第3話 君もヒーローになれる!


 結局、ハーペンは、豪助の家に居候させてもらうことにした。豪助の家は、住居こそ狭かったが、空手の道場を持っており、日々の鍛錬をするにも都合がよかったからだ。
「うーん。こうしてじっくり見ると、墨で書いたという『書』という物もなかなか風情がある」
ハーペンは道場の壁に掛けられていた子供達の書初めの作品を見て感心した。
「これなんか特にいい」
と立ち止まる。そこには、『初日の出』と書かれていた。
「でも、それ、間違ってるんだよ」
と背後で子供の声がした。

「え? こんなに上手に書けているのに?」
ハーペンが訊いた。
「ほら、この初っていう字の点が一つ足りなかったんだ。なのに、そのまま貼られちゃって……。ぼく、死ぬ程恥ずかしい思いをしたんだ。なのに、次の空手の認定試験で級が取れるまで剥がしちゃいけないって言うんだ」
と困ったような顔をする。
「へえ。でも、たかが点1個足りないってことがそれ程重要なことなのかい?」
「やだなあ。決まってるじゃないか。おじさん、字を知らないの?」
と男の子が訊いた。
「おれは宇宙人だから、地球の言葉はよくわからないんだ」
「宇宙人だって?」
子供はオーバーに言った。

「そうさ。おれは、宇宙のヒーロー、『ボルダーガイン』さ」
「『ボルダーガイン』だって? そんなの聞いたことないよ」
「そうかもしれない。だけど、ヒーローは人知れず、いつだって戦っているんだ」
と自信たっぷりに言う。
「誰と戦ってるの?」
「ストリクト星人さ」
「そいつは悪い奴なの?」
「ああ。悪い奴だ。この間は、限定販売のメロンパンを一人占めにした」
子供はなーんだという顔をしてさっさと自分の胴着に着替え始めた。

「君は、ここの道場に着ている子なのかい?」
ハーペンが訊いた。
「うん。兄ちゃんが先に空手やってたんだ。だから、ぼくも始めたんだよ。まだここに来るのは2年目なんだけどさ。ちっともうまくならないんだ。でも、今にうんと強くなって悪い奴らをみんなやっつけてやるんだ」
「地球にも悪い奴がいるのか?」
「いるよ。学校にも近所にもいる。それに、お父さんの会社にも」
「そんなにいるのか」
少年は俯いたまま支度を続ける。

「おまえ、名前は何て言うんだ?」
「はじめだよ。福島はじめ」
「へえ。いい名前だな。おれは、ハーペンだ」
と名乗る。
「ハンペン? 変てこな名前」
とはじめは笑う。
「変じゃないさ。みんな、おれを尊敬してこう呼ぶんだ。『宇宙の勇者様ウェルヘス ナント ナクサハート リー ハーペン様ぁ、ステキ!』ってね」
「ヘルペス? 去年、おばあちゃんがなったよ。あれって痛くて大変なんだってねえ。おばあちゃんは2週間も入院したんだ」
「おお、それは気の毒に。でも、おれは元気だし」
とガッツポーズをする。

「おじさん、おもしろいね」
と笑う。
「そうか。おもしろいか。いいぞ。そうやって笑ってる顔が一番いい」
「1番?」
「そうだ」
「ぼくは1番にはなれないよ。いつもぼくの前には兄ちゃんがいて……。それに、クラスでも、ぼくが1番弱いんだ。サッカーやドッチボールでもいつもぼくが入るチームは負けちゃうんだ。それで、正ちゃんや明君が怒っちゃってさ」
としょんぼりする。
「だから、ぼく、強くなりたくて……それで空手を始めたんだけど……ちっとも強くなれなくて……あとから来た子の方がずっとうまくて、ぼく、ホントはもう空手なんかやめたいんだ」

「なのに、おまえは1番に来たのか?」
突然、背後で声がした。豪助だった。
「だって、だって、お母さんが勝手に車で連れて来て……ぼくは来たくなんかなかったのに……」
はじめがぐずぐずと言いわけする。
「なら、家に帰れ」
豪助が言った。子どもは驚いてその顔を見上げる。
「やる気のない者は来なくていい。稽古の邪魔だからな」
はじめはうっと声を詰まらせた。それから、俯いて言った。
「わかりました。失礼します」
そう頭を下げるとダッと表へ駆け出した。

