第10話 出たぞ! これが最強のオーデンフォームパワーだ!
「兄上、地球とは実に美しい星なのでありますね。カレンはいたく気に入りました」
マンスリーマンションの1室でノートパソコンのスクリーンに映し出された青い地球の映像を見ながらカレン ライスは言った。
「うむ。確かにこの星は美しい」
メノンが腕を組んでうなずく。
「だが、ただ美しいばかりではない」
と緑のアーマーの兄は少し困ったように眉を寄せた。
「ええ。確かに問題はあります」
カレンはテーブルに山積みされた焼きいもをうっとりと見つめて言った。
「焼きいもがあまりにうまくて……。カレンはもうこのいも達と離れることなどできません」
と彼女はそのいもを両手で持つと頬に当ててすりすりしている。そんな無邪気な妹の姿を見ているととても帰れとは言えなくなってしまう妹バカのメノンだった。
「兄上は食べないのですか?」
「私にはこの甘くて美味しい限定特別販売のメロンパンがある」
メノンは愛しそうに目を細めた。
「おれだって、今日はやきそばパンを2個も買えたんだぞ! すごいだろう」
ヤキチョバが得意そうに両手に持ってぶんぶん振った。
「ヤキチョバちゃん、そんなに振ったら危ないわよ」
と、止めようとするチョクの顔に紅しょうがが1本ペトッと張り付いた。
「そうよ。気をつけないとほんとに……」
と口を開きかけたレージュンの口の中にヤキチョバの手からすっぽ抜けたやきそばパンがずぼっとハマる。
「ああっ! おれのやきそばパンがあ……!」
「泣くな、ヤキチョバ。まだ一つ残っているではないか。それに、いもはおまえを呼んでいる。この姉といっしょに、このいもを食べればよいのだ」
「そうだね、お姉ちゃん。おれもいっしょに焼きいもを食べるよ」
そうして二人は勢いよくいもを食べ続けた。
一方、ハーペン達はおでんの鍋をつつき合って日本とメイビー星の将来について話し合っていた。
「いやん! それつついたら崩れちゃうから! ダイコンは全部崩れる前にこの私がもらう」
そう言うと、オダイコンはダイコンを自分の取り皿に入れた。
「くそっ。それはおれが狙っていたんだぞ。だったらいいもん。こっちのさつま揚げもらっちゃうもんね」
と言うハーペンの手を退けてサツマーゲがさっと脇から横取りする。
「さつま揚げと聞いては放っとけないもんね」
大きなさつま揚げを大きなサツマーゲの口がパクリと食べてもぐもぐする。
「チェーッ! ずるいぞずるいぞ汚いぞぉ!」
ハーペンが喚く。
「そんなこと言ってると残りはみーんなおれがもらっちゃうぞ」
豪助がちくわやじゃがいも、こんぶなどを取り皿に入れている。
「あーっ! 三つも入れるなんてフェアじゃないぞ。そんならおれは玉子もらっちゃうかんね」
ハーペンが丸い玉子にはしを突き立てようとした時。
「いたたたッ!」
いきなり甲高い声が響いた。
「何だ? 今の声は……」
ハーペンが他の3人を見回して言った。
「オダイコンおまえか?」
「失礼ね! この私があのような微妙なバカ声を出すはずがないでしょう」
「そんじゃあ……」
とサツマーゲと豪助を見るが、どちらも首を横に振っている。
「何だ。そんじゃあやっぱりこの玉子か」
ハーペンはじっと鍋の中を見つめた。が、特に変化はない。
「あほう! どこを見ておる?」
天井からぼろぼろほこりが落ちて来た。
「いやん! ほこりが残りのおでんに落ちてるゥ」
オダイコンが騒ぐ。
「何? おこたでもっこりランデブーだって?」
豪助が言った。それを聞いて思わずすべった奴が天井からどぼっと鍋の中に落ちて来てハマった。
「た、玉子だぁ!」
全員が言った。それは白い楕円の形をしている。まさしく玉子であった。
「そうだ。私はタマゴだ」
「そんなの見ればわかるじゃないか」
ハーペンが言った。
「そうか。わかるか。さすがは宇宙で1番色白男と称される私だけのことはある」
「色白なのはこの私の方だ。見ろ。この透けるようなダイコン肌を」
オダイコンが言うと、ハンペンもずいと尻を突き出して言った。
