第9話 伝説を追いかけて……ああ、幻のフルパワーよ!
「空しい……。空しい。ああ、空しい」
道場の庭の片隅にひっそり咲いていたタンポポをむしりながらオダイコンが呟いた。
「何だ? オダイコン、そんな隅っこにしゃがみ込んで。おしっこなら遠慮せずともお尻も洗える専用便座を使ってもいいんだぞ」
豪助が言った。
「ちがーう! おしっこじゃないもん」
「そうか。それじゃ、大きい方か?」
「だから、ちがーうってのに」
オダイコンが喚いた。と、そこへハーペンがやって来て言った。
「あれはなかなかいいもんだな。豪助。あったかい風で冷えた尻をしっかりあたためてくれる」
「そうだろう。そうだろう。見たか聞いたか桃の尻。地球にはこんないいもんがあるんだぞ」
ここぞとばかりに豪助が自慢する。
「だが、待てよ。地球の者よ。我らメイビー星には地球の文明を遥かに凌ぐ便利グッズがあるのだよ」
としゃしゃり出て来たのはサツマーゲだった。
「ほほう。たとえば?」
豪助が訊く。
「そう。たとえば、これだ!」
サツマーゲが得意そうにポケットから取り出したのは、一粒の豆だった。
「何だ? この間の豆まきで拾い残した豆じゃないか」
豪助が言った。
「何を言うか! この真似豆様はこんなに小さくてもおまえが話す一生分の言葉を録音する事が出来るのだぞ」
「何? 一升だと? おれは飲み始めたら2升5合は軽いぞ」
「ちがーう! おつまみはお魚だって決めてるんだぞ」
とサツマーゲが言った。
「何か話が見えないんですけど……」
オダイコンが言った。
「だから、鮭が酒で升が鱒で鯖は鮪の親戚だって話だろ?」
サツマーゲが解説したが、話はますますややこしくなっただけである。
「そんな事よりコノ真似豆だ。これはただ録音するだけではない。我がメイビー星が総力を上げて開発した秘密兵器でもあるのだ」
「そいつはすごい! さすがはメイビー! 恐れ入ったぞ」
とハーペンがオーバーに感心した。
「バカモン! まだ何も言っていないぞ」
「アハハ。そうでした。でも、すごいってんだからすごいんでしょう?」
と開き直るハーペン。
「そうだ。で、どんな風にすごいのかと言うと、どんなに声を変えたとしてもそいつの声だとピタリと当てる。たとえ裏声を使って『ウッフン。あたし、サツマーゲコちゃんよ。ねえん、あたしってきれいかしらん?』などと声色を変えてもだ」
声どころか身体までくねくねさせていたサツマーゲにみんな失神するところだった。
「いやーん。ジンマシンがぁ……」
オダイコンが叫ぶ。
「ほらほら、こんな風に声を変えてもちゃーんと本人であると認識されるのだ」
いやがるオダイコンに無理矢理近づけて言った。
「うーむ。だが、それだけではすごいのかどうなのか微妙なとこだぞ」
豪助が言った。
「何を言うか。すごい物はすごいのだ。それだけじゃないぞ」
「何! 他にもまだあるのか?」
「そうだ。いざという時には……」
「いざという時には?」
「食える」
注目していた目が宙を泳ぐ。
「食えると言われても……。そうか。わかったぞ。この一粒で1週間分の食料と水の代わりになるのだな? さすがは我がメイビー星で開発された品だ」
とハーペンが自信たっぷりに言った。
「ほう。そいつは確かにすごいな。1週間か」
豪助も感心した。と、サツマーゲが言う。
「いや、1週間どころではない」
「何? それでは2週間か?」
とハーペン。
「いやいや」
「では3週間」
豪助も目を見開いて言う。
「ノー!」
「何と。それでは1ヶ月も持つというのでありますか?」
襟を正してオダイコンも言った。
「いや。1食分だ」
サツマーゲがきっぱりと言った。
「何だと? 思わせぶりな……」
豪助が言った。
「ハーペンが1週間などと言うから悪いのだ。1食だなんて言い出しにくくなっちゃったじゃないか」
とサツマーゲがごねた。
「そんな事より、私の悩みを聞いて欲しいわ」
オダイコンがヒアルロン酸入りの白いボディーをクネクネさせて言った。
「何だ? 悩みがあったのか。便秘か?」
豪助が言った。
「そう。便秘はお肌にとっては大敵なのよ。だから私、食物繊維とビフィジス菌は積極的に摂取するよう心掛けているのよ」
「わかった、わかった。そんならそれでいいじゃないか。何が悩みなんだ?」
ハーペンが訊いた。
「それよ。それ。最近、女子高生のゆいちゃんとメイちゃんの姿がめっきり見えなくなってしまったの。まさか悪い病気にでもかかっているんじゃないかと思ったらもう心配で心配で……」
