星空のミシェル
Puzzle Ⅰ 惑星崩壊
Part Ⅲ
話がまとまったところで、早速僕は提案するつもりだった。いつまた敵がこの船を攻撃してくるかわからない。漠然とした不安が僕の心を急かせていた。
敵……。そう。この船に攻撃して来る者は敵とみなさなければならない。
しかし、今はまだこの子達にそれを告げることはできなかった。故郷や肉親を失って動揺しているこの子達を必要以上に不安がらせることはしたくない。多分近いうちに話さなければいけなくなるだろうと思う。しかし、今彼らに必要なのは心の休息だ。
だが、作業は行わなければならない。特にレーダーと動力関係の整備はかかせない。組み込まれた電子頭脳の計算値にほんの僅かでも狂いが生じれば、この宇宙においては致命的だ。宇宙は極めて残酷で冷淡な輝きをもって人類を迎えた。それでも人は宇宙へ旅立って行く……。幾千幾万もの命と引き換えに……。
「ところでさあ、わたし達、どこの部屋を使えばいいの?」
エミールが訊いた。
「まさかこんなむさい奴らと同室なんてことはないよね? 他にも部屋あったし……」
既に探索済みだということかな。まあ、4時間も彼らを放置していたのだから、その間に好奇心にかられたのだろう。
「ゲストルームは三つある。自由に部屋割りをして構わない。でも、勝手に船の中を出歩くのは控えてくれないかな。危険な場所もあるし……。動いていい範囲は僕かチャラがあとで案内してあげるから……」
しかし、僕の言葉が終わらないうちに、彼らは部屋割りを巡って騒ぎ出した。
「俺は一人部屋にしてもらいてえな。こんなガキ共と相部屋なんてうんざりだぜ」
ジャンがテーブルを叩いて主張した。
「そんなのずるい! わたしだって一人部屋がいいんだからね」
エミールが文句を言う。
「ぼくもです」
遠慮がちにトビーも言った。
「ぼく、もう眠い……」
ロンが目をこすりながら言う。
「おれはまだ全然眠くねえけどな。外真っ暗だし、これじゃいつ昼だか夜だかわかんないよ」
ハロルドが鼻の下をこすりながら周囲を見回す。
「ところで風呂はどこにあんの?」
突然、エミールが訊いた。
「あの、それと着替えとかはないんですか?」
トビーもこちらを見て尋ねる。僕が質問に答えようとした時、別の声がそれを遮った。
「宇宙ったって地上とあんまり変わらねえじゃんか。ちゃんと重力あるみてえだし……」
ジャンがテーブルの周囲を歩き回りながら言う。
「なーんだ。あんた、宇宙に行ったことないの?」
エミールがからかうように訊く。
「へっ。悪かったな。はじめてだよ」
ジャンが彼女を睨みつける。
「おれもはじめて!」
はしゃいだようにハロルドも言った。
「なるほど。では、これまで一度でも船に乗って宇宙に出たことがある人は?」
そう訊いてみた。驚いたことに挙手したのはトビー一人だった。
「何だよ、おめえもはじめてだったのか?」
ジャンがエミールを睨んで言った。
「そうだよ。悪い?」
これはもっと初歩から教えなければいけないと僕は思った。宇宙では宇宙のルールがある。地上にいるのと同じように振る舞われては困る。どんな危険が潜んでいるかわからないからだ。
「宇宙船の中では0.2Gの人工重力が保たれている。それがないと作業するにも不便だからね。シャワーも地上のものとは違う。あとで使い方を教えよう。それと、着替えは大人用の物しか積んでいない。でも、あとでサイズを測って作ることはできる。食料は僕の計算ではストックだけでは1カ月ももたないことがわかった。だから、バイオルームを活用して自給して行こうと思う」
「3カ月? 長過ぎるよ。第一それまでには帰れるんじゃないの?」
エミールの言葉に僕は首を横に振った。
「いや、たとえ、すぐに船を降りることになったとしてもだ。あらゆる想定のもとに手段を講じておくことは必要だ。ましてや、我々人間にとっては食料の問題は大事だからね。畑で育てて収穫できるようになるまである程度の時間がかかるし、常に最悪のことを考えておかないと、宇宙では生き伸びることができないんだ」
