第6話 真冬の空に浮かぶ影……悲劇の合体戦士!


 年が明けると、ここ埼玉の北のタウンに名物の季節風が、山の上から冷たい雪の空気をヒューヒューと運んで来た。
「ぶるるっ。寒さが一段と尻に冷えを感じさせるぞ」
ハーペンが言った。
「何だ? ハンペン、これくらいの寒さで震えてるのか?」
豪助がパンツ一丁で寒風摩擦をしながらガハハと笑う。
「そんなこと言ったってメイビー星じゃ、いつだって曖昧でぬくぬくとした適当な気温だったんだもん」
「ははあん。それでどっぷりぬるま湯に浸かってるうちにこんなにびろんとふやけちまったという訳だな」
納得したように豪助が言った。

「豪助はよく平気でそんな格好をしていられるな」
「おうよ。おれは貴様と違って鍛え方が違うからなあ」
と胸を張り、拳でうほうほと胸を叩く。
「そうかあ。着方が違うのか。おっ! なるほど。わかったぞ。秘密はそのリボンの付いたネズミのパンツにあるんだな」
「何? 貴様、何故これが特別の物だとわかった? このパンツは、おれの従兄弟の愛媛新之助が東京に来た折、記念にくれたパンツなのだ」
「くうっ! それで特別なパワーを発揮していたのか。おれもせめて裂けないパンツが欲しいよぉ」
すると、突然、
「きゃーっ!」
と甲高い悲鳴が道場いっぱいに響いて来た。
「何だ? 何だ? 何がどうしてどうなった?」

慌てて二人が駆けつけると洗面台の前でオダイコンが血の気のない真っ白な顔で震えていた。
「どうした? 敵か?」
ハーペンの問いにオダイコンは真剣な眼差しでじっとハーペンを見つめてうなずいた。
「で? その敵は何処に?」
「無念だ……」
とガックリ肩を落とすオダイコン。
「私としたことが、あっさりと敵の侵入を許してしまったのだ」
「敵だって? まずいぞ。おれ、パンツ一丁のままだし、せめて二丁目か三丁目にしておかないと……」
と豪助が慌てて部屋へ駆けて行った。
「よし。これは我々の戦いだ。何も関係のない地球人を巻き込む訳には行かない。さあ、話してくれ。何があった?」
ハーペンの言葉にオダイコンは力強くうなずいた。

「これを見て欲しい」
オダイコンが手をかざす。
「何処だ?」
「これだ」
「だから何処に?」
「貴様の目は節穴か! この美しい素肌が乾燥し、出来てしまったカサカサが目に入らぬのか?」
オダイコンが険悪な口調で言った。
「は?」
まだあまり事態を呑み込んでいないらしいハーペンにオダイコンは告げた。
「よく見るのだ。ほら、ここのとこ。それとここ。アッ、こっちにも」
よーく見ると手の甲が微かに荒れているような気もした。が、あくまでもそれは気がしただけなのであって、第三者からするとはっきり言ってそれがどうしたというレベルなのであった。

「なーんだ。そんなことで悩んでいたのか? そんなもの、敵でも何でもないじゃないか」
「何! 貴様はこの私を愚弄するつもりか? 何でもないだと? このカサカサが! 乾燥はお肌にとっての大敵なのよ!」
と叫ぶ。
「だって、だって、この私の白くてすべすべの美しい肌がヒビ割れるなんて……! エステに行かなきゃ。それに岩盤浴してコラーゲンとビタミンCとお肌にいい物いっぱい取って、それから、それからetc……」
「そうよ、この季節、乾燥は美しい者達にとって何よりの敵」
いきなり窓の向こうから声がした。
「わたし達もいっしょに戦いますわ」
毎度お馴染み女子高生のゆいとメイだった。
「わかる? ねえ、わかる? この私がどれほどまでに打ちひしがれた気分になっているのか……」
「ええ。わかりますとも、オダイコン様」
「さあ、こんなデリカシーのない野蛮な人間、いえ、おでんもどきなど相手にせず、わたし達と参りましょう」
両脇から支えられてオダイコンは出て行った。

