第11話 正義は勝つ! ヒーロー大結集!


 さわやかな5月。ハーペンは意気揚々と特売のトイレットペーパーを両手にぶら下げて歩道を歩いていた。
「よーし。今日は出先がもみ足さい先いいぞぉ。何しろ今日は、お一人様2つだけという特売のトイレットペーパーも買えたのだからな。豪助の喜ぶ顔が尻に浮かぶぞ」
などと訳のわからない言葉をつぶやきながら歩いている。そんな彼が公園を通りかかった時。すべり台の近くに悲しそうな顔で立っている子供を見つけた。はじめだ。

「おーい、はじめ、どうしたんだ?」
ハーペンは急いで近くへ行こうと駆け出した。が、入り口までは遠かった。ならば、と当たりを見回す。そして、歩道沿いの低い垣根を、えいやっとばかりに跳び越えた。が、地球の引力は強かった。加えてハーペンの尻は重かった。微妙なところで尻が枝に引っ掛かって、せっかく貼り付けてもらったハートのアップリケがまたビリリと裂けた。が、ハーペンは気にせず、はじめの元へ急いだ。彼が泣いていたからだ。

「どうしたんだ、一体……。誰かにいじめられたのか?」
「ちがう」
はじめは首を横に振った。
「なら、どうしたんだ?」
「ぼく、転校しなきゃならないかもしれないんだ」
「てんこう? ってつまり番号を呼ぶあれか?」
「それは点呼」
「ああ、そうか。ならば、あれだ。お天気お姉さんが明日の天気を占ってくれる当たるも八卦当たらぬも八卦というスリル満点の天気予報」
「ちがうよ! 引越しして、他の学校に行かなきゃならないってことだよ」
「他の学校に? はじめの家、引っ越すのか?」
「うん。お父さんが会社をクビになっちゃうかもしれないんだ。そしたら、ここは会社の社宅だから、出て行かなくちゃいけないんだよ」

「どうしてさ?」
「クビってことは、会社を辞めさせられるってことなんだよ。この団地は会社の持ち物だから、会社で働いている人にしか貸さないんだ」
「そんなのひどいぞ。おれが会社に文句言ってやろうか? 何で貸してくれないんですかって。いや、その前に、何ではじめのお父さんがクビにならなきゃいけないんですかって……」
「うん。でも、お父さんはちっとも悪くないんだ。お母さんが言ってた。古沢部長が会社のお金を使い込みして、それをお父さんのせいにして辞めさせようとしているんだって……」
「なんだ。そいつが悪い奴なんじゃないか。そんな奴はガツンとやっつけてやんなきゃだめじゃないか」
「でも、古沢部長は人事課で、会社では自由に人を雇ったりクビにしたりできる権利を持ってる偉い人なんだ」
「でも、悪い奴なんだろ?」
「うん」
「なら、おれに任せろ」
「ハンペン」
見上げる少年の目をしっかりと見つめ、ハーペンは熱くうなずいて見せた。
「大丈夫。おれは宇宙のヒーローなんだ。悪い奴をのさばらせておくわけにはいかないんだ。やる時はやる。やらない時はやらない。それが宇宙の摂理だ」
「ありがとう、ハンペン」


 そこで、早速この件についての対策を練るために豪助の道場で作戦会議が開かれることになった。詳しい事情を聞くために、はじめの父親である福島課長も呼ばれた。すると、何故か、彼はつぼねやストリクト星人達といっしょに現れた。
「いや、実はね、町内で一番信用があるってんで、このわたしのところに相談に来られたんだけど、もしかしてそういうことなら男の人の方がいいんじゃないかってメノンを紹介してやったんだよ。そしたら、弟さん達もみんなで力になるっていうんでね、こうなりゃ、数がたくさんいた方がいい知恵が出るんじゃないかと思ってみんなで来たんだよ」
つぼねが言った。
「お願いします。皆さんのお知恵をお貸しください」
福島課長が頭を下げる。

