第13話 1クール終了! 踊るパンツ大捜査線!


 それは、秋もぐんぐん深まって、冬の空っ風がビピューンっとあいさつしてきたほぼ12月初めの午後3時42分前後のことだった。薄暗い道場の廊下を薄ぼんやりとした光を放ちながら白いオダイコンが歩いてきた。その先にはいつものメンバーが戯れている。
「おい、誰か、わたしのパンツを知らないか?」
オダイコンが突然シリアスな顔で訊いた。
「何? なくしたのか?」
メンバーの中では大佐という称号を持つサツマーゲが言った。
「何処にも見当たらないのだ。今朝、ちゃんとお洗濯ネットに入れて形が崩れないように丁寧にこの手でもみもみ洗って、そこの竿竹に干しておいたのだが……。何処をどう探しても見つからないのだ」

「ポチがくわえて持って行っちまったんじゃないのか?」
サツマーゲが言った。
「いや、さっき訊いてみたのだが、ポチはずっと犬小屋の中で妄想にふけっていたと言うのだ」
オダイコンが答える。
「なら、風に飛ばされちまったんだろう。そこの糞詰まりを探してみたか? 飛ばされたもんは大抵そこに詰まってるぞ」
豪助が言った。
「いいや、この家の敷地のすべてを見たがなかったのだ」
オダイコンが悲痛な顔で言った。
「そうか。なら、タマゴの奴が頭にかぶって遊んでるとか……」
ハーペンの言葉にタマゴが剥き実になって抗議した。
「我は腐ってもタマゴ。尻にパンツをはくなんて恥ずかしい真似ができるか!」
などと怒った。
「そうか……」
オダイコンが肩を落とした。

「おい、どうした? たかがパンツくらいで落ち込むな」
とハーペンが落としたオダイコンの肩を拾うとカチリと肩にはめてやった。
「しかし……。あれは、ただのパンツではないのだ」
「と、言うと?」
豪助が訊いた。
「あれは、ずっと前から憧れて、ちまちまこつこつとおこづかいを貯めてようやく買った唯一無二のパンツなのだ」
「何? ということは……まさかおまえ……」
サツマーゲが目を白黒させて言った。
「おまえは今、ノーパンなのか?」
サツマーゲの言葉にオダイコンがおててで顔を隠して言った。
「いやん! バカん。恥ずかしいじゃない」
「そうか。そうだったのか。オダイコンはパンツを1枚しか持っていなかったのか……」
ハーペンが真剣な眼差しで同情した。
「わかるぞ。その気持ち……。おれのパンツも裂け方が半端ないからいつも裂けっぱなしですーすーするのだ」
「うるさいっ! おまえの頭とは違うのだぞ。この私のビューティーエレガントなパンツといっしょにしないでもらいたいわ!」
オダイコンがキイキイ叫ぶ。

「わかった。落ち着け! 今、探してやるから……」
豪助が言った。
「そうか。ありがとう。持つべきものはチクワのホモだ」
オダイコンが真剣な顔で言った。
「何? 竹馬の友だと? それを言うなら女学生の友の方がうれしいんだぞ」
豪助が言った。(作者 注)ふ、古すぎるぞ!
「残念ながらそいつは1977年に休刊となったそうだ。類語としてはヤマトナデシコというのもあるが、こちらも残念ながら今はめっきり見かけなくなったとある」
タマゴがデジタル幼字苑を引きながら言った。
「何だと? それは本当か?」
豪助が覗く。
「ああ、書いてあるぞ。ただし、近年、特にヤマトナデシコについてはサッカーの星、なでしこジャパンとして世界の頂点に立つというハットトリックワンダフルな快挙を成し遂げたとある」
「おー、そうだ、世界はワンダフルなパンツなのだ」
などと訳のわからないことを言い出す豪助を無視してハーペンが言った。
「よし! 我らメイビー探検隊はオダイコンのパンツ捜索という重大な任務を帯びててんでんバッタになって探しに行こうと思うんだぞ」
「よし! 行け! 探して探して探しまくれ!」
サツマーゲも叫ぶ。