「そうだそうだ。宇宙一の尻はおれのに決まってるんだぞ」
「何を言うか。見ろ! たっぷりおだしにつかったこの尻を」
ザバッと鍋から飛び出すと微妙に色づいた尻の部分をぷるぷるした。
「そ、それがおまえの尻だったのか!」
豪助が驚愕した。
「いやん! おでんが尻につかって滅亡してるぅ」
オダイコンが泣いた。
「何ィ! おれなんかまだはし1本も食べていないんだぞぉ!」
ハーペンも泣いた。
「お、おい、泣いている場合じゃないぞ。ハンペン、あれは……」
サツマーゲが焦ったあまり尻もちを突いた。その反動で豪助の取り皿がひっくり返った。
「あーっ! まだこんぶちゃんが残っていたのにぃ」
豪助も泣いた。が、状況は微妙に悪化していた。みんなで亡くしたおでんを悼んでいる場合ではなかったのである。
「あーっ! あれは何だ?」
ハーペンが大声で叫んだのでみんな耳を塞いだ。あれもこれもそれもどう見ても同じだった。人目見れば誰にでもわかる。それはタマゴだった。そして、タマゴは巨大化していた。ずんぐりむっくり大きくなって天井にぶつかる。
「何と! こいつはただの玉子じゃなかったのか」
豪助が言った。
「そうだ。私はただの玉子などではない。イケテルタマゴなのである」
「イケテルというよりハゲテルってカンジ」
オダイコンがひくひくしながら泣き笑いする。
「だが、同じ玉子なら、おれは玉子掛けごはんが好きだなあ」
豪助が言った。
「私は生玉子ではない。ただのタマゴだ」
巨大化はまだ続いていた。天井がミシミシいっている。
「何? まずいぞ。おい、玉子、外へ出ろ! このままじゃ家が壊れてしまうじゃないか」
豪助が言った。
「そうよ。大変よ。このままではあのあったかーい温水便座が壊れてしまうかもしれないわ」
オダイコンが喚いた。
「そうだ。あれはあまりにいい物だったのに、壊れたら使えなくなってしまうかもしれないんだぞ。そしたら、もうカードが2枚になって、豪ちゃん貧乏になっちゃうから買ってもらえなくなってしまうかもしれないんだぞぉ。そんなのいやだ、いやだもんね。おまえが出て行け」
ハーペンが巨大になっているタマゴをぐいぐい押した。
「きゃん! ちょっと何すんの? そこはお胸よ、触らないでよ」
タマゴが喚く。
「それがどうした? おれの胸にはHな文字が書いてあるんだぞ」
ハーペンが言った。
「おまえなんかどこが尻で胸で頭なのかまるでわからないじゃないか」
「おまえが今触っているのが背中でさっきまで触れていたのがぽんぽんだ」
「くそっ! 何だかちっともわからないぞ。こうなったら触ってやる! とことんねちねちと触りまくってやるんだかんね」
「きゃーん! 痴漢! 変体! お巡りさーん! ここに悪い人がいますよぉ」
タマゴはひいひい言いながら出て行った。
その頃、ストリクト星人のマンションでは……。
「あ、兄上……」
カレンが腹を押さえて苦しそうに言った。
「どうした? カレン、腹が痛むのか?」
「ううっ」
苦しがる妹に付き添うメノン。
「大丈夫か? いくら何でも食べ過ぎたのではないか? 待っていろ。今、薬を……」
「いや、そうではない。兄上、実は……」
「何だ?」
心配そうに覗き込むメノン。弟達も心配そうに見守っている。
「実は……」
「ん?」
「実は……」
彼女は声を絞り出す。
「へが出そうなのだ」
苦痛に顔を歪めてカレンが言った。
「へ?」
メノンが拍子抜けしたように言った。
「何だ。そのようなことか。案じるでない。妹よ。へくらい遠慮せずとも堂々とすればよい。我慢するのは身体にとってもよくないからな」
と笑う。
「はい。兄上。それでは、遠慮なくさせていただきます」
3秒後。
「窓を開けろ! ヤキチョバ、ドアもだ! 空気清浄機を回せ、チョク! 換気扇もだ。レージュン、直ちに全員マスクを着用しろ」
ガスの充満した部屋でメノンは的確に指示を下した。
「あ、兄上……」
「しっかりしろ、カレン。今すぐに外へ、新鮮な空気を吸わせてやる」
メノンは妹を抱えて外に出た。彼女の尻からは申し訳程度にまだプープーとガスが放出されていた。が、何とか全員がゲホゲホと噎せ返りながらも脱出に成功した。