「おい! 待てよ、はじめ!」
ハーペンがあとを追おうとするが豪助が止める。
「無駄だ。もうあの子は来んよ」
「何故わかる?」
「目だよ。自分に負けとる。稽古にも身が入っておらんし、やる気もない。あんなんじゃ、いくら来ても精進はしない」
「本気でそう思ってるのかい?」
ハーペンが言った。
「あの子は強くなりたいと言った。守りたいものがきっとあるんだ。だから、はじめはきっと強くなる。このままじゃ終わらないさ」
「ハンペン、おまえ……」
「おれ、あの子を連れ戻して来るよ。いいだろう?」
豪助がうなずく。
「よっしゃ。そんじゃあ行って来るぞ」
ハーペンは駆けた。とてもヒーローとは思えないドタドタと間抜けな音を立てていたが、豪助は感動していた。
「あいつ。ただのおでん野郎だと思っていたが、案外いい奴なのかもしれないな。宇宙から来たというホラ話はいただけないが、何となくいい奴にはちがいないって気がする」


 「おーい! はじめぇ! どこだぁ?」
ハーペンはどこか間延びした声ではじめを呼んだ。が、子供の姿は見当たらない。
「おかしいなあ。そう遠くへ行くはずはないんだが……」
とキョロキョロ当たりを見回すと、何やら塀の向こうで子供達の影がうごめいている。そっと近づくと声が聞こえた。
「おい、はじめ、おまえのせいでまたサッカーの試合負けちゃったじゃないか」
体格のいい明が小柄なはじめを突く。
「おまえの兄ちゃんはスポーツ万能なのに……」
「どうしておまえだけそんなに弱いんだよ」
と正太や順次までどついて来る。

「ぼくだって別に負けたくてそうしてるわけじゃないよ」
とはじめが反論する。
「だったらたまにはパスくらい取ってみろよ」
「でも、ぼく……ボール怖くて……」
とベソをかく。
「だって、おまえ空手やってるんだろ?」
「だったら、少しはカッコいいとこ見せてみろよ」
「でも……ぼく、もう空手はやめたんだ」
と泣き出す。それを見て子供達が、
「運痴! 運痴!」
と口々にはやす。

「よせよ。君達フェアじゃないぞ」
いきなり現れた大人に子供達は驚いて振り向く。
「誰だよ? おまえ」
「おれは、ハーペン。宇宙のヒーローだ」
その言葉に一瞬静まり返った子供達だったが、すぐに皆、目と目を合わせると言った。
「宇宙人だって?」
「イカレてる」
「こいつ、変質者だ」
「逃げろ! ナイフとか持ってるかもしれないぞ」
「そうだよ。危ない人に近づいちゃいけないって母ちゃんが言ってたぞ」
子供達はわあっと一斉に散って行った。

「ハンペン……」
最後に残ったはじめが涙目で言った。
「ほら、泣くな」
とハーペンはハンカチを貸してやった。
「ありがと」
はじめはゴシゴシと涙を拭いた。
「でも、ホントなんだ。ぼくは、いつもみそっかすなんだ」
「何をやっても? そんなことないさ。はじめにだってきっと得意なことがあるはずさ。好きなものは何だい?」
「本。それと算数!」
はじめは言った。

「そうか。おれも算数は得意だったんだ」
「ホントに? それじゃあ、九九とかも得意?」
「九九? ああ。得意だとも」
「それじゃ、7×6は何だ?」
「7×6だって? えーとえーとそれは……」
「42だよ!」
はじめが得意そうに言った。
「へえ。すごいんだなあ」
ハーペンが感心する。
「うん。ぼく、クラスで1番最初に九九覚えたんだよ。それで、先生からピカピカの合格シールもらったんだ」
得意そうに言うはじめの肩を抱いてハーペンは言った。
「あるじゃないか。1番」
「あ、ホントだ。あったね、1番」
とうれしそうに笑う。それを見て、ハーペンもうれしそうにわらった。