「みんな、それほどまでに……。私は実によい仲間を持った。この恩は多分一週間後の今日くらいまでは覚えているかもしれないと思う」
オダイコンが言った。
「よし! そうとなったらシュッパツだ!」
サツマーゲが叫ぶ。
「よーし! みんなで力を合わせてパンツをひっ捕らえるぞ!」
豪助が叫ぶ。
「そうだ。落し物なら当番のところに届いているかもしれないぞ」
タマゴが言った。
「おお。そうだ。みんな、本番へ急げ!」
サツマーゲの言葉に豪助が赤面しながら駆けていく。
「何? 本番だと? そいつはいかん。こうなったら一刻の猶予もないぞ」
「おお、確かに。この話は絶版になっても2度と復刻しないだろう」
オダイコンがシリアスに前を隠しながら走る。


 「あれ? ハンペン達、みんなそろってどこに行くの?」
公園の前ではじめに会った。
「脱がせ物を探してるんだ」
ハーペンが言った。
「脱がせもの?」
「ああ、違った。はかせもの。っていうかほら、これだ」
ハーペンが思い切り尻を突き出す。
「おしり?」
「そう。裂けないおしり!」
ハーペンが叫ぶ。そう。何故か今回に限って尻は裂けなかった。おかげでハーペンはパンツという単語を失念したままはじめに言った。
「そうじゃなくて、そのかぶってるやつ」
「ぼうし?」
「そうじゃなくて穴が二つ空いてて足が2本出て、いいや、大きな穴と小さな穴が……」
「何? それってなぞなぞ?」
ハーペンがあまりひどい説明をするので話がややこしくなってしまった。が、要はパンツである。

「なら、落し物箱に入ってるかもしれないよ」
はじめに教えてもらった職員室の落し物の箱を覗いたが、そこにパンツは届いていないと言う。仕方がないので、交番にも寄ってみた。すると大分警部が慌てて言った。
「いや。さっき通り掛かった焼き芋屋で焼きいもを買った事実などは全くないのであります。何しろ本官はただ今任務中でありますから、いくら焼き芋が恋しかろうと喉から手が出るほど欲して熱してたまらなくなろうと、焼きいもに手を出すなどという不埒な態度は許されざる背徳でありまして、ここに焼きいもの皮がるように見えるのは目の錯覚でしかなく、ここに焼きいもは既に存在することなく、パンツの残りは本館の腹に収まっている訳では決してないのであります」
つまりパンツのお届け物というのはなかったようだ。
「そうか。頼みのツナ缶であった交番にも届いていないとは……」
オダイコンが眉間にしわを寄せて言った。

「お、向こうから来るのはゆいちゃんとメイちゃんではないか。おーい」
豪助が呼んだ。
「待て! あの二人に一体何を言おうと言うのだ?」
オダイコンが慌てて言った。
「何をも何もおまえのパンツを見なかったかと訊いてみるに決まっているじゃないか」
豪助が言った。
「だめ!」
オダイコンが叫ぶ。
「何で?」
「わたしのパンツを知らないかなんて、そんな恥ずかしいことを乙女な女子高生に訊くなんて鬼だ。悪魔だ。いや、よいこのパンツだ。今、まさにわたしがノーパンでいることが知れたら恥ずかしくてもう二度とおべんと箱に尻を向けて眠れなくなってしまうではないか」
オダイコンが叫ぶ。その声は拡声器のように反響し、市内全域にこだました。何とそこには防災無線のスイッチがオンになったまま放置されていたのである。が、何故か女子高生二人はいそいそと彼らの前を通り過ぎた。

「あれれ? 今の放送が聞こえなかったのかな?」
サツマーゲが言った。
「いや、いくら二人が私のこの上なきファンであろうと恥ずかしくて顔を向けることがはばかられるのだ」
オダイコンが言った。
「なら、おれが訊いてみるぞ」
ハーペンが言った。
「おーい、ゆいちゃんにメイちゃん。今の放送どう思う?」
「放送?」
「何? それ」
二人はぽかんとした顔で見た。
「わたし達、今とっても急いでるのよ」
「そうそう。コインランドリーにすっごいイケメンがいるの。もしかしたら、あのロックシンガーのヤッキーかもしれないのよ」
二人は足も止めずに走っていった。