「畑? 宇宙船の中に畑があるんですか? ぼくが前に乗ったシャトルには付いてなかったんですけど……」
トビーが驚いて訊いた。
「ああ。短距離移動用のシャトルにはないけど、長距離移動用の宇宙船には大抵組み込まれている。ちょっとした公園や花畑なんかの自然もあるよ。乗組員の心のケアをするためにね」
「へえ。すごいや。それって今見れる?」
ハロルドが言った。
「それは明日にしよう。小さい子が休みたいようだから、先に部屋を決めてしまおう」
そして、部屋割りはこうなった。R2がジャンとトビー。R3がハロルドとロン。R4にエミールとリンチュン。そして、R1が僕とベティー。ロンには赤ん坊の世話はまだ無理だったし、他の子達もそれを拒否した。エミールにはリンチュンの状態を説明し、彼女の世話を任せることにした。
ロンとリンチュンは部屋に残り、他の子ども達は再びリビングへ戻って来た。
「では、早速だけど役割を決めてもいいかな?」
僕は子ども達を見まわして言った。
「お願いしたいことは三つある。まず僕と一緒に簡単なプログラミングや端末への入力を手伝って欲しいということ。第二に、バイオルームや生活必需品の調達のためにマシンのメンテナンスを手伝って欲しいこと。そして、第3に、直接物の運搬や連絡をすること。できることでいいんだ。わからないことはみんな僕やチャラが教えるし、決して無理なことをさせるつもりはない。けど、今は少しでも手が欲しいんだ。どうだろうか?」
「わたしは体動かす方がいいな。運び屋をやるよ」
エミールが言った。
「おれも」
ハロルドも続く。
「俺だってコンピューターのことなんかちんぷんかんぷんだぜ」
ジャンも頭を掻きながら笑う。
「そんなに難しいことじゃないんだよ。一つ一つは簡単なことなんだ。学校でもちょっとしたゲームのプログラミングとかを習うでしょう? あれと同じ」
「ゲームね。プレイならおれ毎日してんだけどな」
「ぼくもです」
ハロルドやトビーが言った。
「それでも十分だと思うよ。要は単純計算と入力ができればいいんだ」
僕は言ったが、子ども達の意見はまとまらない。
みんな体を使う仕事の方がいいと言うのだ。それはそれで大変だと思うのだけれど……。それにしても、誰かプログラミングに回ってくれないと困る。
「あの、ぼくでよければ少しやってみたいんですけど……」
「トビー、ありがとう。助かるよ。できればあと一人誰か来てくれないかな?」
「あのリンチュンって子は?」
エミールが訊いた。
「それは……彼女が承知しないと思う。今は多分、僕の傍にいるのは彼女にとって苦痛だろうからね」
そう。彼女は知ってしまったから……。
「てめえの傍にいたくないって、あの子に何したんだよ?」
ジャンが言った。
「まさか、あんな小さい子に手え出したってんじゃないだろうね? だとしたら許さないよ! この変態野郎!」
エミールが叫ぶ。
「ちょっと待ってよ。僕はそんなことしてないよ。事情は他にあるんだ」
人攫いの次は強制猥褻か? やれやれ。この子達にかかったら人殺しにだってされかねないな。僕は心の中で苦笑した。でも……。
人殺し……か。
僕はそう呼ばれても仕方がないのかもしれないな。
僕は本当にそうなのだから……。
人工の灯りが周囲を照らす。
人間の目にとって最も適した光度の灯り……。
それは暗い深海を進む潜水艦のように、凍てついた空気と密閉された部屋。何処までも人工的な光の底で彼らは何を見ることになるのだろう。
僕の目は水族館の水槽を照らす水色の光のように子ども達を見つめた。
まるで生きている感じがしなかった。
その下で盛んに手や口を動かしている彼らを見ても、その声は僕の耳をすり抜けて行く……。
惑星に住んでいた620万もの人々の嘆きが、僕の耳には聞こえなかった。
切り取られた空間の中で、その声は壁に吸われた。震える音の振動を無理に抑えつけて、心は宇宙と同化した。
感情は乾いている。あの時と同じように……。
――あなたがいけないのです
彼が死んだ時と同じように……。心は遠い時空の彼方を彷徨っていた。
――泣いているのか?