「何だ、あいつは。情けない。それでもメイビー星の戦士と言えるのか!」
めずらしくもハンペンがまともなことを言って奮起した。その拍子にまたまた尻がベリリと裂けたが気にしない。
「そうだ! あのような軟弱者が栄光あるメイビー星の戦士などとは言えない」
突然上の方から大声が轟いた。それはあまりに大音声だったので、1本向こうの通りにある交番の裏の大分家では、つぼねがつまみ食いしようと口に入れたドーナツをうっかり丸呑みしてしまったくらいだった。おかげで彼女はそのドーナツの味がよくわからなかったと交番へ文句を言いに行った程である。
「そ、その声は……もしや、あのサツマーゲ大佐殿では?」
ハーペンが言った。
「何? さつま揚げだと? そちつはまた奇遇な……。ハンペンに大根、さつま揚げまで揃うとは……さすがは天下のおでん惑星」
いつの間にか着替えが終わって、胴着の上にウサギさん柄のはんてんを着込んだ豪助が感心したように言う。

「さつま揚げだと? NO! 私はさつま揚げではない。サツマーゲだ」
声の主はがっちりとした体格の大柄な男だった。茶色く日に焼けたその肌はさつま揚げ色した軍服によく似合う。
「何処からどう見てもさつま揚げじゃないか」
「だからちがーう! って。さつま揚げじゃなくてサツマーゲなの!」
「だからさつま揚げだろ?」
「サ ツ マ ー ゲ!」
「だから、さつま揚げじゃないか」
「サツマーゲ!」
大柄な男はだんだん足を踏み鳴らして言った。
「わかった、わかった。さつま揚げ」
男はハンカチを出してううっと悔し涙を拭った。

「まあまあ、大佐殿。このようなことで傷ついていたのではこの先とても身が持ちませんぞ」
などとハーペンがもっともらしく言った。
「おれなんか未だにハンペン扱いですし、ここだけの話し、あのオダイコンでさえ、未だに正しい名前で呼んでもらえていないんですよ」
「そうなのか?」
大佐が言った。
「はい」
ハーペンが胸を張る。
「ほんとにほんとにそうなのか?」
「ええ。もちろんです! その証拠にさっきも女子高生達が来て、『きゃあ、オダイコン様、ステキ!』とか、『オダイコン様、愛してる!』とか言っていたくらいなのであります」
「そうか。なら、安心した……。っていうか、それではちゃんと合っているではないか。しかも女子高生からモテモテだなんてうらやまし過ぎるぞ!」
「はい。まことに持ってそのようでして……」
「それで、おまえはどうなのだ?」
「と申しますと?」
「戦果の程はどうなっておるかと訊いたのだ。ストリクトの戦艦の1つや2つとっくに沈めたのであろうな?」
「はあ、それが、ここは惑星の上ですので……。さすがに戦艦はありませんで……」
「では、憎っくきストリクト星人の5人や10人、死者の列に加わらせたのであろうな?」
まるで悪役の中ボスのような笑みを浮かべてサツマーゲが言った。
「それが、ストリクトの奴らもなかなかしぶとく、思ったようには参りませんで……。何しろ、奴らはこの重力の重い星でも何とひとりでできるのであります」
「何! 奴らは、皆、ひとりでできるだと?」
ちっこい目をひん剥いてサツマーゲが言った。
「御意」
ハーペンがうなずく。
「何と! それは想定外であった。で? 奴らは何処に潜んでおるのだ?」
「恐らくはこの時間ですとスーパーマーケットにおるのではと想います」
「スーパーマジョケットだと? それは奴らの武器か? 新型魔女っ子集団なのか?」
サツマーゲは意味もなく周りを気にするとヒソヒソ声で囁いた。
「いえ、それが……。閉店間際になると50%オフが起動するのであります」
「何? 50%オフとな?」
「はい。もっとぎりぎりになりますと80%オフや究極90%オフになることさえありまして、奴らもそれを狙っているのかと……」
「ふむ。奴らも家計の事情は苦しいようだな」
「はい。何処でも事情は同じかと……」
「そうか。事情はわからなくもないが……。この私とて今年からは小遣いを30%オフにされた身……しかし、妻達やストリクト星人達の横暴を許す訳には行かぬ。ハーペンよ。私に続け。ストリクトの連中に負ける訳には行かぬのだ」
「ははあ。よしなに、みしまにからころも。付いて行きます、何処までも、線路は続くよ明日まで」

