第7話 白い伝説! 雪山の恐怖!!


 「何? 脳内好き! 好き! 大会だって?」
ハーペンが興奮して叫んだ。
「ちがう! 町内スキーで好き! 好き! 大会だ」
豪助が言った。
「何を言ってる。これは、単なる町内スキー教室参加者募集のお知らせだろうが」
オダイコンが言った。みんなでこたつに入ってみかんを食べながら回覧板を見ていたのだ。

「ふむふむ。ご参加を希望される方は下記に名前を……とあるな。おう、今年は結構多いようだな。大分警部とつぼね夫妻、はじめ君やゆいちゃんメイちゃんの名前もあるぞ」
豪助が言った。
「何? あの子達も参加するのか? うーむ。それならばぜひ、私のあまりに優雅でカッコよく美しい滑りを披露しなければなるまい」
オダイコンが言った。
「おお。そうだな。おれもメイビー幼稚園の頃からおすべりは準2級免許皆伝と言われた男。披露しなければなるまい」
ハーペンも得意げに胸を張った。
「何?貴様が準2級であると? 信じられんな。この私でさえ準1級を取るには微妙な努力が必要であったものを……」
オダイコンが納得いかなそうな顔をした。
「何を言う? おれはいつだってどんな所だってすべれる尻を持ってるんだぞ」
「何! 貴様は尻で滑ろうというのか? あの極寒の中で……」
「そうか。それでハンペンの尻はいつも裂けているんだな」
豪助が言った。

「おうよ! おすべりだったら誰にも負けない自信があるもんね。直線型棒型、回転式何でもござれのコンコンチキチキ鍋の蓋だもんね」
「それって何かちがうような……」
オダイコンが微妙な顔で豪助を見つめる。
「おい、そんなにじっと見るなよ。いいか? 最初に言っておく。おれは、カーナビノーマライズな人間だ。君の愛にはこたえてやる事が出来んのだ。どうか諦めてくれたまえ。そして、どうか貧しさに負けずに清く正しく美しくダイコンの花としての道を歩んで欲しい」
「な、何を言ってるんだ? この男……。まったくもって地球の中の日本の中の埼玉北のタウンの人間のやる事は理解に苦しむぞ」
オダイコンがむきかけていたみかんを放すまいと胸の前でしっかり抱えて言った。
「いや、まったくもって多分そうだろうと思うぞ」
いつの間にかサツマーゲが帰って来て言った。

「これは大佐殿。お見回りご苦労様でございます」
ハーペンが言った。
「うむ」
「それで、何か変わった事は?」
オダイコンが訊いた。
「ストリクト星の奴ら、町内好き! 好き! 大好きー大会とやらに参加するらしい」
「何! 奴らが好き! 好き! 可愛い子ちゃんが大好きー大会に参加するですと?」
ハーペンが興奮して腰を上げる。と、その尻からビビリビと微妙に裂けそうで裂けないような何とも微妙な音が響いた。
「何だ? 今の不穏な音は……」」
サツマーゲが微妙に眉を寄せて言った。
「はっ。これをごらんください。ついに我が尻の裂け目を封じ込める事に成功したのであります!」
と言って突き出したハーペンの尻には特大ピンクのハート型アップリケがしっかりと縫い合わされていた。
「おお! 何と! これは……ギザギザハートの失恋マーク……。もうすぐバレンタインデーも来るというのに哀れな男だな」
豪助が言った。
「うるさいやい! そんな事よりスキー大会だ」
ハーペンが叫ぶ。
「そうそう。定員もあるし、急がねば……」

そして、当日。賑やかな連中を乗せてバスはスキー場へやって来た。
「おお! ここが噂の好き! 好き! 大好き! 大スキー浴場か」
サツマーゲが言った。
「いんや。ここは空き、空きガラ空きスキー場だがね。今、客はあんたらしかいねえから存分に楽しんどってくれ。ただ、あんまし無理はせんどいてよ。ここの雪すっごく崩れやすいから……」
ここの管理人と名乗るおじさんがトラクターに乗って説明した。
「それでは、これから皆さんには自由行動ということでお願いしますが、くれぐれも気をつけて自覚と責任を持った行動をお願いします」
大分警部がもっともらしく注意する。