でも、それは決して失われた命の悼みからじゃない。
僕のために彼(ルディー)が罪を犯してしまったと思ったから……。
人間が生まれつき持っている赤い血を持たなかったから……。平等に愛せよと教えられた。誰か特定の者や特定の思想に染まってはいけないと……。まるで機械のように、僕は自分の感情を押し殺して生きて来た。
緑の血を持つ者が王に適しているのは、その冷たさ故のことかもしれない。今ではすっかり消えてしまったように思えても、輸血した赤い血は、僕にその温かさまで移植することはできなかったのかもしれない……。
そんな妄想に囚われた。
有り得ないとわかっている。
けど、時折感じるのだ。
乾いた心が望むのは、いつも偶発と必然の間……。
僕はじっと自分の手を見つめた。白く冷たい。他の何とも繋がっていない。どこか不思議な生き物でも観察するように……。
「チッ! 負けちまったぜ。しょうがねえ。俺がやるよ。あんたの手伝い」
ジャンが言った。
「何?」
そう僕が訊くと少年は苦笑して左手で髪を掻きあげた。
「じゃんけんだよ。俺、そういうのついてねえんだ。拳でだったら負けないのによ」
ジャンはシュッシュッと拳を突き出し、シャドーボクシングの真似をして得意がった。
そして、バイオルームの担当はエミールとリンチュン。運搬係はロンとハロルドに決まった。
「わかった。では、明日から作業をお願いしよう。今夜はもう遅いし、君達も部屋に帰っておやすみ」
子ども達はそれぞれの部屋で眠りについた。
しかし、僕はまだ眠る訳にはいかない。
「チャラ」
僕はロボットを呼んだ。彼はまだ赤ん坊をあやしていた。
「ミシェル、まだベティーが眠ってくれないよ」
「うん。今日はいろいろと興奮材料があったからね」
僕はチャラから赤ん坊を受け取るとコクピットに向かった。
すぐにレーダーと危機管理データをチェックする。
異常はなかった。船は慣性飛行を保っていた。周囲に危険な磁場や漂流物、そして、敵船も見当たらない。
「チャラ、君はD57〜F586までのファイルの修復を試みてくれ」
「了解」
そして僕はシートに備え付けられた赤ん坊用の簡易ベッドに彼女を寝かせようとした。しかし、ベティーは僕の腕にしがみついて離れてくれない。無理に放そうとするとわっと激しく泣き出した。
「ほうら、よしよし泣かないで」
仕方がないので、僕はベティーを抱いてコクピットの中を歩き回った。揺すったり、背中を軽く叩いてやると、彼女は満足して僕の肩にもたれてうとうとした。が、そっと下ろそうとすると、途端に目を開けて大声で泣き出す。
「どうしたらいいかな」
2、3度同じことを繰り返したが、結果は同じだ。これでは作業が進まない。
もう一度彼女が目を閉じた時、僕はベティーを抱いたまま席に着いた。そして、片手でコンソールを捜査した。
まずは情報。
周辺の宙域で活動している船はいないか。また、メルビアーナや銀河連邦の通信を傍受できないか、慎重に調べる。こちらの気配を悟られぬよう、神経を集中させる。と、またベティーがぐずり出した。僕はそっと背中を叩く。赤ん坊が眠る。そしてまた、通信ノイズ。それを何度か繰り返す。
どうやらこの宙域に危険はないようだ。
つまり、情報を入手することもできなかったという訳だが、今はまだ時間の余裕が欲しい。この段階で攻撃を受けたら防ぎようがない。早急に船の修復と改善を行わなければ未来はひらけない。
僕は船内にある幾つかのネットワークを機能させた。
明日から子ども達に手伝ってもらうとしても下準備は必要だ。バイオルームの室温や環境を整え、倉庫の備品についての情報を共有する。それから、機能していない回線を切断し、破壊されてしまったデータの復元を行う。