 その頃、いつものスーパーではいつもの二人組が買い物カゴを持って品定めをしていた。
「兄ちゃん、おれ、あっちのおまけ付きのキャンディーが欲しいよ」
ヤキチョバが言った。
「仕方のない奴だな。1つだけだぞ」
メノンが半額になった御節料理の幾つかをカゴに入れながら言った。
「ありがとう、兄ちゃん」
ヤキチョバがお菓子のコーナーへ走って行ってしまったので、メノンは一人で買い物を続けた。

「なるほど。奴はひとりでできるのだな」
その光景を見てサツマーゲが言った。
「何? 貴様はサツマーゲ」
メノンが振り向いて言った。その目が鋭く光っている。彼は掴みかけた厚焼き卵のパックを棚に戻すとキッと相手を見つめた。
「私の名を覚えていたとは感心だな。それほどまでに私が好きか?」
「何を言ってる? 妻も子もある身の上で……。血迷ったか? メイビー星人」
「私はストレートに訊いただけだ。ストリクト星人はいつも言っているじゃないか。何事もはっきりしているのがよいのだと……」
「ならば、はっきり言おう。私は、おまえなんか嫌いであると……」
メノンが言った。

「何と! そうであったか。まさか嫌われているとは思わなんだ。おい、ハーペン、メモを取っておけ」
「わかりました。書いておきます。えーと……メノンはサツマーゲが嫌い……と」
ハーペンはボールペンの先をペロリとなめて手のひらに書いた。それから、メノンが持っていたカゴを覗いて言った。
「ああっ! こいつ、数の子なんか籠に入れてる! これ高いからって豪助でさえもっと値下がりするまで待つって言ってたのに……! それに伊達巻やかまぼこや栗きんとんまで……! 正月過ぎたけど、おれだってまだ食ってないのにィ!」
とハーペンが悔しがる。
「落ち着け、ハーペン。戦う前から負けてどうする?」
サツマーゲが言った。
「だってだって、おれ、悔しいんだもん。この間だってヤキチョバに春巻き取られたし……」
「さよう。戦いとは所詮、賢い者が勝つのだ」
メノンが言った。

「大佐殿、おれ、悔しいのであります。パンツ破けたままだし、メロンパンも春巻きもこいつらに取られたし、カッコいい台詞はみんなメノンが言っちゃうしで、おれ、主人公としての立場がまるでないんス」
ハーペンが愚痴っていると、ヤキチョバが二つの箱を手に持って駆けて来た。
「見て! 兄ちゃん、いい物があったぞ! こっちがストリクト星の戦艦『KAMADO』で、こっちのショボいのがメイビー星のおでんのヤタイだって? すごいだろ?」
「なるほど。こいつはよく出来ている。よし、先程は1つだけだと言ったが、前言を撤回する。特別に2つ買うことを許そう。1つだけでは戦いごっこは成立しないからな」
「ありがと、兄ちゃん。これで心置きなく敵のヤタイをやっつけられるよ」
ごきげんなヤキチョバに、サツマーゲが言った。
「おい、そいつは間違っておるぞ」
「え? 何だよ。この微妙な茶色い奴は……。わかった。おまえもメイビー星人の一味唐辛子だな?」
「いや、唐辛子ならやはり七味だろう?」
とハーペン。
「いや、おでんにつけるならやはり和風からしで決まりだね」
とスーパーの店長が出て来て話をややこしくした。
「とにかく、我がメイビーの偉大なる戦艦の名前は『ヤタイ』ではなく、『ヤダイッ』だ! よく覚えておいてもらおう」
どすの利いた渋い声でサツマーゲが言った。
「そんなのやだいっ! なーんちって」
と寒いギャグを言ってしまったスーパーの店長はあえなく沈没した。

そして、残された者達の間で微妙に戦いの火花が散った。
「ちょっと! 店の中で火花は困るんですけど……やるなら外で、ちゃんとバケツに水を汲んで大人の人といっしょにやってくださいよ」
沈んでいた店長が浮上して来て言った。
「よし、外へ出よう」