と、その時。
「きゃああ!」
と突然悲鳴が上がった。見ると、向こうのバス通りで怪人が暴れている。二人はうなずき合うとすぐにそちらへ駆け出した。そいつは、商店街の方で店の陳列棚から手当たり次第に物を掴んで投げていた。
「やめて!」
と店員や客達が騒いでいる。そいつは茶色の装甲をまとったストリクト星人だった。
「くそっ! やはり、ストリクト星人はメノン一人じゃなかったのか。おまえは誰だ?」
「おれは、メノン兄貴の末の弟、ヤキチョバ パムだ!」
と叫んだ。その手には大きなコッペパンが握られ、そこに挟まれたスパゲッティが数本はみ出てプラプラとぶら下がっている。
「やきそばパンだって?」
はじめが吹き出す。
「ちがう! ヤキチョバ パムだ」
男は怒鳴ったが、そのせいでますます発音はあいまいとなり、みんなには『やきそばパン』と聞こえた。

「そのやきそばが何でスパゲッティーパンを持っている?」
覚えたばかりのそのパンの名前をハーペンは口にして優越感に浸った。
「黙れ! メノン兄貴が、この店のメロンパンが超絶うまいって言うから買いに来たんだ。なのに……。限定300個だから今日はもう全部売り切れたって言うんだ! ならば仕方ない。やきそばパンでガマンしてやるって言ったのに、この店にはスパゲッティーパンしか置いてないって言うんだ! メロンパン用にセットされたおれのナイーブな心はずたずたさ! もう絶対許せないんだから!」
とヤキチョバ パムは暴れた。
人々は呆れたが、被害に合ってはたまらない。皆、必死で奴が入って来ないようにと店の入り口に立って通せんぼした。

「くそぉ! そこをどけ! みんなどけ! めちゃくちゃにしてやるぅ」
ハーペンも止めようとしたが、相手はアーマーを身に付けていて歯が立たない。
「よし! こうなったら、こっちも変身だ! はじめ、力を貸してくれ」
「え? ぼくの?」
キョトンとしているはじめの腕を持ち、ハーペンが叫んだ。
「宇宙最強のアーマーよ。我がもとに来い!」
すると、たちまち空間が歪み、そこから虹色の光が広がって微妙に赤いそれが表れた。そして、二人の体にまとわるとそこに完全なるヒーローの姿が現れる。
「シャキーン! 合体成功! 正義の使者、『ボルダーガイン』ここに参上!」

――これが『ボルダーガイン』?
アーマーの中から声がした。
「そうだ。おれ達は合体した。これから、おまえの力はおれの力となる。そして、奴を倒すのだ」
――わかったよ。でも、どうすればいいの?
「それはこれから考える。行くぞ! 正義の鉄拳『ボルダーガインチョップ』を受けてみろ!」
ハーペンはダッシュした。
「何? ちょこざいな! 返り討ちにしてやる。キェーッ!」
とヤキチョバ パムが甲高い掛け声を上げる。
「キェーッキェーッ!」
――アハハ。何だかカラスみたいな声だね
「何を言うか! カラスは、こうだ。クァーックァーッ! キェーッキェーッ!」
「同じじゃないか」
とハーペンも笑う。
「クェーッ! バカにしたな? もう許さんぞ!」
ヤキチョバ パムが腕を振り上げ襲い掛かる。それをハーペンの腕が見事に払い、胸を突く。その手をヤキチョバが掴む。

――あれ? やきそばの指、6本あるよ
とはじめが言った。
「何?」
ハーペンは驚き、その指を数える。と、確かにその指は左右共に6本ずつ生えていた。
「ガハハ。そうだ。おれ達ストリクト星人は優れているから指だって12本もあるんだ」
と自慢する。
――それじゃあ、計算も得意なの?
「当然だ。我がストリクト星人に不可能の文字はない」
――それじゃあ、3×7はいくつ?
はじめの問いにヤキチョバは自信たっぷりに指を天に突き出して応えた。
「42だ!」
と左の指を4本と右の指を2本立てて言った。
――ブブーッ! はずれだよ
「何? そんなはずはない! さっきおまえが言っていた答えをちゃーんと記憶しておいたんだぞ」
――さっきのだって? あれは7×6って言ったんだよ。全然問題がちがうよ