「何と恐ろしきはいもパワーなり」
メノンが呟く。
「あ、兄上、すまぬ」
カレンが詫びた。
「いや、おまえの責任ではない。これもみな、地球のいもが美味過ぎたのがいかんのだ」
その言葉に弟達も泣いた。
そして、もう一人泣いている人がいた。言わずと知れた大分警部である。
「あれから毎日焼きいも屋さんが通るのを待っているというのに、通るのはいつも空っぽの車ばかり……。ああ焼きいもが食べたいよぉ」
そんな嘆きを聞いてしまったはじめが、お母さんに頼んでストーブの上で焼いたいもを差し入れてくれた。
「ほらね。こうやって銀紙で包んでストーブに乗せて焼くと本物の焼きいもみたいでしょ?」
「おお。ありがとう、はじめ君。お巡りさんは感動したぞ」
「よかった。喜んでもらえて、それじゃ、冷めないうちに食べてね」
はじめはそう言うと団地の方へ駆けて行った。
「日本も捨てたもんじゃないぞ。あんなにいい子がいるんだからな。日本の将来は明るいよ。お巡りさんは何だかとっても希望が湧いて来たぞ」
大分警部は目に涙を浮かべていものあたたかさを実感した。
「よし。それじゃあ、早速いただくことにしよう。えーと、ティッシュはどこだったかな」
と奥へ行こうとした時だった。
「お巡りさーん! 助けて」
誰かが駆け込んで来た。
「何だ? 一体どうしたね?」
振り向いた警部は唖然として言葉を失った。それはどこからどう見ても、
「玉子!」
「そうだ。私は全知全能のタマゴなのだ。さすがはお巡りさんだ。私のことをご存知とは……」
「いや、別に存じている訳ではないのだがね、あんたはどう見ても玉子だろう。ん? それじゃあ、さっき駆け込んで来たという表現は間違っているなあ。足がないのだから、正確には転がって来たとかピョンピョン跳ねて来たとかいうのではないだろうかね?」
と、妙なところで理屈を唱えた。
「そんなことなどどっちでもよい。それよりも悪人だ。私は悪い宇宙人から追われているのだ」
と言っている間にその悪い宇宙人達がやって来た。
「くそっ! 何処も品不足でおでんの具材がみんな売り切れていたんだぞ」
ハーペンが苦渋の表情を浮かべて言った。
「そうか。おでんもか。私ばかりが焼きいもなくて悲しい思いをしていたんじゃなかったんだな」
大分警部は大事な焼きいもを取られまいとしっかり胸に抱き締めて言った。
「仕方なかろう。今は、みんなで少ない物資を分け合って助け合って行かねばならない大事な時なのだ」
と、メノンが言った。
「おい、メロンパン。いつの間にか現れて、カッコいい台詞を横取りするなんてうらやまし過ぎるんだぞ」
ハーペンが言った。
「いや、今はそんな小さなことでもめている場合ではないだろう」
サツマーゲが言った。
「と、言いますと?」
オダイコンが訊く。
「そう。今こそ一致団結して愛するおでんを台無しにしたあやつを押し倒さねばなるまい」
サツマーゲが胸を張って言う。
「そいつは悪い奴なのか?」
ヤキチョバが訊いた。
「本当の本当に悪いことしたの?」
チョクが尋ねる。
「玉子なのに?」
レージュンも念を押す。
「そうだ。私はとってもコケコッコウなタマゴなのだ」
タマゴが言った。
「翻訳機が壊れているようだな。こやつの言う言葉は私にはまるで理解できません。兄上」
カレンが言った。
「そうだろうとも。宇宙で最も優れて膨れてツルツルお肌のこの私には、たとえオダイコンの白肌をもってしても叶うまい」
タマゴはふんぞり返ると腹を出してケタケタと笑った。
「ヒドイ! ヒドイわ! あんまりよ。私だってこの美肌を保つために並大抵の努力はしているのよ」
例にあげられたオダイコンが喚く。
「ハッハッハ。残念ながら、私のすべ肌には遠く叶うまい」
タマゴは調子に乗ってピョンピョン跳ねた。
「何だかおもしろそうだな。兄ちゃん、あいつと遊んでやってもいい?」
ヤキチョバが訊いた。
「うむ。だが、夕飯までには帰るのだよ」
メノンが言った。
「わかった。そんじゃあ、おれと遊ぼうぜ、お化け玉子ちゃん」