「ようし! そんじゃあ、まずはみんなで準備運動を始めるぞ! まずは豪ちゃん体操第一第二第三と……」
が、そんな話は誰も聞いていなかった。みんな勝手に準備運動を終えるとスキー板を持って出発した。
「兄ちゃん! 見て! 一面真っ白だよ。これがみんな雪ってやつなんだって、兄ちゃん」
ヤキチョバが叫ぶ。
「弟よ。そんな事は見ればわかる事なのだよ」
が、ヤキチョバの視線は既に別の男に移っていた。
「あれ? サツマーゲの奴、あんなに大きな袋持ってるぞ! おーい、何持ってるんだ? おやつは300円までって書いてあったのに……、ずるいぞ! ずるいぞ! 汚いぞ!」
「何を言うか! 私は大佐なのだよ。なのに、おやつが君達一般階級の者と同じ300円では割が合わないだろう。だから、特別に500円までよいという許可をもらったのだ」

「あいつ、あんな事言ってる悪い奴だぞ」
ヤキチョバが騒ぐ。
「本当だ。みんなが300円で我慢しているのに自分だけ特権を遣おうなんていけない事なんだぞ!」
ハーペンが言った。
「そうだ! ハンペン、おまえもそう思うか?」
ヤキチョバが言った。
「ああ、思うとも」
二人はガッチリと握手した。
「ヤキチョバ、おまえとは初めて意見が一致したな」
「ああ。思えば、おまえも案外いい奴だったかもしれないな。昔から尻にピンクのハートがある奴に悪い奴はいないって言うからな」
ヤキチョバも言った。

「ようし! こうなったら二人で悪いおじさんをやっつけるぞ! 来い! ヤキチョバ! 合体だ!」
「正義のダイレクト8文目キックを受けてみろ!」
――受けてみろい!
「うわ! やめろ! やめてくれぇ。お願い、君達には特別にピーガムと飴チョコちゃんあげるからぁ」
「そんなんじゃ許さないもんね」
――そうだ! おれだって昨日スーパーで泣く泣く諦めたお菓子が山程あったんだぞ
「わかったよ、イモパチとリボンちゃんグミと満点まんじゅうも付けちゃうからン!」

結局、この二人の思ってもみない活躍でサツマーゲが隠し持っいたおやつはすべて回収され、みんなに平等に分け与えられる事になった。
「いい事をするって気持ちがいいんだな、兄ちゃん」
ヤキチョバが言った。
「その通りだ。弟よ。成長したな。兄としても実にうれしい」
メノンが言った。
「おれ、はじめ達と雪だるま作って来るよ」
とヤキチョバはうれしそうに雪の中を駆けて行った。

「チョクちゃん、見て! おニューのスキーウェア買っちゃったの」
「まあ! ステキよ、レージュンちゃん。紫のワンポイントが映えてるわ」
「チョクちゃんだってベージュのサイドラインがいかしてるわ」
二人はピッタリと寄り添うようにリフトに乗って行った。

「オダイコン様、スキーウェアも真っ白でお似合いですわ」
「何処までも白く潔癖なオダイコン様に捧げられたようなこの雪も、きっとわたし達の情熱で溶かしてみせますわ」
ゆいとメイがまるで保護色のような色のオダイコンの両脇にいるので、ようやくそこに彼がいるのだとわかった。
「地球でするスキーは初めてだが、何でも美しく極めている私にとっては些細な事……。私はここでの災難関コースに挑もうと思う」
「きゃあ、ステキ! さすがはオダイコン様!」
「わたし達、中間辺りで見ていますわ。その美しいお姿を」
「素晴らしいお姿を」
二人の女子高生は手を振り、オダイコンを見送った。が、あまりに白くて雪だか何だかわからない姿になっていたオダイコンの姿を、二人は見たような気もしたし、見なかったような気もして、よくわからないまま彼女達はずっと中間辺りに立っていた。

「おい、ハンペン、おまえは滑れるのか?」
豪助が言った。
「もっちろんだい。何ならどっちが速いか競争するか?」
「おうよ! いいとも。なら、あの最上級コースでやろう」
二人がリフトに向かっていると丁度メノンも上に上がるところだった。
「おまえも最上級へ行くのか?」
「当然だ。ストリクトでは冬のオリンピック選手として出場した事もあるのだ」
「何! それ程とは……!」
「なら、勝負しようぜ。地球とメイビーとストリクトの代表として」
「よし。受けて立とう」
3人はそれぞれの誓いと思惑を胸にリフトで上がって行った。