問題のある個所は267か所。関連ファイルは3741にも上った。
そのうち緊急を要する物は1247。もし、すべてのファイルを入力し直すとして、僕とチャラがフルでやり遂げたとしても86時間は掛かる計算だ。何とかバックアップデータが生きているといいのだけれど……。調べてみると、無事だった物は3分の1もなかった。
僕は重要度が高い順に番号を振った。そして、更にその中から僕やチャラが担当しなければいけない物と、子ども達に手伝ってもらえそうな物とを分ける。そうやって最も効率的な方法は何か、僕は模索した。
赤ん坊がぐずぐず言い始めた。僕はまた背中を叩く。が、今度は収まらない。どんどん激しく泣き出した。
僕は席を立つと彼女を抱え直した。
「あ……」
おむつが湿っている。しかも、彼女の大腿から洩れた液体が僕の手に伝わっている。
「チャラ……」
僕はおむつを取って来るように命じようとした。が、黙って部屋を出て行った。チャラにはそのような機能を組み込んでいなかったし、今取り組んでいる作業の方を優先して欲しかったからだ。
船にはおむつのストックなどなかったので、取り合えず、止血用の吸収シートと消毒用のガーゼなどを組み合わせて代替品を作ってはかせていた。けど、無理があったようだ。問題は……。吸収シートが足りなかったのか。それとも形状に問題があったのか。取り合えずは吸収シートを増やすことにして、赤ん坊と自分の手を消毒した。赤ちゃんの皮膚はデリケートなので、消毒剤も2%に薄める。
おむつを外すと気持ちがよかったのかベティーはご機嫌になった。笑ったり、盛んに手を動かして何か言おうとする。まだ幾つかの単語しか言えないようだ。ベティーは何度もママと言って手を伸ばした。
「ママはもういないんだ。でも、お兄ちゃんがいるからね。ロンや、僕達が……。僕はミシェル。よろしくね」
そう話し掛けると赤ん坊はじっと僕を見つめた。それから、少し笑い掛けた。が、すぐに泣き顔になる。母親がいなくなってしまったことがわかったのかもしれない。
ここは医療ルーム。壁には様々な機器が収納されていた。小さな薬品庫もある。そして、室温や酸素の量などの数値を示すランプの群れ……。
「ママ……」
ベティーが言った。
「ごめんね。ママはいないんだ」
僕は新しく試作したおむつを彼女にはかせようとした。ところが、彼女は僕が手にしたそれを掴んで振り回すといやいやと首を振ってベッドの下へ放り投げた。
「ベティー! だめだよ。ちゃんとおむつをはかないと……」
あろうことか、彼女はくるりと寝返りを打つとはいはいして逃げ出した。
「ベティー、だめ」
僕は壁際にいた彼女を捕まえるとさっき落としたおむつを拾いあげて再びベッドに寝かせようとした。
「やー!」
彼女は僕の髪を引っ張ったり、顔を叩いたりした。
「だめ」
僕はその手を掴んで睨む。でも、まるで効果がない。赤ん坊は掴まれていない方の手と足をばたつかせてわんわん泣いた。ふう。いったいどうしたらいいんだ。僕は何とか彼女を落ち着かせようと揺すったり背中を叩いたりしながら部屋の中を歩いて考えた。
「ベティーは何才?」
何気なく訊くと、彼女はぎこちなく指を一本立てた。
「そう。1才なの。ベティーはいい子だね。それに、とっても賢いよ」
僕が笑い掛けると彼女も声を上げて笑った。わかっているのだ。
「それじゃあね、これは何かな?」
僕は立体スクリーンに投影された花を指して訊いた。
「花……」
彼女が言った。やっぱり。ちゃんとわかっているんだ。僕はスクリーンの映像を変えて何度も試した。
「これは?」
「わんわん!」
「そう。これは犬だよ。それじゃあ、この動物さんは何かな?」