「何? ヤッキーだと? この間は北のタウンの女子がそのコンサートを見るために徹夜で並んだという幻の字余り系モップの小僧か?」
豪助が言った。
「ふむ。私のライバルとしては物足りぬが、今は奴のお洗濯がうまくいくよう祈っててやろう」
オダイコンが言った。
「洗濯だと? そうだ。コインランドリーにはよくとりもらしたパンツとかが残っていることがあるぞ」
タマゴが言った。
「そうか。よし! 敵はコインランドリーか。行くぞ、おでんのでんでん太鼓! 討ち入りじゃあ」
サツマーゲが叫ぶ。と、ハーペンがペットボトルのおまけに付いてたでんでんだいこをパタパタと振った。
「何だ? それは」
豪助が訊く。
「何だ、知らないのか? メイビー星では討ち入りの時に太鼓を鳴らすのだ」
ハーペンが高く掲げてフリフリした。すると太鼓のひもがぶすっと切れてオダイコンのXYXに直撃した。

   ☆☆☆

「ハンペン、貴様……、いつか討ち取ってくれる」
オダイコンがYYXを隠しながら言った。
「そんなことはどうでもいい! めざせ、コインロカービリー!」
タマゴが叫んでピョンピョン跳ねた。が、あとからきた豪助が呟く。
「古過ぎてこれを読んでる読者は知らないだろう。ロカベリベリーヒップなど……」
(注)作者だって知らん!
「っていうか、頭が攪拌する前に場面転換をお願いするわ」
とオダイコンが要望したのでここはリクエストに答えよう。


 場面は変わった。ここは何処の街にもあるごく普通のコインランドリーである。そこに二人の人影があった。そして、密やかな話し声がもれている。
「兄さん、ほら、乾燥終わりましたよ」
「うむ。やはりクリーニング仕立てというのはよい物だ」
「あは。いい香りがしますね、兄さん」
「新発売のフローラルレモンの香りにしてみたのだ。この方が以前使っていた物よりずっと爽やかなよい香りがするからな」
「ほんと。僕達には似合いますね」
二人は乾燥機から取り出した洗濯物を抱えてそんな会話をしていた。
「いた! きゃん! ヤッキー、こっち向いて」
「あの、サインしてもらえますか?」
ゆいとメイがはしゃいで言った。

「あは。こんなところ見られちゃって、ちょっと恥ずかしいけど、いいよ」
彼はプリティー爽やかな笑顔でうなずいた。
「きゃーん! ありがとうございまーす」
二人は大はしゃぎでお礼を言った。
「あの、こちらの方は?」
ゆいが訊いた。
「ああ、僕の兄です」
彼が答える。と、言われた男もこれまたセクシースマイルであいさつする。
「やあ、いつも弟が世話を掛けてすみませんね」
「いやだ。世話だなんてとんでもない」
「そうですよ。わたし達、ずっとファンだったんですもの」
二人が言った。

「おや、そこにいるのはイケメンホストのメルノンパムリエ君じゃないの」
つぼねが言った。
「ああ、つぼねさん。この間はどうも。大分帰りが遅くなってしまってご主人、心配されていたでしょう」
「いえいえ、全然。帰ったらグースカピーって寝てましたよ」
つぼねがそこはかとなく頬を染めて言った。
「そうですか? でも、あまりご主人を心配させるとよくありませんよ」
「んまっ! おやさしいのね」
つぼねがうれしそうに笑う。
「あー、あんたらそこで何してん? そんなところでイケメン兄さんを一人占めしようたってそうはいかないよ」
ミムラーがほうきを振り回して言った。
「何言ってんだい。一人じゃないよ」
つぼねが怒る。

「まあまあ、二人共、ご近所なんだし、仲良くしましょうよ」
「そうそう。宇宙は広い。人類は皆、兄弟です」
二人がにっこり笑うとみんなも笑顔になった。と、そこへ賑やかな一団がやって来る。
「おー、ここだな。よし。おめこぼしのパンツがないか見てやるぞ」
ハーペンが乾燥機の中に頭を突っ込んでみた。
「お、あったぞ」
と叫ぶハーペンにオダイコンが興奮する。
「何? それは確かに私のビューティーゴージャスなパンツなのか?」
「ああ。黄緑色をしているが、大事なところを隠すあの部分には違いないぞ」
と、ハーペンが取り出す。確かにそれは大事なところを隠すためのあの部分であった。が……。
「それは私のアーマーの一部だ。返していただこう」
イケメン兄が言った。
「あれ? おかしいですねえ。さっきは確かに全部取り出したと思ったのに……」
イケメン弟が不思議がる。
「いや、どうも、繰り返し洗濯をしているうちにこの部分が外れやすくなっていたようだ」
イケメン兄がすっとハーペンの手からその部分をとって自分の黄緑色のそこにはめた。