「何だ。そんなことか。なら、直接彼女達の家に行ってみればいいじゃないか」
ハーペンが言った。が、オダイコンは激しく否定する。
「だめよ! そんな罪な事とても出来ないわ」
「何で?」
「考えてもみろ。美しい私がお宅に訪問する。と、当然、彼女らの母親が応対してくれるだろう。それだけは是が非でも避けなければならんのだ」
「だから、何で?」
「そんな事をしてみろ。地球人には存在しない美がいきなり彼女達の前に現れるのだぞ。たちまち彼女らはフォーリンラーヴ! ってなことになる。何ということだ。彼女達は迷い、動揺するだろう。そして、強い心の葛藤を経ても尚、私を選ぶ事になる。つまり不倫だ。私は彼女達にやさしく諭す。だが、彼女達の思いは収まらず、私への愛に走るだろう。可愛いあの子達の家庭を崩壊させる事などわたしにはとても出来ぬのだ。わかるか? 美しさ故の私のこの苦しみが……」
オダイコンは熱弁を振るった。が、この時点で既に彼の周りには誰もいなくなっていた。
「フッ。嫉妬か……だが、彼らを責めるのはよそう。全てはビューティフル過ぎた私の罪なのだ」
ハーペンは外に来た。
「くっそ。あいつの話を聞いてたらグズグズの煮え過ぎたダイコンになってしまうぞ」
ぶつぶつ言いながら歩いていると向こうからゆいとメイが花束を持って歩いて来るのが見えた。
「何だ。あの二人、元気そうじゃないか。うれしそうに花束なんか持っちゃって。しかも、こっちに向かっているぞ。もしかして、このおれにプレゼントするつもりかな?」
ハーペンがわくわくしていると、二人は話をしながら普通に通り過ぎて行ってしまった。
「あれ? 何だよ。おーい、そこの二人。花なんか持って何処に行くんだ? オダイコンのところか?」
「え? やだ。それ、誰のこと?」
「わたし達、これからヤッキーのコンサートに行くのよ」
「ヤッキーだって?」
「やだ。知らないの?」
「ビジュアル系のロックシンガーで超イケメン」
「歌もダンスも最高なんだからぁ」
「ねえっ!」
二人はうなずき合うとさっさと道を歩いて行ってしまった。
「ビジュアル系ロックだと? 全く、乙女心の何と移りやすさよ。それにしても、ちとオダイコンが可哀想だな」
と言いつつも、悪魔の笑みが出てしまうのは何故だろうと思いながらヒーローはへッヘヘと笑いながら進むのであった。
「おーい、そこのハンペン。ちょっと来てくれないか?」
交番で大分警部が呼んでいる。
「お? お巡りさんがおれを呼んでいるぞ。日頃のおれの行いに感謝してくれるのかな? いやあ、困ったなあ。当たり前の事をしているだけなのになあ。感謝状を贈呈したいなんて言われたらどうしよう。ここは微妙に遠慮しといた方がいいかもしれないなあ」
などと言いながら歩いていると向こうからドドドドっと地響きがした。
「な、何だ? 地震か? 天中殺か? お尻大王の降参か?」
と言っている間に近づいて来たそれはショッピングピンクと書かれたバッグをぐるぐる振り回しながら突進し、秒速でその姿は見えなくなった。
「な、何だ? あれは」
ハンペンが叫ぶ。
「見りゃわかるがね。ありゃあ、本官の奥さん。愛しのつぼねちゃんがお買い物に行くところだよ」
警部が言った。
「何! あれがお買い物に向かう姿だと! あれじゃ、どう見てもいざ出陣! って感じじゃないか」
「そう。買い物、それはまさしく主婦にとっての戦場なのだ。君とてわかっているだろうに……」
と警部が言った。その途端、ハーペンは思い出した。
「そうだ! あの時のあの春巻きの屈辱を思い出すのだ! あれはまさしく激闘であった」
「そして、君は戦いに屈した。しかも、2度も……とスーパーの店長が言っていた」
「そう。いつか晴らすぞ。この恨み!」
「そうだ! 食い物の恨みは恐ろしいのだ。この間の年末、わたしはせっかくつぼねちゃんが用意してくれた焼きいもを食べ損ねた。それもこれもみんな、その時現れた尻から掃除機男のせいだという。私はそれを恨む」
「そうだ。恨め」
ハーペンは言った。
「私は焼きいもが食べたかった。なのに、あれからどういうわけか焼きいも屋が来んのだ。君、もし、何処かで焼きいも屋さんを見かけたならば、どうかここへ連れて来てはくれまいか」
「何だ、そんなのお安いご用だぞ。それほどまでにいもが食いたいのなら素直にそう言えばいい。おれは素直なあんたが好きだ」
「そうか。わかってくれるか! ハンペン」
ひしと抱き合うその前に警部ははっと我に返った。