「ニャーン!」
ベティーは得意そうだ。
「そう。これは猫。すごいね、ベティー。君は何でも知ってるの?」
頭を撫でてやると彼女はご機嫌に体を揺すった。
「それじゃあ、今度はねえ」
いろいろ試してみると、彼女は50以上の名詞を理解していることがわかった。体重は11.3kg。身長は80.4cm。歩けるし、少しなら走れることもわかった。やわらかいパンをミルクに浸してやると喜んで食べた。おむつははかせようとするのではなく、彼女が納得するように言って聞かせるといやがらずにはいてくれた。赤ん坊というのは、僕が想像していたより、ずっと大人なのだと感じた。
正確な月齢はわからないが、多分15〜18カ月くらいなのではないかと想像する。誕生日を覚えていないか、明日ロンに訊いてみよう。
そうだ。明日には、子ども達の身体検査もしておかないと……。何事も正確な記録を取っておくことは大切だ。退室や病歴。アレルギーの有無。そして、体重についてはエネルギー産出量に関わって来るから必ず登録しなければならない。
今は子ども達については7人まとめての重量で登録されている。それにしても、ベティーの体重を引いた6人の体重が276.9kgというのは少々多過ぎないだろうか。どの子もそんなに体重があるようには見えないし、服の重さを入れたところで大した誤差ではない。それに、ロンやリンチュンはまだ幼い。重量計にも狂いがあるのだろうか。どちらにせよ、明日にははっきりするだろう。
結局、ベティーが眠りに着いたのは地球標準時間の03時10分。僕は彼女を居室のベッドに寝かせると、モニター用のカメラをセットして通路に出た。
「チャラ」
コクピットでは、ロボットがまだデータの修復作業を続けていた。
「ミシェル、顔色がよくないよ。ここはわたしに任せてお休みください」
「ありがとう。ベティーがやっと眠ってくれたんだ。大変だったけど、いろいろなことがわかって興味深かったよ。それに、赤ん坊って可愛いね。すぐに新しいことを覚えるんだ」
「ミシェルも赤ちゃんが欲しい?」
「うーん。それはどうかな? 今はまだわからないよ。できたらいいと思うけど、彼女はそれを望まないかもしれないし、それに……」
僕の血を継ぐ子どもが、もし緑の血の後継者だったら……。それを思うと恐ろしかった。
それに、僕はまだシャルに告白をしてはいない。彼女が眠りについた時、僕はまだ10才の子どもに過ぎなかった。でも、今度彼女が目覚めたならば、僕ははっきりと気持ちを告げようと思っている。ただ、問題は彼女が女性として僕を愛してくれるかどうか……。
彼女は自分を男性だと主張していた。メルビアーナでは性転換は認められていない。恐らく銀河系広しといえども、そんなことを言っているのはメルビアーナだけだろう。未だに古い慣習と法が大勢を占めているのだ。僕が王になったら、そういう点も変えて行くつもりだった。そうすれば、シャルのような女性も性の狭間で悩み苦しむこともない。
けど、それが通ったら、僕はどうなるのだろう。
もしもシャルが男になると言いだしたなら……。
そして、それが認められる社会になったら……。
僕の思いは行き場を失くし、虚空の宇宙を彷徨うことになるのだろうか。
それとも、友情として、もしくは、互いの任務を果たすため、より強い絆で結ばれることもあるのだろうか。
今は考えるのはやめておこう。
遠い未来のことだ。
メインスクリーンに映るのは、ただ漆黒の闇の宇宙……。
瞬かない小さな星の運命に向かって、船は静かに進行していた。
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