PLANET DESIRE
Clue Ⅰ 激突
封印された記憶……。その砕かれた時間の砂に埋もれたような都市の残骸の中で、彼は独り、竪琴を弾いていた。凡庸に月は傾き、視界はぼんやりと地平に霞む岩山を捕らえて放さない。風の音。砂の音。そして、歴史を刻む魂の足音……。文明の名残のような風が、弦の間をすり抜ける……。もう今は崩れ落ちた残骸でしかないコンクリートの塊や、主を失くした哀れな品々の亡骸が眠る。茶色く濁った空には鳥の飛ぶ影さえなかった。
「死の街か……」
ユーリスはふと手を休めて呟いた。風の中、歴史が通り過ぎていく……。彼の知るやさしい人々が……。
――ユーリス、これを君に……
――何?
――虹だよ。ほら、君の黒髪によく似合う
それは彼の髪に留めている小さな髪飾りだった。繊細な細工の施してあるそれに掛かる虹。それは光の屈折を巧みに利用して作られた工芸品だった。ただ、それと同じ物をユーリスは何処の都市でも見たことがなかった。恐らくそれは彼の友人が製作してくれた唯一の品なのだろう。ユーリスはそれを今も大切にしていた。が、ここでは虹を映さない。微かなあたたかい記憶さえ風が残酷に引き裂いた。乾いた砂は容赦なく礫を飛ばし、心に写した写真さえ焼き殺した。ここは命を吸い尽くす砂漠……。命を貪り怪物が住む禁断の地……。彼は再び竪琴を弾き始めた。
ある日、世界は混沌となった
光を失くした星座のように……
愛を失くした子供のように……
しがみついても抱き締めても
偽りの骨組みは砂のように崩れ
空しさだけが降り積もる……
ただ一つの真実を巡り
人は翻弄され
夢を見ることさえ禁じられた
夢を見ることさえ……
ならば、どうか給わん
神の道化でしかない人形たちに
一夜の夢を与えん……
どうか安らかなる眠りを……
ばらばらと砂が当たり、ユーリスの指の間から零れて行った……。そこで、彼はふと演奏の手を止めた。気配を消し、風下からそっと近づいて来る者がある。
(賢い奴だ)
とユーリスは思った。風が唸り、獣のように吠え立てた。ユーリスの腰に巻かれた布のサッシュベルトがはたはたと靡いて矢筒を叩く。崩れた家の窓枠にくくりつけられた飾り鐘が掠れた悲鳴のような音を上げた。獣はゆっくりと近づいていた。尋常ならぬ覇気を感じる。
(破壊神か……?)
ユーリスはそっと竪琴を置いた。風が弱まり、互いの鼓動が高まっていくのを感じる。そして、風が止まった。次の瞬間。ユーリスは素早く跳んで、折れて埋もれた柱の上に立った。と、先程まで彼がいた場所には黒い青銅色に輝く怪物がいた。うねった筋肉の波が盛り上がり、岩肌のような装甲にも似た肌をした人型の怪物。威厳さえ感じさせるその身長は裕に250センチは越えるだろう。怪物はギンとユーリスを睨むと鋭い爪で宙を掻いた。
「何と、美しい……」
ユーリスが呟く。漆黒の黒い鬣。頑丈な皮膚と理想的に発達した筋肉……。鋭い牙とその爪は固い石壁を砕き、鉄の刃でさえも寄せ付けない強靭さを持つという。それはこれまで彼が出あって来たどんな怪物よりも整った形をしていた。もしも、これに知恵があるなら、神と呼ばれているのも納得がいく。しかし、これは決して神ではなく怪物だ。現に周辺の村では破壊神のせいで犠牲になった者は計り知れない。ユーリスは矢を構えた。怪物は動かない。シュッと鋭い空気の摩擦音と共に矢が飛ぶ。
「ウグッ!」
と怪物は微かに呻き声を上げた。そして、驚いたように、自分の胸に突き立った矢を見つめている。ユーリスは間髪おかずに次々と矢を射った。怪物は飛んで来る矢に向かって激しく腕を振った。何本かの矢は払い落とされたが、何本かの矢が怪物の腕や胸に刺さった。が、どれもほんの一、二センチ矢じりが喰い込んだだけで、怪物に致命傷を与えることは出来ない。
「聞きしに勝る頑丈な皮膚だ」
彼は最後の一本を番えながら呟く。と、その矢を射った瞬間、怪物が吼えた。
「グァウォ……!」
そして、飛んで来た矢を無造作に掴んだ。それから、自分の手や胸に刺さっていた矢を次々と抜くと怒りに任せて放り投げた。矢はバラバラと散らばって、ユーリスの足元にも転がって来た。怪物の皮膚に小さな穴が開いて薄桃色の肉が覗く。僅かに血も出ているらしかったがどれもかすり傷程度である。
ユーリスは怪物が動く前に大剣を抜いて跳んだ。そして、向かって来た怪物に向かって上段から勢いよく振り下ろす。しかし、快心の一撃は決まらなかった。怪物の動きは彼が想像したよりも数段速かったのだ。彼が振り下ろし、横に凪いだ時には、既に怪物は彼の頭上に跳躍し、その鋭い爪で彼を引き裂こうとしていた。