「うわあ! ヤキチョバのお兄ちゃん、雪だるま作るの上手だねえ」
はじめ達が感心した。
「ああ。おれ、ストリクト星じゃ雪だるま名人と言われてたんだ。ほら、この背の高いのがメノン雪だるまで、こっちの微妙に歪んでんのがハンペン雪だるまさ」
ヤキチョバの説明に子供達は大喜びだった。
「ねえ、もっと大きいの作れる?」
明が言った。
「ああ。そんじゃあ、今度はうーんとでっかい特大雪だるまを作ろうか」
ヤキチョバの言葉に子供達が歓声をあげる。
「おやおや、元気がいいねえ。ほら、あったかい飲み物の差し入れだよ」
つぼねが甘酒を持って来て配った。
「ありがとう。へえ、甘酒かあ。ホントに甘いや」
ヤキチョバがうれしそうに言ってお代わりした。

「あれ? ところでメノンおにいちゃんは?」
つぼねが訊いた。
「ああ、多分上に行ったんじゃないかな? 兄ちゃんはスキーもバッチリなんだ」
「そうかい。じゃあ、降りて来たら熱い甘酒あげようね。そいや豪助とハンペンもいないねえ」
と上を見上げる。と、

「ぎゃあ! 誰か止めてえ!」
凄まじい声と共にどどどどーっと雪山がガタガタと揺れた。
「あれは……?」
大分警部が双眼鏡を覗いてその正体を確かめようとする。
「ありゃ、ミムラーだよ」
つぼねが肉眼をギュンと見開いて言った。
「わあっ! こっちに迫って来るぅ」
「怖いよぉ」
そのあまりのスピードに回転が加わり、ものすごい勢いで巨大化していく雪玉に圧倒されて子供達が怯えた。

「大丈夫。おれが君達を守るからね」
そんな子供達を庇うようにヤキチョバが言った。
「お兄ちゃん!」
「ヤキチョバのお兄ちゃん!」
子供達からおにいちゃんと言われ、ヤキチョバはすっかり気をよくして叫んだ。
「ようし! 合体だ! サツマーゲ! おれと合体しろ!」
「えーっ? やだよぉ。お菓子取られておれの心は深く傷ついてるんだ」
と向こうを向いて拗ねている。
「バカヤロー! そんな事を言ってる場合か! 前を見ろ!」
怒鳴られてチロリと見たサツマーゲはきゃん! と悲鳴を上げた。眼前に迫って来る物体はもはや人なのか雪なのかはたまた大怪獣ユキムラーなのかわからない状況だ。

「わ、わかった。君と合体しよう」
サツマーゲがアーマーを呼び、二人は合体した。そして、巨大ユキムラーに必殺技メイストリクトビーキックを叩き込む。
「うっぎゃあっ!」
ユキムラーはすっとんだ。そして、雪山の中腹に激突し、雪玉は四散した。
「やった!」
――兄ちゃん、おれはやったぞ。みんなを守ってユキムラーをやっつけたぞ
「うむ。メノンの代わりに褒めてやるぞ」
――おやつで拗ねてたあんたには言われたくないぞ。けど、まあ、いいや。おれ達はいい事をした
「そうだ。いい事をした」
サツマーゲも言った。

が、事態は意外な方向へと転がった。ユキムラーが山にぶつかったショックで雪崩が発生。上にいた何人かがそれに巻き込まれてしまったのだ。
「大変だ! すぐに人員確認しろ!」
大分警部が叫んだ。
「兄ちゃんが……メノン兄ちゃんがいないよ」
ヤキチョバが泣きそうな声で言った。
「大丈夫よ。ヤキチョバちゃん。メノン兄さんは強い子ですもの」
「そうよ。きっと生きて戻って来るわ」
チョクとレージュンが慰める。
「こっちは豪助とハンペンが見当たらん」
サツマーゲが言った。

「他にいない者は?」
と、そこへオダイコンがメイを抱えて駆け込んで来た。
「大変よ! あまりにビューティフルな私に嫉妬した山神様が怒って雪崩を起こされたのだわ! どうしましょう? 丁度目の前を流されてたメイちゃんを助ける事が出来たけど、一緒にいた筈のゆいちゃんがいなくなってしまって……。きっと美し過ぎる私の罪なのだわ」
と騒ぐオダイコン。
「おい、こいつを何とかしろ」
サツマーゲが言った。
「いいから、君、ちょっと雪崩が起きた時の状況を詳しく教えてくれないかな?」
気を失ってオダイコンに抱えられていたメイをつぼねが受け取ると、大分警部がパニクってるオダイコンを宥めて他の部屋へ連れて行った。


