HANS
―闇のリフレイン―


夜想曲6 Jugend

2 音大生


夜。ハンスはジョンからの連絡を待っていた。
「男の子」
リビングのソファーに掛けていたハンスは青いチョッキを着たウサギのぬいぐるみを抱いて言った。
「彼をここに置いてもいいですか?」
紅茶を運んで来た美樹に言う。
「いいけど……。事情を知りたいわ」
テーブルにカップを置くと言った。
「今、ジョンに調査してもらってる」
美樹も向かいの椅子に掛けた。時刻は10時を過ぎたところだった。井倉は2階のゲストルームで眠っている。

「男の子、君も欲しがっていたでしょう?」
「少し育ち過ぎてるけどね」
美樹が苦笑する。
「でも、素直でいい子なんです」
「それはいいけど、病院に連れて行かなくてよかったの?」
美樹が心配そうに訊く。
「意識もちゃんとしてたし、お腹が空いたって言ってたから……。きっと大丈夫」
ハンスは紅茶を一口飲むと言った。

「でも、本当に一人にしておいて大丈夫? もし、何かあったら……」
井倉を連れて来た経緯を聞いていた彼女は懸念していた。
「朝まで目覚めないと思いますよ。睡眠薬飲ませたから……」
「え? 大丈夫なの? そんな事して……」
「僕が拾った命です。勝手に死なれては困る」
彼はちらとウサギを見て言う。
「うーん。命が助かったのは良かったけど、井倉君も災難ね」
「どうしてですか?」
「とんでもない先生に拾われちゃって……」
「幸運だと言って欲しいですね。男の子を育てるのはきっと楽しいでしょう。ここでなら、存分にピアノが弾ける。彼は練習不足でした。でも、これからは違います。それに僕もいる」
自信満々の彼の態度に、美樹は少しだけ首を竦めて言った。
「音大のピアノの先生と同居だなんて。ストレス高過ぎよ。可哀想」
美樹は同情するように言った。
「彼は約束したですよ。世界中の子ども達のために夢を届けるピアニストになるって……。だから、僕は協力する。それに、僕が拾った命です。僕はとても良いものを拾いました」
「良いものをね……」

その時、玄関チャイムが鳴り、客の来訪を告げた。
「あれ? お魚さんが玄関から来るなんてどうしたの?」
ドアを開けると、ハンスが意外そうな顔で迎えた。ジョンは苦笑し、リビングに入ると、ゆったりとしたソファーに掛けた。猫達が、珍しそうに彼を見ている。

「井倉優介の件はファイルにまとめて君のPCに送信しておいたよ」
美樹が彼のために紅茶を注ぎ終わるのを待って、ジョンが告げた。
「だったら、何故ここへ来たの?」
「君が自分の立場をよく理解していないようだから忠告に来たんだ」
「忠告?」
「ルドルフも同じ意見だ」
美樹が淹れた紅茶を一口飲むと彼は続けた。
「つまりね、君は彼をここに置くつもりかもしれないけど、僕は反対だ。あまりにも安易だし、リスクが高いからね。君にとっても、その学生にとっても危険過ぎる選択だからだ」
「それをわざわざ言いに来たの?」
憮然としてハンスが訊いた。
「気にいらないかい? でも、考えてみて欲しい。関係のない者を巻き込むのは感心しない」
「関係ない? それなら美樹だってそうでしょう?」
脇に置かれたぬいぐるみのウサギが少し傾く。
「今更それを言うの? それは君が望んだ事だろう?」
ため息混じりにジョンが言う。
「そうだよ。僕が望んだんだ。美樹の事も、井倉君の事も! だから、口を出さないでよ」
「でも……」
「僕が決めたんだ。それに、彼は僕が拾ったんだし、好きにさせてもらう」
ハンスはそう言うと相手を見据えた。が、ジョンは冷静だった。