「くっ!」
ユーリスはグイと体を捻って反転させ、低い体勢から剣を突き立てた。が、怪物はそれもかわした。何と空中で向きを変え、彼を跳び越え、反対側に立ったのだ。ユーリスが体勢を立て直し、その怪物を見た時、怪物は笑っていた。顔面の皮膚は硬い表層に覆われて表情はほとんど判別出来なかった。が、それでも、ユーリスは直感的にそう思ったのだ。そしてそれは、ユーリス自身にも通じる思いだった。久々に手ごたえのある奴に遭遇した。これまでも彼は数え切れない程の戦いをして来た。が、ユーリスにとって、それは常に空しい遊戯でしかなかった。強豪がいないのだ。たとえ相手が怪物であろうと、彼を本気にさせた者はない。彼はふっと微笑すると、剣を構え直した。そして、今度は二人、真っ向から突っ込んだ。鉄の刃が当たって火花が散った。怪物はいつの間にかそこで朽ち駆けていた太い鉄棒を握っていた。剣はそれに当たったのだ。
(こいつ、賢いな)
道具を使って応戦して来る怪物は初めてだった。
「ならば、行くぞ!」
彼は再び切り込んだ。が、また、怪物はその鉄棒で防いだ。ユーリスは速攻をかけた。凄まじい速さで縦横無尽に切り込んで行く。が、怪物もそれに付いて来ていた。巨体の割に反射神経は抜群だ。電光石火。怪物の周りで火花が散った。そして、何合目かの打ち合いの時、ついに怪物が持っていた鉄棒が折れた。握り手だけを残して残りの棒は遥か後方へと吹っ飛んだ。
「どうやら、わたしに勝気があるようだな」
とユーリスは不敵に笑んだ。
「ウグ!」
怪物は僅かにたじろいだように見えた。
「もらった!」
ユーリスが跳躍し、渾身の力を込めて台剣を振り下ろした。これで、すべてが決まるはずだった。が、握っていた鉄棒を後ろに放ると、怪物は、僅かにたわんでそのまま跳んだ。そして、その鋭い爪を思い切り彼の胸に突き立てた。
「う!」
ユーリスは慌てて飛びのこうとしたが間に合わなかった。剣が怪物の肩に食い込んだ。が、同時に怪物の爪がユーリスの胸を裂いたのだ、白いシャツに血が滲んだ。反射的に身を反らしてかわしたものの、怪物の爪先には抉られた肉片が付着していた。
「ぐふっ!」
彼は片手で胸を押さえた。激痛と嘔吐感。口からも血を吐いた。
「バカな……! 鉄で編まれた防護服が……」
彼が着ていた鉄壁の装甲がまるで絹か木綿でもあるようにいとも簡単に引き裂かれていた。こんなことは初めてだった。頭の中が、抉られた胸が火のように熱い。それでも、ユーリスは怪物に喰い込んだ剣を引き抜くと地面に付きたて、それをテコにして後方へ跳んだ。
怪物の肩からも血が流れていた。それを片手で覆うとその手のひらを見た怪物が吼えた。恐らく怪物にとってもそれは未知なる体験だったにちがいない。怪物が突進した。ユーリスは跳んだ。そしてすれ違った怪物の背を狙い、血だらけの手で剣を振るう。が、固い怪物の背中の皮膚はそれを受け付けなかった。僅かにまとわりついていた髪が切れてバラバラと落ちる。それを見て、また、怪物が逆上する。
「グァルアアアッ!」
そして、滅茶苦茶に鋭い爪を何度も振り下ろして来た。ユーリスは地面を転がって防いだが、これでは時間の問題だ。彼は怪物の執拗な攻撃をかわしながら、辺りに使える物はないかと必死に探した。
そして、ふと目についた物。それは瓦礫の中で茶色くすすけ、泥だらけになっていた壺だった。壺の中には、とうに枯れ果てた植物の茎が何本か差さっていた。誰かがこれに花を差そうとしたのかもしれない。すべてが歪み、崩れた中で、この壺だけが真っ直ぐ立っていたのも不自然に思えた。しかし、ユーリスにはそんなことを考えている余裕などなかった。彼は攻撃をかわしながら、壺に近づいた。そして、素早くそれを抱えると瓦礫の階段を駆け上がり、天辺から思い切り跳躍した。そして、怪物の頭部目掛けて力いっぱい叩きつける。壺は盛大に砕けた。そして、怪物の顔面に欠片となって散った……。が、それは怪物にとって致命傷にはなり得なかった。しかし、怪物は呆然とし、落ちて来た植物の茎を掴んだままじっとユーリスを見ていた。
「石頭め!」
彼は素早く体制を立て直すと再び剣を持って切り掛かった。怪物は直前までボウッとしていたが、不意に握っていた植物の茎をグシャリと潰した。粉のようにそれは砕け、地面に到達する前に風によって飛ばされた。
「グァァアァアアーッ!」