わあっと歓声を上げてヤキチョバがタマゴに突っ込んで行く。が、タマゴは押されても蹴られてもビクともしない。ぷよぷよと弾力のあるタマゴは何をされてもぴょんぴょんぴこぴこ跳ねてるだけなのである。
「うわあっ。おもしろーい!」
何度も何度も押したり引いたりぎゅっと抱き締めてみたりした。タマゴはころころへらへらと笑っている。が、そのうち勢い余ってタマゴがびよよーんと転がり飛んでお巡りさんにぶつかった。不意を突かれて大分警部は大事に抱えていたいもを落っことした。そこへどすんとタマゴが尻を落とし、回転しながらいもを押し潰してしまった。
「い、いもがぁ……。私のおいもが……」
警部は泣いた。そして、叫んだ。
「逮捕してやる! 器物損壊罪の現行犯で絶対逮捕してやるゥ!」
と手錠を出した。が、相手はタマゴである。玉子には手や足が付いていないのが普通である。今回のケースもそうだった。よって逮捕する事ができなかったのである。
「あーん。お巡りさんは悔しいよぉ」
と大分警部が泣いた。
「あー、泣かしちゃった。兄ちゃん、これじゃあお巡りさんが可哀想だぞ」
ヤキチョバに同情されて、警部はますます大きな声で泣いた。
「そうだそうだ! 悪い子はお尻ペンペンなんだぞ」
ハーペンが言った。
「よし、行け! ハーペン。行っておまえのその尻を思い切りぶつけて来い!」
サツマーゲが言った。
「わかりました!」
ハーペンは、
「そりゃあっ! にゃっとーは! うみゃあっ!」
と気合を入れてタマゴに飛び掛った。が、すべすべの剥き身の肌はそんなハーペンを嘲笑うかのように弾き飛ばした。
「ふぇーん。痛いよ、ひどいよ、ひもじいよぉ」
ハーペンが叫ぶ。それを見て呆れるメノン。
「よし! こうなったら全員でかかれ! 今こそストリクトの力を見せつけてやるのだ。我らはいつも微妙なメイビー星人とは違うのだとな」
メノンが言うとパム家の力が発動した。
「何っ! 負けてなるか! 行けっ! 戦艦『やだいっ』の子供らよ」
サツマーゲが命じる。一斉に飛び掛る宇宙人達の様子はまるで角砂糖に群がるカラフルなありんこのようだった。
「あん! やめてよ。そこはお尻よ。なでなでするなら頭にしてね」
タマゴはこたえていないようだった。
それどころかぐるぐる回転すると、群がっていた彼らを一人残らず弾き飛ばしてしまった。
「くそ! タマゴだからとあなどれん奴だ」
メノンとサツマーゲが共に言った。
「よし! こうなったら合体だ! 今こそオーデンアームの偉大なる力を見せてやる!」
ハーペンが叫んだ。
「兄上……」
そんな中、カレンが腹を押さえて兄を呼んだ。
「どうした? カレン、まさか……」
メノンはそっと妹を人込みの中から連れ出そうと手を取った。
「お姉ちゃん!」
ヤキチョバが近寄る。が、メノンは来てはいけないと手を振った。それを見て、ハーペンはうむとうなずき、そこらの空に叫んだ。
「いでよ! 来いよ! 今こそ来たれ! おいでましな、いらっしゃーい! おいでおいで、カモーン! スリー、ツー、ワン、ゼロ! 出て来いジャジャーン! おれのアーマー!」
ハーペンのあまりに微妙過ぎる呼び出しの声にアーマーはすっかり出足をくじかれてしまった。が、それでも何とか気を取り直しビュビューンと飛んでハーペンの元へ来た。
「ヨーシ! おれと合体する奴は……」
ハーペンはごちゃごちゃしている宇宙人達の中からピタリと目をつけた人に突進した。
「むひひ。どうせ合体するなら美人がいいもんね」
動機はいたって不純であった。が、狙い違わずハーペンはカレンと……いや、カレンの「へ」と合体した。
「兄上、すまぬ。間に合わんかった……」
カレンが詫びた。が、メノンはまるで動じない。先程とは違い、臭気はすべてハーペンのアーマーに吸収されてしまっていたからだ。そして、アーマーは前代未聞の異臭ゲキクサバズーカフォームへと変身した。そう。あまりのことに三人称もすっかり説明するのを忘れていたのだが、オーデンアームは、合体した相手によって、その能力と姿を微妙に変える。そして、そのフォームの違いにより、名前があったりなかったりするのである。特に今回は、合体したのが「へ」ということもあり、半分ガス化した状態の半端に透けてるバージョンなのである。恐らくもう10年もした頃にはプレミアが下がるかもしれない代物だった。
