アーニーは5才の女の子です。
クリスマスの朝。
アーニーが目を覚ますと、リボンの付いた大きな箱が一つ、まくらもとに置いてありました。
「わあ! きっとサンタさんがくれたんだ」
アーニーは喜んで箱を開けました。
すると、そこには犬が1匹入っていました。
犬といっても生きている本物の犬ではありません。
アーニーの家は団地なので、動物を飼ってはいけない決まりになっていたのです。
でも、アーニーはいつでも犬が飼えるようにと、ちゃんと犬用のお皿を用意していました。
なぜなら、大人は気まぐれなので、いつ決まりが変更になるかもしれなかったからです。
この間も、パパが子どもの情操教育には動物と触れ合うことがいいと新聞に書いてあると教えてくれました。
隣に住んでいるウィリアムのおじいちゃんも、一人では寂しいから、せめて犬でも飼えたらいいのになあと言っていました。
ママが見ていたテレビでは、一人暮らしのお年寄りの話し相手に犬は最適のパートナーだと言っていました。
だから、それらを見た大人がころっと考えを変えるかもしれないのです。
アーニーは、いつその時が来てもいいようにお皿を用意しておいたのでした。
そして、時は来ました。
ついに念願の犬が来たのです。
それも銀色のメカメカしい犬が……。
「あんた、なまえはなんていうの?」
犬はギーと音を立てました。
「それじゃあ、としはいくつ?」
ギギ。
「あんた、かわってるね」
犬には毛がありませんでした。銀色の細い板をボルトで繋いだだけのシンプルな犬でした。
ギーギーカックン。
スイッチを入れると、犬はガーガーいってカクカク歩きました。
ギーギーカックン、ギーカックン。
「そうだ。あんた、ロボットみたいだから、メカってなまえはどう?」
カクカクカックン。
犬はカーペットの隙間につまずいて膝を曲げたり伸ばしたりしています。
カクカクカックン。ギーカックン。
その犬の目と鼻はボルトでできていました。頭にはちょこんと小さな緑色の帽子をかぶっています。
「メカ、あんたってかわってるわね。そんなにのびたりちぢんだりするのがすきなの?」
カクン。
犬は前足の膝を折ります。
「あたいはアーニー。あんたのごしゅじんさまよ。じゃあ、さっそくさんぽにいこうよ」
アーニーは机の引き出しに閉まってあった赤いリボンとリードを出して、犬の首に結びました。
これもみんな、いざという時のために用意してあった物です。
「よかった。あたいってば、きっとてんさいなんだわ。でなければ、こんなにもあんたにぴったりのものがよういできたりしないもん」
ギー。
アーニーはうれしそうにぎゅっと引き綱を引っ張りました。
カックンガクガク。
ブルルルル。
リボンの首輪が締まってメカはパカッと口を開けました。それに、いきなり強く引っ張られたので、前足を折ったまま前に進むことができずにずずっとカーペットの上を引きずられました。
「だめじゃん、ちゃんとしたをよくみてあるかなきゃ……」
アーニーはいつもママが言うように犬を見降ろして言いました。
ギ?
アーニーは、つっかえていたカーペットからメカの足を抜いてやりました。
ギギ。
そうしてまた、メカがゆっくりと前足を出して歩き出そうとした時でした。
「いくよ。ぐずぐずしてるとあっというまにちょうしょくのじかんになっちゃうからね」
力任せに引っ張られ、メカはごつんと鼻先をカーペットにぶっつけました。
ウギ。
カクリと折れた前足。しっぽはアンテナのように天井に向かってピンと立っています。床から離れてしまった後ろ足が、カックンカックンと、空中で踊っています。
「あんたってば、きようね。そんなところでおよぎのれんしゅうしてるなんて……」
ガクッ。
メカは関節を鳴らしてパタンと横に倒れました。
「あーあ、しょうがないなあ。ほら、たちなよ」
アーニーは引っくり返った犬を起こしてやりました。犬はカチカチ音を鳴らしながら、しっぽを振ります。
「うれしい?」
アーニーはにこにこと笑って言いました。
「なら、もういちど」
そう言うとアーニーはせっかく元に戻った犬をまた引っ繰り返しました。メカはまた、カクカクと関節を動かします。
「あはっは。まるでママのびようたいそうみたい……いくらやってもこうかないのに……。はたからみてるとこっけいね」
アーニーは犬を元の形に起こします。すると、犬は再びしっぽをカチカチ振りました。
「そんなにうれしいなら、ときどきはひっくりかえすのやってあげる。でも、いまはだめだよ。あさはちょうしょくをたべなきゃで、あたいはいそがしいの」
アーニーは犬の固い背中をなでました。
「あんたが2回も引っくり返ったりするから、とんだじかんのロスだったわ。さんぽはまたこんどね」
ギギ…クイッ
メカが首を上げました。たるんだリボンが首に垂下がって揺れています。
「あたいはもうおなかペコペコなの。あんたはここでまっているのよ」
アーニーが部屋から出て行くと、メカはクゥーンと鼻を鳴らして、取り合えずおやすみモードに突入しました。
(おわり)