「まあまあ、困った時はお互い様ですからな」
と豪助が言った。
「そうそう。たがを外す時には皆いっしょ。今こそ一つの輪になっていっしょに踊ろうではありませんか」
サツマーゲがわかったようなわからなかったようなことを言った。
「何も心配することはありません。宇宙の知恵を集めればきっと何かが役に立つはず……。私のこの白肌に賭けてお約束しましょう」
オダイコンも言った。
「何? 白肌と言うならこのタマゴに任せなさい」
タマゴがえらそうにふんぞり返る。

「あれ? まだこいついたんだ。ねえ、兄ちゃん、おれ、こいつでタマゴ投げゲームしたい」
ヤキチョバが言った。
「それじゃあ、廊下の向こうで静かに遊びなさい」
メノンが言った。
「はーい」
と返事するとヤキチョバはうれしそうにタマゴを抱えて出て行った。
「よし、邪魔者が消えたところで詳細な情報を聞かせてもらおうか」
カレンが鋭く言った。
「あらあら、そんな怖い顔しちゃだめよ、カレンちゃん」
「そうよ。この人は被害者なんですからね」
チョクとレージュンがやさしく言った。
「そうだったな。失礼」
カレンが詫びた。
「ともかく、事情をお話しください」
メノンが言った。

「じつは……」
彼の話を要約すると、つまりは、はじめがハーペンに話した通り、悪いのは古沢部長なのだということがはっきりした。加えて古沢部長はスケベな変態エロオヤジであるということもわかった。
「何しろ、古沢部長はあの年をしてメイド喫茶が大好きで、わざわざ東京の店まで通い詰めているんです」
はじめのお父さんが言った。
「何だ? その冥土の土産喫茶ってのは……」
豪助が言った。
「ちがーう! 若いお姉さんがメイドさん姿でいろいろおもてなしをしてくれるお店のことよ。『きゃーん。ご主人様ってばステキ!』とか『ビューティーなそのお姿を見ているだけでしびれちゃうーっ!』とか『プリンを食べさせてあげたいの。ハイ、あーんして、ご主人様』なーんてごきげんなことを言ってもらえるのよ」
オダイコンが言った。

「何だ? オダイコン、どうしてそんなに詳しいんだ? さては貴様、上司であるこの私にないしょでこっそり行ってたんじゃないだろうな?」
サツマーゲが問い詰める。
「そうだそうだ。本当だったらうらやまし過ぎるぞ」
ハーペンも叫ぶ。
「メイド喫茶か……」
メノンがつぶやく。
「兄上も行ってみたいのですか?」
カレンが訊く。
「うむ」
メノンがうなずく。それを見て動揺するチョクとレージュン。

「私によい考えがある」
メノンが言った。
「行ってみたいのでありますか? 兄上」
カレンが言った。
「いや、それより、メイド喫茶をここに作ってはどうだろう?」
「兄上、それほどまでに……」
カレンがうるうると目頭を押さえながら言った。
「ならば、兄上のためにこのカレン、いっそメイド服にでもマイクロビキニにでもなりましょう」
カレンの言葉に思わずメイビー星人達の微妙な目がまんまるに見開かれた。

「賛成だ!」
サツマーゲが叫んだ。
「そうだ、賛成だ! 何だかわからないけど、おれは断固として賛成するぞ!」
ハーペンと豪助も叫んだ。
「で、いつ、誰が脱げばいいのです?」
オダイコンが冷静に訊いた。
「そうだな。みんなでメイド服を着てもてなしてやるというのはどうだろう?」
「みんなっていうとおれや豪助やつぼねちゃんもか?」
ハーペンが言った。
「それって何かビミョー」
という声も上がった。が、
「そうだ」
メノンが言った。

「よし。読めたぞ。貴様の作戦」
サツマーゲが自信たっぷりに言った。
「うむ。色合いは微妙ながらもさすがはメイビーの下士官のことだけはあるな、サツマーゲ」
メノンが言った。
「どういうことなのでありますか? 菓子缶殿。ちなみにおれはおもちゃの缶詰が欲しいのでありますが……」
ハーペンが身を乗り出して言う。
「わからぬか。古沢部長はメイド喫茶へ通っている。つまり、好きなのだ。わざわざ東京まで行かなくとも我が埼玉北のタウンにメイド喫茶をオープンすれば必ずやそこに来る。それが男の性だからな。そこで奴を捕まえ、我ら可愛い正義のメイドさん達で手厚く悪事をもみほぐし、もてなしてやろうというのだ。そうだな? メノン」
「うむ」
とうなずく。