「いかん。私としたことが。つい、いもの魅力に惑わされるところであった。何と恐ろしきいもパワーよ」
「そうか。そんなに強いのか? いもパワーというものは」
交番の奥から声がした。
「ならば、ぜひ、そいつの味をじっくり試してみたいものだ」
それは美しい金髪にきつね色の毛皮をまとった女だった。しかも美人である。
「おお! 何と、美しい!」
ハーペンが歓声をあげた。
「そうだろうとも。わたしを見て美しいと言わなかった男はこの世に存在しない」
そういうと、彼女は長い金髪を指ですくってさらさらとなびかせる。
「おお、まるで昔見たアニメのヒロインがやっていたような仕草……あの頃は私も若かった。夢もあったし、希望もあった。が、あれは皆、青春の幻影に過ぎなかった……」
と大分警部。
「お巡りさんの青春は終わっても、おれの青春はこれからなんだぞ。美人ちゃん。ぜひ、君の名前を教えてもらえませんか?」
ハーペンが言った。
「フッ。それを聞いてどうする?」
「それはもう、大事に額に入れて床の間に飾って家の家宝にしますんで」
「ほう。それなら聞かせてやろう。わたしの名はカレン」
「カレン? それはまた、何とも可憐なお名前で……」
「呼び捨てにするでない!」
「ははあ。平に平に」
ハーペンは言った。
「それにしても何でこんな美人が交番にいるんだ?」
「そう! そこなのだよ、ハンペン君」
大分警部が言った。
「どうやら彼女、迷子らしいんだ」
「迷子? そんならお巡りさんの得意分野じゃないか」
「それがねえ、君、住所も何もわからないんじゃねえ。しかも何処とかの星から来たとかとおかしな事を言うのでね、宇宙人といえば自分をハンペンだと思い込んでいる君しかいないと思ってね。試しに呼び止めてみたんだ」
「別におれ、自分がハンペンだと思い込んでいるんじゃないですから……。だって、おれは正真正銘のハンペンなんだもん」
「ああ、もういい。私がバカだった。他を当たることにする。もう帰っていいから」
警部はしっしっと手で払った。
「そんな! ここまで関わっておいて、今更、他人になれなんて、ひどい! ひど過ぎるわ!」
「何だ、貴様ら、微形の分際で男同士で抱き合うとは許せんぞ」
カレンがサーベルを抜く。
「な、何を……」
焦る警部に色褪せるハンペン。
「微形のどこがいけないのだ? そんな事を言うなんていけないんだぞ」
ハーペンが言った。
「本当の事を言って何が悪い? 世の中シビアなのだ。美形でない者達のBL展開など誰も望んではいない。切り捨てるのみ!」
「ひやあ! はっきりしてるのね! まるでストリクト星人みたいな感じっていうか」
「ぐだぐだ言うな! メイビー星人じゃあるまいし……」
「何!」
「もしや貴様は……」
「メイストリクトビー星人!」
二人の言葉が中途半端に重なった。
「えーっ! ずるいぞ! ずるいぞ! 汚いぞぉ! ストリクト星人ばっかり美人が出るなんてぇ。ひいきだ!ひいきだ! 神様のひいきだぁぃ」
じたばたしているハーペンをじっと見つめてカレンが言った。
「何ともいえない微妙な姿……。もしやおまえはあの宇宙に名高い……」
カレンが絶句した。
「おお、おれのことをご存知であるか? いやはやどうしてカレン殿もなかなか隅に置けませんなあ。わっはっは」
ハーペンは自信を持って言った。
「そう! 我が名はハーペン!」
「そうか、貴様があの、ウエハース なんとなく冷めたじゃが入りハンペンか?」
「ちがーう! おれの名は……」
と言い掛けた時だった。道路の向こうから大声で叫ぶ奴がいた。
「お姉ちゃん!」
それはヤキチョバだった。
「何? お姉ちゃんだと?」
ハーペンはじっと二人を見比べて考える。
「あり得ん。生物学上、メンデルスゾーンの遺伝配分に合わない……」
とハーペンが悩んでいるうちに、ヤキチョバが道路を渡ってこちら側にやって来た。あとからメノンやチョク、それにレージュンも来て言った。
「カレン、どうしたのだ?」
「カレンちゃんはお嫁に行ったんじゃなかったの? ねえ、チョクちゃん」
「そうよ。とてもきれいな花嫁さんだったわよねえ、レージュンちゃん」
「花嫁だって? 何と! 彼女は既婚者であったのか? がっくし」
ハーペンが言った。
「いやだ! お姉ちゃんはどこにも行かないんだよね? ずっとずっとおれ達といっしょにいるんだよね?」
ヤキチョバが言った。
「無理を言うな。弟よ。カレンはパム家を出て、ライス家に嫁いだのだ」
メノンがさとす。
「いやだいやだ! どこにも行かないって言ってくれよ、お姉ちゃん!