「アハハ。ストリクト星人ってのも大したことないんだな」
とハーペンがここぞとばかりにゲラゲラ笑った。
「くっそぉ! 黙れ! おまえにだけは言われたくないセリフだぞ」
「そいつはいいや。もっと思い切り笑っちゃうもんね。ギャハハのワハハ。オホホのヘヘヘのカッカッカッ!」
「クーッ!」
ヤキチョバパムが持っていたスパゲッティーパンをガブリと噛んで悔しがる。
「何だよ、あれ? 変てこな仮面かぶったおじさんがギャグやってるぜ」
後ろで子供の声がした。
「ホントだ。しかもビミョー過ぎて何が言いたいのかよくわかんないってカンジだし」
それは、さっきはじめのことをいじめていた明達だった。

――あ! ダメだよ! そいつは悪い宇宙人なんだ! 怒らせたらまずいよ。早く逃げて!
と、はじめが言った。
「何?」
「はじめの声だ」
「でも、どこから?」
子供達がキョロキョロする。
――ここだよ。ぼくは正義のヒーロー『ボルダーガイン』になってるんだ
「『ボルダーガイン』だって?」
「そんなヒーロー知らないぞ」
「そんなのどこにいるんだよ?」
と更に見回しているその子達の前に、ハーペンはずずいと胸を張って出た。
「あー、ゴホン! 地球のよい子達よ。ここにいるおれが……」
と言い掛けた時、
「わたしが宇宙の英雄メノン パムだ」
と緑のアーマーを身に付けた毎度お騒がせの男が現れた。

「メノン! 貴様、再びおれの前に現れるとはいい度胸だな。この間の決着をつけてやる」
とハーペンが言った。
「ああ。いつでも相手になってやる。メロンパンはわたしのものだ」
――8×9はいくつ?
すかさずはじめが問題を出した。
「いい質問だ。答えはズバリ72だ!」
――すごーい! 大当たりだ。メロンおじさんは頭がいいね
「当然だ。わたしは、ストリクト星人の中でも最も優秀だといわれている」
――ホントだね。すごいや

「おーい! おれのこと忘れんなよ!」
とヤキチョバ パムがわめいた。
――やきそばおじさんはもっと勉強してちゃんと3×7の答えがわかるようになったらおいで
「はーい。わかりました。もう一度お勉強やりなおして来まーす」
と言って背中を向ける。
「よし! 為せば成る! 精進せいよ」
とハーペンが言った。が、ふとメノンが言った。
「ちょっと待て! ストリクト星では、もともと12進法を採用しているのだ。地球の算数とは計算の仕方がちがうのだ」
「え? それじゃあ、おれ、バカじゃなかったんだね? 兄ちゃん」
ヤキチョバ パムがうれしそうに言った。
「ああ。バカじゃないとも」
と弟の背中をよしよししてやる。

「美しい兄弟愛と言いたいところだが……」
とハーペンが言い掛けた時、
――そうか。それじゃあ、ハンペンもぼく達地球の子供とは計算のやり方がちがうんだね。ごめんよ。バカにして……
とはじめが謝る。
「い、いや、いいんだ。そんなこと……」
――そうだよね。ハンペンはもう大人なんだものね。九九がわからないはずないよね
「そ、そうとも」
ハーペンは自信を持って言った。が、今更、メイビー星では地球と同じ10進法を採用しているのだとはちょっと言いにくい状況となった。

「おい! はじめ。エラそうなこと言っておいて何もヒーローなんかしてないじゃん」
「そうだそうだ! 何が悪い宇宙人だよ。全然危なくなんかないじゃないか」
と子供達はヤキチョバやメノンに石をぶつけたり、足を蹴ったりしてからかった。
「貴様ら! この屈辱! 子供と言っても容赦しないぞ」
「しないぞ」
二人のストリクト星人は子供達を捕まえてお尻をペンペンした。
――やめろ! そいつらを放せ!
はじめが突進した。そして、習ったばかりのチョップや蹴りをバンバン決めた。ハーペンも手伝って無事に子供達を取り返す。