「ガハハハ。参ったか、ストリクト。おれの国語能力は最高だろう」
サツマーゲが自慢する。
「何? 国語の力なら負けないぞ。おれなんぞ、次は漢検3級の試験を受けるんだ。見ろ! これがその受験票だ!」
豪助が言った。
「あんた達、しゃべると話がややこしくなるからちょっとお庭の掃除でもしておいで」
つぼねが言った。
「とにかく、その古沢部長をぎゃふんとやっつけることが肝心ね」
チョクが言った。
「それに、横領の証拠を掴むことだわ」
レージュンも言う。
「うむ」
メノンがうなずく。

と、そこへヤキチョバが来て言った。
「兄ちゃん、廊下にこんな変な豆が落ちていたぞ。ごみを落としたままにするなんて掃除がちゃんとできていない証拠だぞ」
「わかった。弟よ。おまえはいつもちゃんとお掃除が出来てて偉い子だね。兄として埃(注:あえて言おう。変換ミスではないと……)に思うぞ」
メノンに認められてヤキチョバは得意そうに言った。
「そうだ。おれは偉いんだぞ。メイビー星人より上手にお掃除できるんだからな」
「くーっ! ヤキチョバにだけは言われたくないわ」
オダイコンが白い軍服の袖を強く噛んで言った。

「おい、待てよ。それは……」
サツマーゲが豆を取り上げて言った。
「これは我が軍の秘密兵器の真似豆ではないか」
「おお。およそ2回前の話で名前だけ出て何も活躍出来なかったあの豆か」
ハーペンが言った。
「うむ。その豆だ」
とサツマーゲ。
「これは使えますね」
ハーペンが言うとサツマーゲもゴックンとうなずいた。
「これをこっそり部長の背中に貼り付けて証拠の話を録音するんだ」


 そして、その日のうちに、張りぼてのメイド喫茶が建てられた。
「部長、今度、新装オープンした店に部長好みのいい子がいますよ」
と、会社帰りに福島課長に誘ってもらう。すると、スケベ心がいっぱいおっぱいの古沢丸夫部長はうれしそうな顔をしてひょこひょこ付いて来るにちがいないというのがメノン達の作戦だった。そして、それはまるで絵に描いたマンガみたいにうまくいった。部長はまんまとやって来て、その店、メイド喫茶『カマトト やだんっ!』に入った。

「いらっしゃいませ、ご主人様」
「冷たいおしぼりをどうぞ、ご主人様」
協力者のゆいとメイがやって来て挨拶すると、いきなり鼻の穴を膨らませると部長はだらしない顔で言った。
「本当だ。ここは最高のメイドさんがいっぱいだねえ。ああ、君、その冷たいおしぼりで、私のおててとお顔をやさしく拭いてくれたまえ」
「ええ。もちろんですわ。ご主人様」
近くでモップを掛けていたメイド服の豪助が振り向いて言った。ごつい体つきの豪助のミニスカートからは思い切りハデなガラパンが覗いている。その尻を突き出してそこらに落ちていたぼろ雑巾を拾う。そして、真っ黒な水が入ったバケツでしぼると言った。
「汚い顔と腹はきれいにしないといけませんわね。さあ拭いてあげましょ、ご主人様」
そして、部長をぐいと押さえつけるとその顔をごしごし拭いた。

「うわっ。何てことをするんだ。私はご主人様なんだぞ! おまえは男じゃないか。女を出せ! 女を!」
部長が喚く。
「黙れ! 女ならここにいる。静かにしていろ、ご主人様」
睨みをきかせてカレンが言った。
「おお、これはまた美しい。外人さんかな? 私は外人さんが大好きでねえ、そうだ、喉が乾いたんだ。口移しでお水を飲ませてくれたまえ」
「いいだろう。わたしは外人ではなく宇宙人なのだが、特別に貴様の要望を聞いてやろう。えーと……」
カレンはマニュアルを見ながら言った。
「こういう時は……こう言えばいいんだな。はい。かしこまりました、ご主人様。今すぐに」
カレンは水の入ったグラスを取るといきなり部長にぶちまけた。