その頃、雪崩に巻き込まれた4人は、二人ずつ分かれて雪の中に空間を作り、何とか無事に難を逃れた。ハーペンが豪助を、メノンがゆいを助けて雪の衝撃と重さから守ったのだ。
「寒くないかい?」
メノンが言った。
「もっと暖が取れるとよいのだが……」
彼はゆいを労わって暖熱ライトを彼女の方に近づけた。二人は座った状態で密着するような位置にあった。周りは全て雪……。上にどれ程の雪が積もってしまったのかもわからない。救助がいつ助けに来てくれるのかもさえわからずに不安な時間を過ごしていた。
「いいえ。こうしているととても温かい……」
「そうか」

その少し向こうにハーペンと豪助が同じような状況にあった。
「おい、ハンペン。何か冷えて来たな」
豪助が言った。
「ああ……」
ハーペンの返事はおざなりだ。隣の穴の様子が気になっていた。
「くそっ! メノンの奴。こんな狭い穴の中で女の子と二人きりだなんてうらやまし過ぎるぞ! きっとあいつの事だからあーんなことやこーんなことして、クールなメロンソーダ声で囁いちゃったりするんだ、きっと……。キーッ! 許せないんだからっ、もう!」
ハーペンは雪の壁にピッタリ耳をくっつけた。

「いつまでこんな状況が続くかわからない。取り合えずこの非常用食料を食べて体力を温存するのだ。これはストリクト星で開発された一粒で1日に必要なカロリーを摂取し、空腹も満たしてくれるという優れものだ。成分は地球の物と変わらない。君が食べても安全で効果がある」
「でも、メノン、あなたは?」
「おれは軍人だ。男だし体力もある。君の方が大切だ」
「メノン……」
その肩にもたれかかる彼女にメノンはやさしく言った。
「どうした? 寒いのかい?」
ストリクトの星と言われるストレートライトのパワーを上げた。小型だが暖房効果があるのだ。

「おい、腹が減ったな、ハンペン」
豪助が言った。
「指でもなめれば?」
「それに寒いし」
「運動でもしろよ」
「おい、何をイライラしてるんだ? そうか。おまえ闇が怖いんだな? 夜中におしっこ行けない口だろう?」
「そうだ。こんな暗い穴の中でメノンお化けがゆいちゃんを……」
あらぬ妄想のせいで元から微妙だったハーペンの顔はますます微妙に歪んだが、幸いここは真っ暗な上に一緒にいるのは豪助だけだったのでにらめっこ勝負ならかなりなものになっただろうと推測された。

「ゆい……? どうした? 眠いのか?」
「ええ……。何だかとても……」
「駄目だ。ここで眠っては凍えてしまう。ゆい、さあ、目を開けて! 」
メノンが彼女を揺する。
「う…ん……」
狭い穴の中で密着していたため、彼女のウェアの襟がメノンのアーマーのロックに引っ掛かった。そして、カチリと小さな音がしてマスクが外れた。
「メノン……?」
ゆいがじっとその顔を見つめる。
「ゆい……」
二人は抱き合ったまま、じっと互いを見つめていた。彼らにとって言葉などもはや必要なかった。

「くそっ! 何も聞こえなくなってしまったぞ。一体何をしてるんだ?」
ハーペンが雪の壁にくっつけていた耳を引っ張って言った。
「おい、聞こえなくなったって……まさか……」
豪助が言った。
「ああ……。このままでは非常にヤバイ……」
「そりゃ大変だ。おい、宇宙人。おまえの力で何とかならんのか? ほら、そのおでんの元とかで……」
その言葉にハーペンは閃いた。
「そうだ! おれは宇宙の勇者、おれに不可能な事はなかったんだ。ようし! メノンめ、一人だけ女子高生にモテようったってそうは行かないぞ! 邪魔してやるゥ! 絶対に邪魔してやるんだもんね。 行くぞ! 豪助、合体だ! アーマーよ、こんな雪山なんかとっとと蹴破っておれの元へ来―い!」