宇宙人達は外へ出た。が、スーパーの駐車場には、まだ車が何台か止まっていたので、一行は更にその先の団地の側の大きなゴミ捨て場に出た。
「よし。ここなら存分に戦える」
サツマーゲが言った。
「ふん。いつも自分では決められないメイビー星人にストリクト星人が倒せるものか」
メノンが不敵な笑みを浮かべて言う。
「そうだそうだ! おれは、ちゃんと夜中に一人でトイレにだって行けるんだぞ!」
自慢気に言うヤキチョバにメノンが静かに言った。
「黙っていなさい」
そして、メイビー星人達に告げる。
「私は公平な人間だ。メイビー星人がここ、地球ではひとりでできないことを私はちゃんと知っている。だから、時間をやろう。さあ、好きな者と合体するがいい」

メノンの言葉にハーペンがうなずく。
「悔しいけど、悔しいけど、認めるしかないな。おれはメイビー星人であると……」
「そうだ。行くのだ、ハーペン。行ってストリクトのお高い鼻の穴を空かしてやるのだ!」
サツマーゲが叫ぶ。
「鼻の穴なら最初から空いているんだぞ。兄ちゃん、メイビー星人ってやっぱりバカだなあ」
と笑っているヤキチョバにメノンはやさしく言った。
「弟よ。いい子は黙って手は膝の上。ここは兄さんに任せておきなさい」
「うん。わかったよ。おれ、向こうの公園で遊んで来る」
と行ってしまった。
「やれやれ」
メノンが振り向いた時、丁度、向こうからオダイコンと女子高生二人が歩いて来た。

「二人共、今日はいろいろと済まなかった。おかげでエステに行って心も体もすっきりと本来の美しさを取り戻すことが出来た。エステ割引券と特別キャンペーンを教えてくれてありがとう」
オダイコンが言った。
「いいえ、大したことではありませんわ」
「オダイコン様の頼みですもの。いつだってお役に立てれば幸せですわ」
ゆいもメイもうっとりと、よりビューティーになったオダイコンを見つめる。

「あっ! よし! いいタイミングだぞ。どうせ合体するなら可愛いゆいちゃんかメイちゃんと……」
ハーペンがそちらへ走る。

「それじゃあ、また」
「二人共、気をつけて」
オダイコンは二人が住んでいる団地の前で見送るとこちらに向かって歩いて来た。その姿は何処から見ても美しい、汚れのない白一色である。

「しまった! 可愛い子ちゃん達が行っちゃうぞ。急がねば」
ハーペンが焦って叫ぶ。
「アーマーよ。おれの元に来い!」
すると、遥か向こうのどんより曇った空で微妙に空気が揺らめいて、ハーペンの微妙に赤いアーマーが姿を現し……ビューンとこちらに向かって飛んで来た。
「よし! 合体だ!」
ハーペンが叫ぶ。が、何かがおかしい。元から微妙だったアーマーの色や形がぶれている。しかも空中をあっちへよろよろ、こっちへふらふらと定まらないまま浮遊している。
「何だ? ありゃ……」
よーく見るとアーマーの周りに何かが纏わりついて何だか動きにくそうだった。

「どうした? ハーペン、何故、貴様のアーマーはすぐに来んのだ?」
サツマーゲが言った。
「わかりません。春闘にしては早すぎるし、ストライキ起こされる程酷使してもいないんですけど……」
ハーペンが首を傾げる。と、その瞬間。いきなりアーマーのスピードが加速した。ぶるるんっと激しく身震いして纏わり付いていた物達を揺さぶり落としながら、アーマーは真っ直ぐハーペンを目指した。目の前まで来て、ようやく纏わり付いていた物達の正体が見えた。それは……

ゴミだ!