「何だ。こいつはメノンのパンツだったのか」
ハーペンが言った。
「え?」
女子4人が驚いてハーペンを見つめる。
「やだねえ、あんたこんなイケメンをつかまえて宇宙人呼ばわりするなんて……」
「そうそう。気を悪くしないでくださいよ。どうせ、こいつらはおでんの一味唐辛子肌なんですから……」
つぼねとミムラーが懸命に言い訳する。
「それって差別だぞ。宇宙人差別反対!」
タマゴが跳ねたり転がったりしながらブラジャーカードを振り回す。それを見て女子高生二人が顔を赤らめて言った。
「いやだ。あれって、もしかして……」
「女物のブラジャーじゃない」
「いやん!」
「変態!」
と3歩下がって抗議する。

「いやだもひわいだも何もそこの洗濯機の中にあったのだぞ」
とタマゴも必死の抵抗を試みる。が、それをむんずと掴んできた者がいた。
「貴様、それはわたしがこれから洗濯しようとリザーブしておいたブラジャーだぞ」
カレンだった。
「おかしなおでんの分際で神聖なおいも命の乙女心を傷つけるとは……許せん! 切り捨ててくれる」
興奮して騒ぐカレン。
「妹よ落ち着きなさい」
メノンが止める。
「ええい! 止めてくれるな兄上よ」
カレンの言葉に色を失う女4人。
「えーっ。それじゃ、ほんとにイケメンホストの彼はメノンだったの?」
「ああ。弟や妹達を食べさせていかなければならないからな。一番効率のいいバイトだったのだ」
メノンが言った。

「ってえことは、もしかして……」
女子高生二人が振り向くと茶色いアーマーを身につけたヤキチョバが立っていた。
「はい。サイン書けたぞ。それにしてもおれのファンだったなんて気分最高! おれ、今夜はノリノリでいっちゃいそうだよ、なあ、兄ちゃん」
「何と! ストリクト星人とは、メイビー星人とは似ても似付かぬ美形であったか。それにしても、何でアーマーをつけるとしゃべり方が変わるんだ?」
豪助が言った。
「それは……。多分、地球の重力のせいで翻訳器の調子が崩れるのではないかと思う」
メノンの言葉に納得した豪助がハーペンを見て言った。
「そうか。それで、ハンペンの顔も乱れているのか」
「何? 乱れているとは何だ? ちょっとくらい中身が美形だからってうらやまし過ぎるんだぞ」
ハーペンが悔しがる。そこへ、ストリクトの仲良しチョクとレージュンが洗濯ネットをぶら下げてやって来た。二人もアーマーを洗濯しようとしているらしい。
「アーマーって結構汚れやすいのよね、チョクちゃん」
「そうそう。だから、お洗濯はマメにしないとね、レージュンちゃん」
何と二人は超美形の双子の姉妹だったのだ。

「へえ。すごいね。ストリクトの人達ってマスクの下は美形ぞろいなんだ」
あとからやって来たはじめが言った。
「ねえ、それじゃあ、メイビーの人達もマスクを脱いだら美形なの? ハンペン、ちょっとマスクを外してみてよ」
はじめのリクエストにハーペンはうなずく。
「よし、マスクをとるぞ」
「なに? まさか、おまえも素顔を隠していたとは……」
豪助が驚く。
「能有るバカは顔を隠すと言うではないか」
ハーペンは得意そうにはっはっはと笑うと顔を引っ剥がそうとほっぺのお肉を思い切り左右に引っ張った。
「ぎーぐーげーぐぉー……」
あまりの変顔に変音がもれる。しかし、そこにマスクの存在はなかったと確認できただけだった。