「井倉優介は、薬島音楽大学を除籍扱いになっている」
静かな口調でジョンが言った。
「除籍? 何故?」
美樹が怪訝そうに訊く。
「理由まではわからない。だが、井倉の父親が経営する不動産会社が不渡りを出して倒産した事と関連があるかもしれない。随分悪質なブローカーが関与していたらしいからね」
「それ、どういう事?」
ハンスが訊いた。
「父親の会社は倒産し、井倉本人も今は大学には戻れないという状態になっているんだ」
「ああ……それで、あんな事したのか。でも、井倉君は今、両親の家を出て独りでアルバイトして学費を稼いでいると言ってたけど……」
「学費は未納のままになっている。それに、彼のアルバイト先の店では雇用契約を解除している。銀行口座も凍結されてるし、携帯会社やアパートの賃貸契約もすべて解除されてる」
「それじゃあ、生活出来ないじゃない?」
美樹が同情した。
「そんなに追い詰められてたなんて……。だったら、何故黙っていたんだろう。もっと早くわかれば、何とか出来たかもしれないのに……」
ハンスが傍に寄って来たピッツァの頭を撫でながら言った。
「さあね。君はファイルを見ないかもしれないから、一応伝えたけど、それ以上の情報は本人に訊いてみるしかないな」

「何とかならないの?」
美樹が訊いた。
「残念だけど、僕が出来るのはここまでだ。後は探偵の仕事だろう。飴井にでも頼むんだね」
リッツァが来て彼の足に頭を擦りつけた。ジョンはそっとその頭を撫でると立ち上がった。
「お魚さん……もしかして怒ってる?」
上目遣いにハンスが見る。
「別に怒ってはいないよ。ただ、僕には責任が取れない。君がどうしても井倉優介をここに置きたいと言うのなら仕方がないと思ってる」
ため息混じりにジョンが言う。
「僕が責任を持つ。それなら、構わないでしょ?」
ハンスに言われ、ジョンは頷く。
「じゃあ、お魚さんは、さっさと水槽にお帰りよ」
ハンスはリッツァを手招きながら言った。
「残念だな。僕達、もっとわかり合えると思ってたんだけど……」
ジョンはハンスの足元で遊ぶ2匹の猫を見て言った。

「だって、僕の友達はコンピュータの中にいるジョンだから……。僕はお魚のジョンが好きなの」
2匹の猫を両手で抱いてハンスが笑う。
「わかった。君と話す時は、なるべくコンピュータを介在するようにする」
ジョンはそれだけ言うとリビングを出て、玄関に向かった。美樹が後を追って来て言った。
「ごめんなさい、ジョン。ハンスってば言い出したら聞かないし……。あなたの事あんな風に言うなんて……」
「いいよ。慣れてる。それに……」
ジョンは少し言い淀むと花瓶に差された黄色いバラを見た。
「彼には幸せでいて欲しいから……」
それから、軽く片手を上げると言った。
「じゃ、また来るよ」
そしてジョンは彼女の家を後にした。


翌日。8時過ぎに井倉は目覚め、3人で朝食を摂った。
「井倉君、遠慮しないでお代わりしてね」
美樹が微笑む。
「はい」
井倉はそう返事をしたが、どこか落ち着かない様子で、部屋のあちこちを見回している。
「井倉君、リビングのピアノ、空いている時にはいつでも弾いてください。君はもっと練習しないといけません」
「はい」
学生は緊張していた。

朝食が済むと、美樹は食器を片付け始めた。
「あの、僕、お手伝いします」
井倉がおずおずと言った。
「あら、いいわよ。ゆっくりしてて。大した量じゃないし、ハンスの相手をしていてくれると助かるんだけど……」
美樹がいたずらっぽく笑う。
「え?」
意味がわからず、井倉は困惑したように彼女を見た。
「彼ね、子どもみたいに、わたしのお仕事の邪魔ばかりするのよ。でも、ほんとに子どもだから仕方が無いんだけど……」
「え?」
「彼ね、日本に来たばかりの頃、事故に遭って、子どもの頃の事しか思い出せなくなっていたの。今はもう回復している筈なんだけど……」
「そうだったんですか? 僕、知らなくて……」
井倉が深刻そうな顔をする。
「あ、でも、気にしないで。もう、すっかり大丈夫なんだから……。ハンスって元から子どもっぽかったし……」
そう言うと美樹は笑った。