年末に掃除機と合体した時、吸い込んだゴミとミムラーもろともゴミ収集車に突っ込んで行った折、アーマーにごっそりゴミがくっついてしまったらしい。
「うわあっ! 来るな!」
ハーペンは飛び上がって逃げた。
アーマーはまだぼろぼろゴミを振り撒いている。魚の骨や鼻をかんだティッシュや野菜の切りくずや危ないグッズの領収書や書き損じの年賀葉書とか、年末に捨てられたありとあらゆる不快な物達に埋もれたアーマーが迫っていた。

「何なのだ? ハーペン、あれは……!」
サツマーゲが叫ぶ。
「く、来るなあーっ!」
眼前に迫って来るゴミとアーマーとハーペンのドアップの顔を見てオダイコンが絶叫した。
「いやーん!」
が、それは残念ながら間に合わなかった……。ゴミで膨れたアーマーは暴走し、オダイコンとハーペンを強引に巻き込んで見事に合体が成立した。

――うぇーん。臭いよ。酷いよ。痛々しいよぉ
アーマーの中からオダイコンが嘆いた。
――せっかくエステに行ってきれいになったのに、これじゃ、お婿に行けないよぉ
「泣くな! おれの方こそ泣きたいよぉ。大金はたいて買ったおれのアーマーなのにィ。ローンだってまだ36回も残ってるんだぞ」
とハーペン。
「ふん。惨めだな」
メノンが言った。
「年末にちゃんと大掃除しておかないからだ」
メノンの言葉にサツマーゲが切れた。
「そうなのか? ハーペン、貴様は年末に大掃除を怠ったのか?」
「やったもん!」
ハーペンが叫んだ。
「おれだってちゃんとやったんだもん」

と、そこに『美化』と手書きで書かれた文字の腕章を付けたミムラーが現れて言った。
「ちょっと! 困るね! 今日は粗大ゴミの日じゃないんだよ! 第一、大きな物捨てる時はちゃんとシール貼っといてもらわないと……」
「はあ、気がつきませんですみません」
サツマーゲが詫びた。
「ウエーン。それじゃ、おれ達がまるでゴミみたいじゃないですかぁ」
ハーペンが嘆く。
「何処から見てもゴミ以外何物でもないな」
メノンがシビアに断定する。
――いぃやあぁっ!
オダイコンが叫ぶ。
そのあまりのキンキン声にアーマーもビックリして合体を解いた。

「ふん。バカバカしい。おれは帰るぞ。早くせねばスーパーが閉まってしまう」
メノンが言った。
「そうだ! サツマーゲ大佐! 我々も行きましょう。今ならまだ御節料理の残りを格安にゲット出来るチャンスです」
ハーペンが言った。
「でも、その前にここに散らかったゴミをちゃんと片付けておかないとまたしかられちゃうわよ」
いつの間にかしおれてなよなよしくなっているオダイコンが言った。
「それじゃあ、おまえやっとけ」
ハーペンの言葉に
「そんなあ。家では自分の美しいおててより重い物なんて持ったことないのにぃ」
と駄々をこねるが、ハーペンは無視した。

「大佐、お急ぎください」
ハーペンがせかす。
「いや、ちょっと待ってくれ。妻に定時連絡を入れておかねばならんのだ。ん? メールが来てるぞ。何々? 帰る前にトイレットペーパーと洗剤を頼みます……か。よし。あのスーパーで特売していたやつを買って宇宙宅配便で送ってやろう」
などとサツマーゲは独り言を言いながらスーパーへ来た。
見るとすぐ前のレジにメノンとヤキチョバが並んでいる。
「やったね! 兄ちゃん! またおれ達、買い物のバトルに勝ったんだね」
うれしそうなヤキチョバに笑顔でうなずくメノンの籠には様々な御節料理やおそうざいの品がたくさん入っていた。
「毎度ありがとうございます」
レジの女の子もにこにこと笑顔をふりまいた。

「大佐、また、奴らにしてやられました。一足遅く、御節料理は全部売り切れたそうです」
ハーペンがガックリと肩を落として言った。
「泣くな、ハーペン。また来年がある。それより、おまえ、ちょっとこれを持つのを手伝ってくれないか」
山のようなトイレットペーパーを渡されてハーペンは、より惨めな思いで帰途についたのであった。そして、ひとりで出来なかったオダイコンは、年末から改心したミムラーに手伝ってもらってようやく全部きれいにすると、一人寂しく豪助の道場へ帰って行ったのである。

新年早々、まことにもって同情すべき話であった。

つづく