「何だい、どうせそんなことだろうと思ったよ。」
つぼねが言った。
「そんなことより私のパンツだ」
オダイコンが言った。
「そうだ。パンツを失くしてしまったから、今、オダイコンはノーパンなのだ」
ハーペンが叫ぶ。
「いやーん。ノーパンだなんて信じらんない」
ゆいとメイは顔を見合わせて言ったし、チョクとレージュンも見事なまでにイキの合った反応をした。つぼねとミムラーも互いの顔を見て吹き出した。
「貴様、ノーパンで町をうろうろするなど変態の極み。わたしの屁をお見舞いに遣わすぞ」
カレンもブーブー文句を言った。
「ちょっと待て。私は確かにノーパンだが、皆が想像しているような状態ではない。たとえパンツがなかろうと私は常に尻をガードするためにだいだらぽちっとロン毛腹巻もしている。しかもこれは遠白外線効果で真冬でもぽかぽか暖かいのだ」
「何だ。おまえも買ったのか。こないだの宇宙テレブラショッピング」
サツマーゲが言った。
「そうだ。だから何処をどう切っても安心安全な状態なのだ」
オダイコンが言った。

「そうか。そうだったのか」
と皆が納得したその時、
「あ、兄上、アーマーの股が……」
カレンが叫んだ。
「何! いかん。接着が甘くなっていたのだ」
その部分は風に飛ばされて数メートル先に落ちた。メノンは急いでそれを拾おうと手を伸ばす。と、その瞬間。一羽のカラスがビューンとすごい勢いで降りて来て、それをパクンとくわえて飛んで行った。
「待て! 私の大事なXXXを返せ!」
メノンが焦ってバタ足をした。
「おのれ! カラスめ! 今こそ目にもの見せてやる」
メノンは空に向かって両手を上げた。
「シュワッチ!」
飛び立ち失敗! それは第1話以来の恥辱をもって終息した。

「メノン兄さん落ち着いて」
「相手はただのカラスじゃありませんか」
チョクとレージュンがなだめる。
「たかがカラスだと? いいや。これは男の股間に関わる大きな問題なのだ!」
ハーペンが叫ぶ。
「決して許してはおけないぞ。おい、メノン。おれは今までおまえのことはずっとただのメロンパンだと思っていた。が、今はちがう! 今、おまえは同志となった。共に戦おうではないか」
「うむ」
メノンもシリアスに頷く。
「よし。合体だ! 今こそメイビーとストリクトの力を合わせた変態の力を見せ付けてやるのだ」
「そうだ! いいぞ、ハンペン。それでこそハンペラだ」
豪助も言った。
「行け! ハンペン。正義の鐘をキンコンカーン! と鳴らすのだ」
サツマーゲも言った。皆が感動して二人を見ている。

「よし! 合体するぞ。アーマーよ来い!」
ハーペンが叫ぶ。と遥か宇宙の彼方から、微妙な色合いのアーマーが来た。
「よし! 今だ! 来い! メノン。おれの大いなる胸で受け止めてやる」
ハーペンが両手を広げ、おいでおいでとひらひら振った。メノンももはや何のためらいもなく彼に向かって駆けて行く。とその時、スッコーンとメノンが石につまづいてすっ転んだ。その勢いで外れやすくなっていたアーマーの股の後ろの部分も外れた。つまり尻の部分である。それは勢いに乗って飛んだ。そして、見事ハーペンと合体した。
「シャッキーン! 合体成功!」
それは巨大な黄緑色の尻に微妙に赤い手足が生えた中途半端なデザインで、それを見て、皆は一様にがっかりした。が、さすがはメイビーとストリクトの科学の粋を融合させた品物である。ガンガンカウンターを搭載した空間悪者探査装置で集音した結果、泥棒カラスがパンツに埋もれてうれしがってる声を傍受。たちまちカラスのねぐらをつきとめた。
「ここか? 悪いカラスめ。盗んだ物を返せ!」
ハーペンが問い詰めるとカラスはあっさり自供した。

「でも、あんさん、悪いのはわての方ばかりではおまへんのや」
カラスは何故だかえせ関西弁で言った。
「悪いのは人間ですねん。わてらカラス族の弱みにつけいって下着盗って来いなんて脅すのや。でないと、可愛い七つの子にいじわるしちゃうなんてあこぎなこと言いますのんや」
「わかった。それで、その悪い人間というのは?」
ハーペンが訊く。と、カラスはペラペラとしゃべりおった。そんで、すぐにその悪い人間の住処が割れた。
「よし! みんなでそこへ乗り込むぞ!」
ハーペンが言った。
エイエイオー! とメイビー&ストリクト&地球の愉快な仲間達が全員集合して乗り込んだ。
「よーし。みんな乗ったか? 発射オーライ!」