――素直でいい子なんです

井倉は、ハンスが言った通り、真面目で素直な好青年だった。美樹も好感を持って迎えた。二人は新しく来たこの家族のために必要な物を揃え、彼が居心地良く過ごせるように部屋も整えた。
「ありがとうございます。本当に……どう感謝したら良いのかわからないくらいです。このご恩は一生忘れません」
井倉は深々と頭を下げた。

「オーバーですよ。これくらい当然なんです。僕が拾ったですから……」
ハンスが言った。
「でも……」
更に何か言おうとする彼に、美樹もやさしく言った。
「いいのよ。本当に気にしないでね」

その日、ハンス達は井倉を連れて必要な物を買いに出掛けた。その際、井倉に因縁を付け、脅迫して来た男達を、ハンスが追い払うという事件が起きた。
「やはり、井倉君のお父さんの会社が潰れたという事には裏がありそうですね」
フードコートで休憩した時、ハンスが言った。
「すみません。本当に、先生にはお世話になってばかりで……」
狼狽し、ひたすら詫びてばかりいる井倉に、美樹は同情した。
そして、家に着くと二人は詳しい話を聞き、すぐに行動した。美樹は飴井に連絡し、ハンスは黒木に事情を伝えると大学の状況を尋ねた。

「大丈夫。何もかもすっかり上手く行くですよ」
項垂れている井倉に、電話を終えたハンスが言った。
「すみません。本当に何もかもお世話になって……。僕、出来るだけお手伝いします。いえ。ぜひ、そうさせてください」
井倉は、そう言うと何度も頭を下げた。
「そんなに恐縮しないでいいのよ。今日は疲れたでしょう? お夕飯までゆっくり休んでいてね」
美樹が気遣う。
「ありがとうございます。でも、僕……」
井倉が言い掛けた時、ハンスの携帯に電話が掛かって来た。彼は相手を確かめると、急いで席を外した。

電話して来たのはルドルフだった。ハンスは玄関ホールに出ると言った。
「僕だよ。何か用?」
――ジョンから聞いた。いったいどういうつもりなんだ? 学生を引き取るなんて……
「いいだろ? 僕はそこの大学の講師なんだし……」
――そういう意味じゃない
「わかってる。僕が責任持つからとお魚さんにも言ったよ」
――出来ない事を約束するな
「出来るよ」
――仕事が一つ入っている。すぐに出られるか?
「今忙しいんだけど……」
――そういう言い訳が利くと思うか?
「わかった。行くよ。場所は?」
――いつもの公園で
「OK。じゃ」

電話を切ると、ハンスはリビングに戻って言った。
「ちょっと出掛けて来ます。すぐに戻れると思うけど、遅れるようなら連絡するね。僕の可愛い小鳥。寂しがらないでね」
井倉がいても構わず、ハンスは美樹に抱きつくと何度もキスした。
「わかったから、もう放して。ほら、井倉君が困ってるじゃない」
「ああ、井倉君。僕はちょっと外に行くですけど、美樹ちゃんはお仕事で小説書かなくてはならないです。君はお部屋でゆっくりしててください。あ、でも、ピアノ弾きたかったら弾いててもいいし、テレビとか観ててもいいですよ。でも、一人では絶対外に出ないでくださいね」
ハンスは有無を言わさぬ口調で言った。
「あ、はい。わかりました」
井倉は素直に頷いた。
「気をつけてね」
美樹が玄関まで見送った。
「もしかして、お仕事?」
心配そうに訊く彼女をもう一度抱き締めてハンスは言った。
「大丈夫。すぐに済ませて来ます。こんな日に呼び出すなんて、ルドに文句言って来るですよ。君も気をつけて。井倉君の事頼みます」
そして、彼は玄関を出た。