「な、何をする!」
「水は飲めましたか? ご主人様」
「も、もういい! 君は下がっていたまえ! 最初の子達を出せ!」
「はーい。呼んだかしら? ご主人様」
「サービスしますわ、ご主人様」
がっちりした四角いアーマーにフリル付きエプロンをしたチョクとレージュンが両側に座ると、部長の腕を押さえ付けた。
「な、何なんだ、君達は」
「あーら、知らないの? イッツ ショータイム! これからご主人様と楽しいゲーム大会が始まるのよ」
ピンクのエプロン姿のヤキチョバが言った。

「最初は私。ハートの手裏剣受け取ってくださいましな、ご主人様」
オダイコンが先端に針の付いたそれを投げる。よけたくてもサイドからしっかり押さえられてるので身動きできない。ハートは上着の襟にブスブスと刺さった。
「ゆ、許さんぞ!」
古沢部長は真っ赤になって怒鳴った。
「あーら、血圧によくありませんわ、ご主人様、少し頭を冷やして冷静になってくださいな」
サツマーゲがバケツの水をザバッと掛ける。
「兄ちゃん兄ちゃん! じゃなかった、オーナー、ご主人様が口をパクパクお開けになって、まるでお魚のようですわ」
ヤキチョバが言った。
「なるほど。では、お魚を食べさせてあげなさい」
メノンが言った。

「でも、ここにお魚なんてないぞ」
ヤキチョバの言葉にごみを回収しに来たミムラーが言った。
「ああ、ここにあるよ」
ごみの中から缶詰を出して渡す。
「あったぞ、ご主人様」
ヤキチョバがうれしそうに特売と書かれたシールが張り付いたままの缶を高々とかざす。
「じょ、冗談じゃない! そんな、ごみに捨てられていたもんなんか食えるか!」
「何だって? この節電節約のご時勢に、わがまま言ってるんじゃないよ」
つぎはぎだらけで作ったメイド服のミムラーが怒鳴る。と、その勢いでふわりとスカートがめくれ、まるで中途半端な孔雀のように広がったスカートを何とか元に戻そうとパタパタした。その度に微妙なというか、しいて言うならごみ捨て場に漂っているような臭いが出た。

「こ、こんな変態おばばが出るような店が好みなのかね? 福島君。不愉快だ! 私は帰るぞ」
「ぶ、部長。お待ちください。これは何かの間違いで……」
必死に止める課長。それを見て、まずいとみたメノンがゆいとメイに合図を送る。二人はうなずき、その前に出た。
「あら、部長さん、何も召し上がらないで帰るなんてゆいちゃん寂しい!」
「ほーんと。もっとゆっくりしてらしてくださいな、ご主人様。でないとメイちゃん泣いちゃうから」
女子高生二人に出口を塞がれ、部長はまた満更でもないほど鼻の下を伸ばして席に戻った。

「そうそう。初めからそうすればよいのだよ。そうだね。ちょっとおつまみでももらおうかな」
「はーい。今すぐお持ち致します、ご主人様」
と言って二人は奥へ引っ込み、代わりに皿を持ってやって来たのはすね毛が微妙なハーペンだった。
「はい、アーンしてくださいましな、ご主人様」
ハーペンがまぐろの缶詰をスプーンで掬ってその口に突っ込む。と背後からつぼねが言った。
「おやおや、そいつをやっちまったのかい? いやねえ、それはうちのタマの餌だったんだけどね。ま、いいか。食い物には違いないんだし……。ねえ、ご主人様」
「な、何だと……!」
「しかも、賞味期限半年前に切れてるし……おいしかったですか? ご主人様」
タマゴがうれしそうにピョンピョン跳ね回って言った。