すると何処からかぶるぶるとマナーモードに失敗したような微妙な振動が穴に伝わって来た。
それからゴゴゴゴという何かが削られて崩れるような感覚……。そして、ビチャビチャと何かが溶けて行く音が聞こえたかと思うとビュンと何かが尻の下から突っ込んで来た。
「うわあ! 何だ? こりゃ……」
そして、二人の男の間からにょっきり顔を出したアーマーによって彼らは蟻地獄に落ちた蟻のように雪の中へと引きずり込まれた。
そして、雪まみれのまま彼らは合体に成功した。

――ようし! これなら動ける。二人を助けるぞ
豪助が言った。
「行けっ! おれのアーマー!」
彼らはものすごい速さで雪かきした。が、二人はなかなか見つからない。
「一体、何処だ? 何処にいるんだ」
――しっかりしろよ! 今、助けに行くからな!
「こうなったらローラー作戦だ」
――雪原の少女だな?
「山が呼んでる」
――おじーさーん!
「アーマーの中で叫ぶな!」
――何を! おまえが先に叫んだんじゃないか
「そんな事より二人は何処だ?」
――そうだ。もっと大きな声で呼ばなくちゃ、きっとこの雪にはばまれて聞こえないんだ
「よし。声を合わせて呼んでみよう。せーの」
ドミファソッソッソッソーッと山が笑った。

「何だ? 今の音程外したような微妙な音は……」
地元の消防隊の人達と捜索に来ていた大分警部が言った。
「あーあ、この山崩れやすいからって注意しといたのに……人来ちゃったからやっぱり崩れたし」
消防の人がラフに言った。
「人がってね、ここはスキー場でしょう?」
「スキー場? そりゃ、あんた、この隣の山だべ。ここはもう使われとらんのよ」
「え? でも、ここに案内されて来たんですけど……」
「ああ、たまにあんだよね。タヌキに化かされてこっち来ちゃう人達……。ま、今まではみんな無事に下山してったけどね」
「そんな……」
大分警部は深刻な顔でそそり立つその雪を見た。

と、その白い雪の壁に突然、亀裂が入って緑のアーマーが覗いた。
「あ! あれは……。メノン君。それにゆいちゃん! よかった。二人共無事で……」
「はい。ご心配をお掛けしました」
礼儀正しくメノンが言った。
「彼が助けてくれたんです。ずっとやさしく励ましてくれて……」
ゆいの言葉に警部はうれしそうにうなずく。
「うんうん。よかった。よかった。みんなが心配してるよ。さあ、早く戻ろう」

二人が着くとみんなわっと歓声を上げて喜んだ。
メイもすっかり元気になってゆいと感激の再会を果たした。
「えーっ? メノンがマスクを? で、どんなだった?」
メイが尋ねる。
「うん。それが、ライトがまぶし過ぎて結局よくわからなかったの。でも、もしかして……」
「もしかして……?」
「メロンパンじゃなかったみたい……」

そのメノンも兄弟達との再会を喜んだ。
「兄ちゃん、おれ、すごくがんばったんだ」
ヤキチョバが言った。
「そうか」
「心配したのよ」
「でも、信じていたわ」
チョクとレージュンも言った。
「ありがとう。そして、よくがんばったな」
メノンが言うとみんなパッと顔を輝かせたのでその場がかなり明るくなった。

「ところでハーペンと豪助はどうした?」
「あ、そう言えば……」
と、その時、ドドーンと地面が揺れた。
「何だ? 地震か?」
見ると合体したハーペンと豪助が凍りついたトラクターに乗っていたタヌキを捕まえたところだった。
「このとんでもタヌキめ! おれにメノンとゆいちゃんがうまく行きそうだなんて幻聴を操るなんて、もう絶対許せないんだからぁ」
――それもそうだが、こんな瞬間あったかシートとか宇宙ライトとか便利な物があったんなら最初から出してくれよ。豪ちゃん、ミニスカートは寒過ぎるからぁ
見れば二人のアーマーは何故か今回は名作系ヒロイン風コスチュームという何とも寒いファッションだった……。

そして、彼らの活躍によって捕まえられたいたずらタヌキは無事に保護され、それからはスキー場を間違える事もなく、安全で楽しいスキー教室が開催されるようになった。ハーペン達もそちらへ移るとちゃんとしたインストラクターの先生からスキーを習う事が出来た。ハーペンは地球では初心者クラスであるという事が発覚。はじめと同じクラスでまず転び方を練習した。
「いいねえ。そのお尻。そつき方がいいよ」
「さすがは尻滑り準2級だけの事はあるな」
と冷やかされたがそれはそれで結構満更でもない顔をするハートがうれしいハーペンだった。

つづく