ヤキチョバがごねる。
「わがままを言うな、ヤキチョバ、カレンが困っているではないか」
メノンの言葉にカレンはきっぱりと言った。
「心配は無用だ。メノン兄さん。私はきれいさっぱり皿を洗ってライス家を出た」
カレンが言った。
「出たとは? どういうことだ?」
メノンが訊く。
「言葉の通りだ」
「カレン……」
兄の心配も構わず、ヤキチョバの頭を撫でているカレン。
「何かこうジーンとしますねえ。麗しき兄弟愛……。それじゃあ、カレンさんはパム家の人間だったんですね」
警部が言った。
「そうだ。私の名前はカレン パム。華麗なるパム兄弟の一員だ」
「華麗なるねえ。おれが見るに、美しいのはカレンさんだけで、どう見ても同じ兄弟とは思えないぞ」
と不思議がるハーペンに警部が言った。
「まあまあ、そういう事は宇宙には多いんじゃないですかね? あの有名なロボットアニメのワサビ家を見てもそうですし……」
「そうか。あのワサビ家でさえ……」
ハーペンは納得した。
「それで、これからどうするつもりだ?」
メノンが訊いた。
「しばらく地球に厄介になろうと思う。地球にはいもパワーなる不思議な食べ物があるというからな。それを食するまではライス家には戻らないつもりだ」
「さすがはストリクト。はっきりしてる。だが、これ以上ストリクト星人の天下にする訳には行かない。それでなくとも数でメイビー星人の方が微妙に少ないのに、また一人増えちゃって何だか困ってしまうんだぞ」
ハーペンが言った。
「まさか、貴様、このわたしに勝負を挑もうなどと無謀な企てをしているのではあるまいな?」
「無謀だと? 聞き捨てならんその言葉。おれは宇宙のヒーローだぞ!」
「なら、貴様がどこまでやれるか勝負しようじゃないか」
「よし! 受けて立とう!」
「いいぞ。待ってろ!」
言うが早いかどこぞへ駆け去って行くハーペン。
「待つとは?」
カレンが訊いた。
「奴はひとりでできんのだ」
メノンが説明してやる。
「何? メイビー星人はひとりでできぬのか。それは奴らしい。所詮は半人前のすることよ」
とカレンは高笑いした。
と、そこへ遠くから何やら声が響いて来る。
「やーきいもぉ! ほっかほっかの焼きたてのおいもぉ! おいしい焼きいも! 早く来ないと、あたし、行っちゃうーんだかんね」
それを聞いて大分警部が盛り上がった。
「おお! 来たぞ! 待ってた、私のおいも!」
「何! あれが幻のいもパワーなのか?」
カレンが叫んだ。
「そうだ! 待ってろ! すぐ行くぞ!」
警部が飛び出そうとしたその時、
「信号は赤だぞ。お巡りさん。急に道路に飛び出したら危ないんだぞ」
ヤキチャバに止められ歯噛みした。
「アーン。焼きいも屋さんが行っちゃうーん」
「そ、それ程までにあんたは、焼きいものことが……」
メノンが言った。
「なら、みんなで協力して追いかけましょうよ、メノン兄さん」
「そうよ。わたし、家から自転車持って来るわ」
チョクとレージュンが応援する。
「み、みんな、ありがとう」
警部が泣いた。
「涙を流すのはまだ早い。確実に焼きいもの身柄を確保してからだ」
カレンが冷静に言った。
「そうだよ。お姉ちゃんのいうことはいつも正しいんだ」
ヤキチョバも言う。
「ようし! これより焼きいも捕獲作戦を結構する」
大分警部が宣言した。
その頃、ハーペンは合体できる相手を探して走っていた。どこまでもどこまでも駆けて行くと焼きいも屋の車が角を曲がるのが見えた。
「おっ! あれは焼きいも、ヤッキーちゃん! そうか。ゆいとメイが言っていたのは焼きいも屋のことだったのか! ようし! それなら、おれだっておいしい焼きいもをゲットするぞぉ!」
と、しこたまいもを積んだ車に突進した。と、その時、どすんどすんと凄まじい音を響かせて突っ込んで来た者がいた。
「うわっ! このままじゃぶつかる! アーマーよ来い! あの焼きいも屋と合体するぞ! そしたら、おいもは全部おれのもんだぞ!」
叫ぶと同時にアーマーは来た。そして、見事に合体に成功した。が、それは焼きいもではなかった。突進して来たミムラーと合体してしまったのだ。
「キェーン! メイビー星が回ってる……」
――ちょっと! あんた、何てことすんだい?