外に出ると、陽射しはまるで初夏のように照りつけていた。海沿いの公園ではバラが見事に咲き誇り、行き交う人々の中には半袖姿の者もいた。
(赤いバラに黄色いバラ。ピンクのバラ。そして、白いバラ……白い花びらが散る)
ハンスは駅の方から歩いて来る人並みに混じって男に近づいた。
「あれ? 今日はコンタクトじゃないんだ」
振り向いた男の目を見てハンスが言った。
「別におまえを喜ばせるためじゃない」
緑の目の男は言う。
「じゃあ、誰のため?」
潮風が二人の間をすり抜ける。
「誰のためでもない。この間の夜のミッションで弾が掠った。それで、少し炎症気味なだけだ」

「掠っただって?」
ハンスが驚く。男は黙って海を見つめる。そんなルドルフの脇に一歩寄ると、ハンスはその瞳を見つめて言った。
「そんな話聞いてないよ。第一、そんな凄い腕の持ち主が日本にいるなんて、信じられないね。それとも、ルドも歳には勝てないって事?」
「俺は自分の実力が世界一だなどと思っていない」
「謙遜する事ないだろ? コンテストでは何度も優勝してるじゃないか」
ハンスは男の周囲を行ったり来たりした。
「それは実戦とは違う」
「わかってる。でも、実戦では測りようがない。そうでしょう?」
「そうでもないさ」
「どうするの?」
真顔になってハンスが訊く。
「生き延びる事だ」
「ふうん」
ハンスは足元に伸びる男の影を見つめた。
「それで?」
男を見上げて訊く。

「木ノ花会だ」
男が言った。
「接触したの?」
ハンスが訊いた。
「こいつをくれた」
ルドルフは花の種の袋を見せた。
「きれいだね。何の花?」
「アーティチョーク。花言葉は警告=v
「へえ、驚いた。ルドって花言葉にも精通してたの?」
「必要に応じてな」
「そうだ。僕ももらったよ。この間、武本って奴に……。えーと黄色いカーネーションとリンドウって花の種」
すると、男は端末を取り出して検索した。
「黄色いカーネーションは偽り=v
「そんな風には言ってなかったけどな」
「花言葉はその花の色や種類によって複数あるんだ」
「なんだ。別に知ってた訳じゃないのか」
「国によって様々な花言葉があるからな。その中のどれを選ぶかはそのシチュエーションによって違うのだろう」
「勝手なものだね。花はそんな事思ってないと思うよ」
「人間なんて所詮はエゴの塊さ」
黄昏れ始めた空には海鳥が舞い、時折聞こえる鳴き声が尾を引いた。

「ところで、もう一つ、リンドウの花言葉は?」
ハンスが訊いた。
「あなたの悲しむ顔が見たい。あるいは苦しむ顔を見たい」
「ロマンティックな趣味だね」
微笑するハンスの瞳は海と同じ色を反射していた。
「だから、俺からも警告するんだ。リスクを増やしてどうする? 相手を喜ばせてやる事はない」
「リスク? 井倉君はリスクじゃないよ」
「敵はそうは思わないだろう」
「それなら、僕が教えている生徒全員がリスクになると思うよ」
「もし、そうなったら、どうするつもりだ?」
公園では何羽かの鳩が羽を休めていた。
「全員、僕が守る」
「不可能だ」
男が言った。

「それじゃあ、僕達、何も出来ないじゃないか。家に籠もってニートにでもなるの? そしたら、また白神の奥さんに嫌味言われちゃうよ」
「確かにカモフラージュの職業は必要だ。そこにリスクも生じる。しかし、一人だけを特別扱いして直接家に置くとなると、やはり話は別だろう。相手からしても、そいつが特別だと判断され、狙われ易くなる」
男は端末を仕舞うと言った。
「僕が守る」
「今、こうしている間に敵が家を襲ったらどうするんだ?」
それを聞くとハンスは踵を返して言った。
「美樹ちゃんが心配だ。僕、帰るよ」
「待て!」
ルドルフが手首を掴む。
「どうして止めるの? 今、危険だって言ったばかりじゃないか」
「つまり、こうして離れていればおまえにはどうにも出来ないという事だ。わかっただろう?」
「でも……」
ハンスは俯き、唇を噛み締める。
「僕にだってわかってる。いくら防犯設備を整えても、硝子を防弾に替えても万全じゃないって事くらい……。それでもだよ」
ハンスが言った。

