある瞳。甘えん坊で食いしん坊のその犬が、ジョンも大好きだった。
「ぼく、バルドーラにもお礼を言って来るよ」
そう言うとジョンは庭へ出て行った。
「バルドーラ! おまえ、今日はもみの木を運ぶのを手伝ってくれたんだって? ありがとう」
裏庭の芝生の上で寝転んでいたバルドーラはジョンの姿を見るとしっぽを振って飛んで来た。そして、自分よりも小さな主人の顔や手をぺろぺろとなめ回す。
「あはは。よしてよ、バル。くすぐったいよ」
こうして飼い犬と戯れていると、不安なこともいやなこともみんな忘れられた。
「ずっとおまえとこうしていられたらいいのにね」
夕闇が微かに目に染みた。淡いブルーと紫と、その先にある闇の先にあの風がいる。
「バル……。先生はああ言ったけど、ぼくは怖いんだよ。みんな、ぼくを避けてるんだ。家でも学校でもみんな、ぼくのこと大事にしてくれる。でも……本当はみんな、ぼくのこと嫌っているんじゃないかしら? やさしくしてくれるのはぼくが病気だからで、ぼくが可哀想だと思うから……。それで仕方なく相手にしてくれているだけなんじゃないかと思うの。ぼくがあのマグナム中佐の息子だから……」
ジョンは学校や病院で職員達がそんなことを話しているのを聞いてしまったのだ。
父は偉大な軍人だった。大統領から勲章をもらったこともある。そんな彼の息子だからと、ジョンはいつも他人から特別扱いされてきた。
――行く末は、父を超える軍人として名を残すでしょう
それが最大の褒め言葉だった。が、彼が病気になり、陸軍幼年学校への進学は難しいとなると、だんだんと見る目が変化した。期待の星から、同情されるべき弱者へと立場を変えたのだ。それでも、あの偉大なスティーブ R マグナムの息子として丁重に扱われることに変わりはなかった。しかし、それがあくまでも体裁だけのことなのだと知って、少年は傷付いた。
彼が病気になっても最新の治療を受けることができたのはお金があるからだと同室だった女の子が言った。
――お金がなければ、病気にさえなれない。治療だってしてもらえない。そうやってあたしの弟は死んだ。そして、あたしも……
3日後、その子は退院した。完治したからではない。治療費が払えなくなったからだ。そして、その子は帰って来なかった。
「ぼくは恵まれているらしいんだ。でも、ぼくにはどうしたらいいのかわからない。ガイストはお金持ちの人もそうでない人も連れて行くよ。ぼく達には選べないんだ。世界はまるで平等じゃなくて、ぼく達はとても不平等にできている。ぼくだって怖い! 死ぬのはいやだ! けど、人間、いつかはみんな死ぬよ。昔、パパが言ってたように……」
――病気が怖いか? だが、人はいつか必ず死ぬ。たとえどんなに抗ったとしても、その時が来れば必ず死ぬんだ。前線にいるパパは明日には死ぬかもしれない。しかし、今を信じて生きる。今、この瞬間を全力で生きている。だから、おまえも死なんか恐れるな。全力で闘え!
「だけど、ぼくにはできそうにない。昨夜から少し頭痛がするよ。ママにはだまっていたけれど、昨日の昼間には少し鼻血も出たんだ。それで……」
少年は強く犬を抱き締めた。その頬に伝う涙をバルドーラがなめる。空には星が一つ二つ輝き始めた。
「ジョン、早く来ないとツリーの飾り付けが終わってしまうわよ」
母が呼んだ。
「はい、ママ。今行きます」
脚立を昇って、ツリーのトップに星を乗せると、母とキャンベル、それに家政婦のメアリー スミスが拍手した。毎年のことではあるが、ジョンもうれしかった。自分の背が伸びた分、また少し天井が低くなったように思えた。
「さあ、それでは気をつけて降りて来てくださいね。イリュミネーションを灯しますよ」
キャンベルが言った。
「はい……」
そう返事をすると、彼は脚立を降り始めた。が、ふと足を止めて耳を澄ました。風に混じって車のエンジン音が聞こえる。
(こっちに来る。お客さんかな? でも……)
胸騒ぎを感じた。高窓から見える空にあの闇の風が見えたからだ。彼は急いで段を降りた。
が、彼が床に着く前に複数の人間が居間に入って来て言った。
「私はCIA情報部の特任捜査官、ケルビン デニスです。ジョン フィリップ マグナム、我々と一緒に来てもらおうか」
冷たい視線と物言いだった。後に控えた部下4人も同様だ。
「一緒にって……。でも、どうして……?」
ジョンは困惑したように男を見つめた。
「この子が何をしたと言うんです?」
母が息子を庇うように前に出る。
「国家機密漏洩です」
「国家機密ですって? ジョンはまだ子どもなんですよ。そんなことができる筈が……」
「もっともです。この件に措きましては、いずれマグナム中佐にもお話を伺うことになるでしょう」
「どういうことですか?」
「ジョン フィリップは軍の最重要機密事項を持ちだしたのです。これは国家に対する明らかな反逆だ。テロリストとの関与も有り得る。彼が少年であることを考慮したとしても大罪には違いないのです。もっとも、たかだか10才の少年にそれができたかと問われると我々もいささか疑問の余地がない訳ではありません。その辺の事情をぜひマグナム中佐にも詳しく伺いたいと思っているのです」
男は明らかに中佐の関与を疑っていた。疑惑が晴れなければ厳しい処分とて有り得るだろう。
「そんな……」
あまりのことに母は気を失いそうになった。
「奥さま!」
キャンベルがそれを支える。
「パパを疑っているんですか?」
青ざめた顔でジョンが訊いた。
「今は何とも答えられないな。君がすべてを正直に話してくれるならば……」
「ぼく、話します。でも、パパとは何も関係ないし、ぼくだって何も悪いことなんかしていません!」
「君はコンピューターを持っていたね? ちょっと見せてもらうよ」
デニスが合図すると部下達が2階の子ども部屋へと駆けて行った。キャンベルが止めようと何かを言ったが、令状を見せられ、仕方なく引き下がった。
「それに、君は軍のことについて大分詳しいようだね。みんなパパから教えてもらったんじゃないのかい?」
詰問するように男が言った。
「確かにぼくはコンピューターを使うし、パパから戦車や飛行機の模型をもらいました。でも、それ以上のことなんて話していません」
ジョンは必死になって訴えた。が、男の反応は冷たかった。
「いずれにせよ、話はあとでゆっくり聞かせてもらう。君は我々と来るんだ」
無粋な男2人に両脇を抱えられ、少年は車に乗せられた。
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