「うわあっ! ごめんなさい」
「ごめんなさい。もうしません」
子供達は泣いて謝った。
「わかればいいのだ」
「いいのだ」
メノン達も引き下がった。
――よかった。ケガはない?
はじめの言葉に子供達は皆彼に謝った。
「ごめんよ。もう、おまえのこと弱虫だなんていじめたりしないよ」
「おまえ、ホントにヒーローになったんだものな」
そして、みんな笑顔になった。
「よーし! これにて一件落着!」
とハーペンが叫ぶ。と同時にアーマーが外れ、二人の合体が解けた。

わあっと子供達がはじめの周りに集まって来る。
「ホントにごめんよ」
「これからはずっと友達でいような」
「うん」
はじめもうれしそうだ。
「そうだ。どんな時も勇気と自信を持って立ち向かえばきっとよい結果につながる。」
といつの間にかやって来た豪助が言った。
「戻って来い。おまえは、きっと強くなれる」
「本当ですか?」
「ああ。がんばれよ」
と笑う。
「はい!」
はじめが元気よく応える。
「よかったよかった」
ハーペンもうれしくなった。

「兄ちゃん、こいつら、案外いい奴らかもしれないね」
とヤキチョバが言った。
「ああ。どんな辺境の星でも、子供はみんないい子だ。それに、漢検4級もなかなかいい事を言う」
メノンが感心したように言った。
「漢検4級だって? おれ、この間とったよ」
正太が得意そうに言った。
「何? 小学生が漢検4級に合格したなんて、そりゃあ、おまえ、天才じゃないか」
と豪助が驚く。
「そうなんだ。正ちゃんは漢字博士なんだよ」
とはじめが言った。
「それに、明はサッカーの天才で、順次は絵を描かせたらだれにも負けないんだ」
はじめの言葉に皆、うれしそうにうなずく。
「そいで、はじめは算数の天才さ」
明が言った。
「そうそう。暗算やらせたらこいつの右に出る者なしなんだぜ」
正太も続ける。
「へえ。みんな、すごい特技があるんじゃないか」
とハーペンが言う。

「そうだ。みんな、それぞれの1番があるんだ。それぞれの力を出し合って互いに協力すれば、越えられない壁はない。がんばれよ。地球の子供達」
とメノンが言うとわあっと子供達が歓声を上げた。
「そうだそうだ。おれ達はここで一つに……ってメノン! それは、ヒーローであるおれのセリフだぞ!」
ハーペンが抗議する。
「まあまあいいじゃないか。細かい事は気にするな」
豪助がなだめる。
「しかしだなあ……」
とすねるハーペン。

「なあ、兄ちゃん。みんな、それぞれの1番があるなら、おれの1番は何だろう?」
ヤキチョバの問いにメノンはサッと背を向け、その手を掴んだ。
見ろ。夕日があんなに美しい。夕日に向かって我らは帰ろう」
メノンが言うとヤキチョバも
「そうだな。兄ちゃん。おれもいつか、あの真赤な夕日をつかんで見せるよ」
と、二人は大きく手を振って帰って行った。
「さようならあ! メロンパンのおじさーん」
順次が叫ぶ。
「さようならあ。やきそばのおじちゃんも」
正太も言った。
「また、遊ぼうねえ」
明も手を振る。
「またねえ」
はじめも言って、ハーペンの顔を見た。

「そうだ。よい子の心がみんなの気持ちを変えたのだ。すごいよ、はじめ。おれ、すっごく感動した」
ハーペンが言った。
「そんな事ないよ。はじめから悪い子なんて本当は一人もいないんだ。そうでしょう?」
はじめの言葉にハーペンがうなずく。
「それじゃあ、ぼく達も帰ろうよ。ぼく、すっかりおなかがペコペコなんだ」
「そうだな。帰ろう」
豪助が言った。そうして、赤い夕日の中、みんな顔を真っ赤に染めてそれぞれの家へ仲良く手をつないで帰って行った。
「ああ、それにしても、ヤキチョバが持ってたスパゲッティーパンうまそうだった! くっそぉ! 明日こそ、おいしいパンをゲットだぜ!」
と夕日に向かって叫ぶハーペンだった。

つづく