「行くぞ! タマゴめ! 覚悟しろ! 正義の使者、ハーペン様がご来光したからにはただじゃおかないんだぞ」
珍しくハーペンがカッコよく決めようとしていた。
「正義の鉄拳、ハンパモノチョップを受けてみよ!」
と突進しようとする足が止まる。というか……そもそもその足がガス化していて存在そのものが消えていたのである。
「何と! これではまるで尻が丸出しではないか。何だか下半身がひどくスースーしてるぞ。このままでは寝冷えして鼻水が出ちゃうかもしれないよぉ」
ハーペンがぐずぐずしているので見かねた豪助が毛糸のパンツを投げてよこした。
「ほれ。こいつをはいとけ!」
「おお。感謝するぞ、豪助。さすがは尻のケアにかけてはプロの並だな」
ハーペンはニッと笑んだ。
「なーに、ごちゃごちゃ言ってんのよ。私なんかすっかり待ちくたびれて一人三目やってんのよ」
タマゴが言った。
「ふっ。そいつは待たせて悪かったな。だが、貴様もこれでおしまいだ」
ハーペンが言った。何故か微妙に決まっている。そして、構えた。
「これぞメイビー星人とストリクト星人の美人ガスとの合体の力だぁ!」
そして、尻を思い切り突き出すと言った。
「ハイパースペシャルウルトラいもバズーカ発射!」
ズドーン!
しゅるしゅる、プスプス……プープープー……。
凄まじい黄色い砂煙の中……。タマゴは地平の彼方までぶっ飛んで行った。
そして、そこにいた全員がガスにやられた。
「な、何という威力だ」
宇宙人達は、地球における「いも」という物に対し、計り知れない底力と脅威を感じた。
「何だか頭がくらくらするぞ」
合体の解けたハーペンが言った。
「いや、ハンペン、貴様は実によくやった」
サツマーゲが言った。
「ほんと。最後のあの一発は涙物だったわ」
オダイコンも両手を取って握手した。
「いやあ、これも皆、カレンちゃんのへの力さ」
ハーペンが言った。
「そうだ。立派なへをありがとう。カレン」
サツマーゲが礼を言う。
「なに、これしきのこと。必要ならばいつでも進呈しよう。構いませんよね、兄上」
カレンが訊いた。
「うむ」
メノンは複雑そうな顔で美しい妹を見つめる。
「何だい? みんなそこにそろってたのかい?」
突然の声に振り向くと大きなカートを引いたつぼねが立っていた。
「ごらんよ。スーパーで安売りしてたからね、玉子をたくさん買ったんだ。ゆでたらみんなに食べさしてやるよ」
見るとたくさんの玉子が並んでいた。その1番隅っこに一つだけ飛び出した玉子がある。
「やややっ! これは……!」
そう。あのタマゴだった。が、タマゴは玉子らしくなり、シュンと大人しく落ち込んでいた。
「何と人騒がせな奴め! そうやってしばらく大人しくゆでられておれ」
サツマーゲが言った。
「あれ? みんな集まって何してるの?」
「わっ! 玉子がいっぱい、まるでうちの校長のハゲ頭みたいにつるつるだぁ」
ゆいとメイだった。
「丁度よかった。あんたらもゆで玉子食べてくかい?」
つぼねが言った。
「ああ、それとね、そこで焼きいも屋のおっちゃん捕まえたから。あとでたくさん焼いて持って来てくれることになってるんだ」
「何? 焼きいもだって? 本当かい? つぼねちゃん」
突然、大分警部が奥から出てきて元気に言った。
「そうそう。去年、あんたの分の焼きいもを食べちまったお詫びだよ。あんたがそれ程にいもを愛していたとは知らなくてごめんよ」
「つぼねちゃん……」
大分警部はうるうるとした瞳でつぼねに向かって腕を伸ばした。が、彼女はくるりと背を向け、みんなに言った。
「今日は玉子と焼きいもで乾杯よ!」
拍手が起こった。それから、みんな、うれしそうに笑った。こうして、埼玉北のタウンのいも騒動はほとんど確かに落着したのであった。
つづく