「くっそぉ! もう、許さんぞ! いいか、この私に逆らえばどういうことになるか思い知らせてやる」
「へんっだ。どうやって思い知らせるってんだい?」
つぼねが言った。
「私には怖―い味方のお兄さん達が付いているんだよ。さっき呼んでおいたからね。もうそろそろ着く頃さ」
古沢部長が強気に言った。すると、店の外で車やバイクが微妙に止まる音がした。
「これで君も終わりだな、福島君。所詮はすがない庶民の悪あがき。可哀想だと思ってここまで付き合ってやったのだが、もうこれでおしまいにしよう」
言って部長はあーはっはっはと中途半端な悪の笑いをした。と、そこへ危ない格好をした兄さん達がぞろぞろとやって来て取り囲んだ。

「よし、やっちまえ! こいつらみんなやっちゃってぇ!」
古沢部長がキイキイ叫ぶ。乱入して来た男達は手に手に鉄パイプや金属バット、マジックハンドに風船ヨーヨーなどの怪しい武器を持った強面ばかりだ。
「くそっ! こんな連中呼ぶなんてどこまで悪い奴なんだ。よーし、もう許さないぞ! 合体だ! とことん徹底的にやっつけてやる!」
ハーペンが怒った。
「来い! 豪助。おまえの力を貸してくれ」
「おうよ、負かせとけ」
「よし! アーマーよ、来い!」
今度ばかりはアーマーも怒りのポーズでビュビューンと光の速さで飛んで来た。あまりに速くて地球を7週半もして来たというのに誰にも気がついてもらえずにがっかりした。が、それでもアーマーは偉かった。

シャキーン!

二人は合体! 着替えている間がなかったのでメイド服のままだったのがやや悔やまれた感はあったが、現れたフォームは微妙にフリルのエプロンがまとわっている程度の被害で済んだ。まあ、半分目を瞑って見れば見られないこともない程度である。
「行くぞ、悪者! 8分目キックだ!」
――空手割りチョップ!
「まる三角四角蹴り!」
――真剣白子鳩!
「とどめのつもり拳だぁ!」
そんなこんなでハーペンは豪助の空手の能力を借りて、次々と敵を倒して行った。
「見たか! 知ったか! 我が力! メイビー星は永遠だ」
――おれの蹴りやチョップで勝ったことを忘れるな
漢検4級も言った。

久々に正統派の戦いを披露したハーペンであったが、何しろ敵が多かった。ハーペンが戦っている間、他の連中もただぼけっと見ていた訳ではない。それぞれがまた戦っていたのである。サツマーゲはチョクと、オダイコンはレージュンと合体し、タマゴはすっかり仲良くなったヤキチョバとそれぞれ合体して戦った。単体でも強いメノンとカレンも加わってメイド喫茶は大混乱。しかし、そのおかげで怖い兄さん達は一人残らずやっつけることができた。

「バ、バカな……」
すっかり腰を抜かした古沢部長がこっそり逃げ出そうとしているところをつぼねにその襟首を掴まれて引きずり戻された。そこへ大分警部がやって来て言った。
「古沢丸夫、公金横領並びに収賄の疑いで逮捕する」
「何? 何故だ? そんな証拠などどこにも……」
「証拠はこれだ!」
警部が小さな豆を摘んで見せる。
「この真似豆がすべてを記録していたのだ」
「い、いつの間に……」
「私がこっそり部長の上着の襟に付けておいたのです。おかげで昨夜の裏取引の内容をすべて警察に通報することが出来ました。そして、会社の金庫に隠されていた二重帳簿のコピーもここにあります」
今まで黙っていた福島課長もここぞとばかりに書類の束を突きつけた。動揺する古沢。しかし、葵の御紋ならぬ、動かぬ証拠を突きつけられては逃げようもない。ついに観念して御用になった。


 「これでお父さんは会社を辞めなくて済むし、はじめも転校しなくてよくなったね」
ハーペンがうれしそうに言った。
「うん。ありがとう、ハンペン」
「いやいや」
「それにしてもほんとびっくりしたよ」
「何が?」
「だって、ハンペンが本当にヒーローみたいに見えたんだもの」
「おれはいつだって本物のヒーローさ」
「ありがとう。本物のヒーローさん」
そのヒーローの尻は相変わらず裂けたままだった。が、そんなこと気にもならないほど、今回はヒーローしていたと思うはじめと豪助だった。

つづく