ミムラーが叫んだ。
――せっかくおいも買いに来たんだよ!
「おれだってそうさ」
――掃除の途中だったから大急ぎで掃除機持ったまま来たっていうのにぃ
「そんなこと言ったってぇ」
ハーペンは嘆いた。
と、そこへどどどどとまた集団がやって来た。大分警部とストリクト星人の連中だ。
「何だ? どうした? 内乱か?」
「待て待て待てぇ!」
連中は自転車とマラソンで全力疾走していた。
最後にぜいぜい息を切らしやって来た大分警部がハーペンを見つけて言った。ハーペンはアーマーごと連中に蹴飛ばされたり踏まれたりしてぼろぼろになって転がっていた。
「何と、おまえは……」
「ああ、やっぱりあんただけはやさしい人だ。さすがは地球の平和を守る人だ」
ハーペンが感激して言った。が、大分警部は険悪な顔で言った。
「おまえはあの年末大掃除の時の尻から掃除機男だな? くっそぉ! バカバカバカァ! おまえのせいで私は、あの時いもを食べ損ねたのだぞ!」
大分警部は涙ながらに訴えた。
「そんなぁ」
ハーペンは泣きそうな声で言った。
と その時。
「お巡りさーん! やったぞ! ついにおれ達は焼きいもをゲットしたんだぞぉ」
ヤキチョバの声だった。
「そうか。ついに、買ったか」
警部は感動のあまり鼻水をたらしながら駆けて行った。
「うむ。聞きしに勝るいもの美味さよ」
カレンが言った。
「うん。おいしいね」
「ほーんと。最高だわ」
チョクとレージュンもにこにこと食べた。
「夢にまでみた念願のいもよ」
大分警部はじんわりとした。
「兄ちゃん、やっぱり、人にいい事をするって気持ちいいなあ」
ヤキチョバもうれしそうだ。
「うむ。よかったな」
メノンも満足そうにうなずく。
「くっそぉ。おれだって焼きいも食べるんだかんね」
ようやく合体の解けたハーペンが焼きいも屋に追いつくと豪助とサツマーゲとオダイコンが焼きいもを持ってうれしそうな顔をしていた。
「あれ? みんなも焼きいもを買いに来たのか?」
「おお! ハンペン、おまえもか?」
豪助がガブリと豪快にかじって言った。
「あんれ? 残念だったね、兄ちゃん。焼きいもは今、丁度売り切れたんよ」
焼きいも屋のおっちゃんが言った。
「ええっ? そんなぁ」
「また明日来てくんろ」
と言うが早いか車は凄いスピードで走って行ってしまった。
「フェーン! 焼きいもぉ!」
ハーペンは泣いた。
「おい、オダイコン、それ、半分くれ」
諦めきれなかったハーペンが言った。
「えーっ? いやよ! さつまいもは美容によいのよ。美しいわたしにはふさわしい食品だわ。あなたには縁のないものよ」
「そんじゃ、豪助」
「悪い。もう全部食っちまった」
それを聞いてサツマーゲが残りの半分を一口でほお張って首を横に振った。
「ああ、いもよいも……何と罪な食べ物よ」
ハーペンは夕日に向かって吼えた。
「おっいもぉぉぉー!」
つづく