「どうしても考えを変える気はないか?」
「井倉君には今、帰る家がないんだ。それに、言ったでしょう? 僕の弟子の中で彼が一番有望なんだ。育ててみたい」
先程まで散歩していた老夫婦や駅に向かっていた学生達も、今は姿が見えなくなっていた。
「あの家の防犯設備を考案したのは俺だ」
男は周囲に鋭い視線を走らせてから言った。
「設置するにあたっては、最善を尽くしたつもりだ」
「それじゃあ、いいんだね?」
「そもそも完璧な防犯設備など存在しない。敵はこちらの盲点を突いてくるかもしれない。そうなった時、おまえが悲しむ顔を、俺は見たくない」
遠くで鳴る電子音のメロディーが歪んで消えた。
「やけにやさしい事言うじゃないか」
俯いたまま、ハンスが言った。
「知らなかったのか?」
「それを、僕に問うの?」
返事はなかった。ハンスは、足元に降り立った鳩が花壇の方へ歩いて行くのを見ていた。沈黙が続き、男は煙草を吹かした。

「仕事は?」
飛び去った鳩が見えなくなると、足元の花壇を見つめ、ハンスが訊いた。
「ナザリーからの情報だ。このところ、立て続けに起きている放火事件に能力者が絡んでいるらしい」
周囲に人がいないのを確かめると、男は小声で告げた。
「放火?」
ハンスが顔を顰める。そこへまた1羽の鳩が舞い降りた。
「ああ。一種のファイアスターターって奴だな」
「へえ。便利そうだね。指先がライターみたいになったら、あなたの煙草にも簡単に火を付けてあげられるし」
「ふん。そんな気もない癖に」
飛び去る鳩の陰影が一瞬遅れてそこに残った。
「でも、放火犯を捕まえるのは警察の仕事でしょう?」
「相手が能力者では無理だろう」
男が点けた2本目の煙草の火が赤く灯った。
「僕だって無理だよ。消防車でも頼むんだね」
「自慢の水鉄砲があるだろう?」
煙を吐き出してルドルフが笑う。

「とにかく、そんな厄介な仕事はご免だよ。僕には美樹ちゃんの護衛という大事な任務があるからね」
「奴の行動半径は限られている。丁度おまえがいつも行っている夜の散歩コースと重なっている」
「それじゃ、鬼に見つからないようにしなくちゃ」
「だが、隠れてばかりじゃゲームは終わらない。鬼は交代でするものだ」
「ルドも交ざる?」
「ああ。仲間も連れて来てやる」
「わかった。でも、その放火魔も花が好きなのかなあ」
「さあな」
ハンスは煙を避けながらもその流れを目で追って言う。
「花の絵を描いてるんだって……。武本の個展に招待されたんだ。日曜にアルと行くつもりなんだけど、ついでに訊いてみる?」
「喋ると思うか?」
「でも、彼は木ノ花会で、能力者の子どもを保護していると言ってた。そこのところを詳しく訊けるかもしれないよ」
紫煙は男の周囲を漂って海に抜けた。
「そいつも能力者なのか?」
「うん。でも、本人は大したレベルじゃないって言ってた。でも、僕が見るに何か隠してる。悪い人とは思えないけど、それならそれで協力してくれるかもしれないでしょう?」
ハンスはスキップするように周囲を歩き回って言う。
「一人で大丈夫なのか?」
「まあね」
西の空に星が光って見えた。男は吸い掛けの煙草を消すと、帰ってもいいと目で合図した。