 そこには、いかにもパンツのような顔をした悪い男が部屋の真ん中にいろんなパンツを広げて興奮していた。
「おまえがパンツ泥棒か?」
ハーペンが言った。
「な、何者だ! 何故、このおれがパンツ泥棒だとわかった?」
そいつが言った。
「わかるさ。見ろ。おまえは何処からどう見てもパンツじゃないか。おまえの足元にたんまりあるパンツが何よりの証拠だ!」
ハーペンが叫ぶ。
「くそっ」
男は意味もなくパンツを散らかす。それを見て、皆が叫んだ。

「ややっ! あれこそは頭にかぶった我がパンツ」
タマゴが跳ねた。
「おお、私のアーマーの股もあったぞ」
メノンもうれしそうに頷いた。
「あんれ、やだよ。あたしのデカパンと父ちゃんの安売りパンツまであるよ」
つぼねも言った。
「ぼくのパンツもある」
はじめも言った。
「わたし達のぶどう模様とパンの耳模様のパンツもあるわ」
チョクとレージュンが同時に叫ぶ。
「あーっ! おれのイチゴ模様のパンツもあるぞ、兄ちゃん」
ヤキチョバも言った。
「おれのはしましま」
豪助が言った。
「あたしゃつぎはぎ」
ミムラーもパンツの山の中から自分の物を探し出すとゴキゲンになった。

ただし、ゆいとメイとカレンの物だけは見つからず、ほっとしていると、犯人の男がにやにやして言った。
「ヒヒヒ。本物のお宝は金庫にしまってあるんだもんね」
するとカレンがその金庫を一刀両断にするとそこから彼女達のフリフリパンツが山盛り出て来た。
「あ! 私のパンツが」
オダイコンがその中にあった超絶レースの3段フリル、リボン付きパンツを抱き締める。
「おお、懐かしの我がパンツよ。だが、一度人の手に落ちたこのパンツ。捨てるべきか履くべきかそれが問題だ」
などと言って眉間に皺を寄せた。

「ハーペンよ、今度こそ完璧なる合体で人類の悪をこらしめようではないか」
前にも後ろにもきっちりはめたアーマーを身につけたメノンが言った。
「おう、いいとも、友よ。合体だ!」
そうして彼らは今度こそまともに合体した。
「シャッキーン地獄にあえぐのはおまえだ!」
――正義の鉄槌をくれてやる
「合体ヒーローここに参上!」
あまりの超展開についていけなかった犯人は、赤ちゃんハイハイして逃げようとしていた。そこで、よい子のヒーロー「おでんパン」は、悪い犯人をつかまえ、お尻をペンペンしまくった。そして、頭や尻や両手に両足、全身にパンツを履かせて警察に届けた……。


 「おお、本当にお手柄であった。最近、管内でやたらパンツが盗まれるという事件が多発していたのだ。ありがとう。君達の協力的な尻に感謝する」
大分警部に褒められてみんなにこにこ微笑んだ。
「おかげで、ドロボーカラスなんて汚名も晴れて、わての可愛い七つの子達もようやく学校でいじめられなくなりましたんや。ほんに感謝しますわ」
とカラスも言った。
「これでめでたしめでたしだね」
はじめが言った。
「おれはちっともめでたくないよ。ああ、愛しのパンツちゃーん」
泥棒は泣いた。
「おまえは鉄格子の中でじっくり反省しなさい」
大分警部に引きずられ、そいつは警察署の奥へ連れて行かれた。哀れ。パンツ大好き下着泥棒の末路である。

そうして、彼ら勇敢な宇宙人達の活躍によって埼玉北のタウンの平和は守られたのである。
「よかったね、ハンペン」
はじめが言った。
「ああ。悪は必ず滅び、正義は必ず勝つのさ」
「カッコいい!」
はじめから褒められてハーペンは図に乗った。
「いやあ、それほどでもあったりなかったりあるけどさ。いやあ、今日は実に愉快爽快奇々怪々な時間であった。これからもちゃんとパンツは履くんだぞ」
ハーペンはそう言ってはははと笑う。と、その尻圧に耐え切れず、ハーペンの尻はまたベリリと豪快に裂けたのである。


つづく