怪物が叫んだ。その目には狂気にも似た鋭い光が宿り、悲痛な声は砂漠を激しく震わせた。そして、ユーリスが振り下ろした剣を素手で薙ぎ払う。その凄まじい力に剣を飛ばされそうになった。が、辛うじて耐えると、下段から怪物の脛を狙った。が、やはり一撃でそれを切ることは出来なかった。僅かに怪物が怯んだ。その隙に体勢を立て直し、今度はその手首を狙う。しかし、それが当たるのと同時に刃先を掴まれ、後方へ飛ばされた。が、ユーリスは空中で受身の態勢を作り、着地するのと同時に再び跳躍。高い位置から切り込んだ。しかし、その刃が到達する前に、怪物に足首を掴まれた。そして、勢いよく瓦礫の壁に叩きつけられた。
「うぐっ!」
背中を強打して息が詰まった。が、それでも何とか立ち上がろうと剣にすがって半身を起こす。と、そこへ、再び怪物が襲い掛かった。慌てて剣で払ったが、左肩を掴まれた。それはほんの一瞬だったが、五本の爪がぐさりと食い込んで激痛が走った。彼は反射的に怪物の腕を掴むと上へ押し上げた。それから、強引に右へ跳んで怪物から離れる。たちまち肩から二の腕に掛けての間が鮮血で染まった。
「くっ!」
うまく動かない。腕が痺れていた。が、それでも、彼は懸命に剣を構えた。怪物はそんな彼に容赦なく攻撃を加える。
「ぐぉっ……!」
ユーリスは下段から中断に向けて剣を凪いだ。怪物がそれを避けるとすぐに上段から振り下ろす。肩と胸に激痛が走ったが、彼は怯まなかった。剣は再び攻撃に転じようとしていた怪物の腕を打った。
「ウガッ!」
怪物は悲鳴を上げたが、剣は怪物の皮膚の表面を浅く傷つけたに過ぎなかった。骨をも砕く豪剣が、この怪物にはまるで通用しない。ユーリスは怪物の腕から剣を退くと今度は身を低くして怪物の喉元目掛けて思い切り突いた。が、切っ先は僅かに届かず、矢継ぎ早に繰り出した連続攻撃もことごとくかわされた。二人は一旦離れて間合いを取った。血だらけのユーリスは肩で息をしている。一方、怪物の方はやはりあちこち傷だらけになっているものの明らかに損傷は少ない。
(くそっ! このままでは……)
ユーリスに焦りが生じた。が、彼に考えを巡らせる余裕も与えず、怪物が襲い掛かる。地を蹴り、跳躍して頭上から腕を伸ばす。ピクンとユーリスの動脈が波打った。彼は跳ぼうとした。が、瞬間的に走った激痛が僅かに動きを制した。
「うぐっ……!」
怪物の爪が腕と背中を摩かし、巨大な拳がユーリスの腹に炸裂した。彼は飛ばされ、瓦礫の中へ突っ込んだ。すぐには起き上がって来ない彼を見て、怪物は微笑した。
それでも、ユーリスは懸命に起き上がろうとしていた。痛みではない、熱さだけを感じる。骨が軋み、胃液が逆流して、気分が悪かった。口の中で混ざった血を吐き出そうとして口を開いたが、それさえも自由にはならない。何度か空咳をして更なる痛みを誘発した。が、彼は剣を掴むとそれを支えに更に体を起こそうともがいた。が、まるで力が入らない。見れば、すぐ目の前に怪物が迫っていた。
「ここで、終わるのか……? こんなところで……!」
ユーリスは薄く滲んだ涙の向こうに霞んで見える竪琴を見た。
「こんなところで……!」
ユーリスは立ち上がった。そして、剣を構える。
「わたしは死なない! こんなところで死ぬ訳には行かないんだ!」
ユーリスは叫ぶと怪物目掛けて突進した。そして、怪物の腹にその切っ先を捻じ込んだ。
「グアッ……!」
と怪物が悲鳴を上げる。喰い込んだ刃の隙間から血がドクドクと流れ出した。が、それでも、刃はほんの数センチ喰い込んだに過ぎない。怪物は目を剥いて怒った。そして、自分の腹に刺さった刃物を強引に引き抜くとそれを握っているユーリスには構わず、力任せに放り投げた。乱暴に奪われて、それを掴んでいた手首が捻れた。
思わず膝を突き、手を突いた。そんなユーリスの姿を怪物は狂った獣のような目で見つめていた。
「グァウッ!」
突然、怪物が叫んで手を振り上げた。ユーリスの手に武器はない。しかもその手は痺れて動けない。怪物の鋭い爪が孤を描き空気を裂いた。彼は膝立ちで両手を伸ばし、辛うじてその腕を止めた。だが、怪物の力は凄まじく、彼の骨は悲鳴を上げ、歪んだ音を立てた。苦痛に顔を歪める。が、押さえた腕は放さない。が、怪物はもう片方の手で彼の頭を、鷲づかみにした。額やこめかみや高等部に怪物の爪がくい込み、顔面や首筋にも血が流れて行く……。
「ううっ……!」
彼はたまらずその手をどけようと右手を放した。瞬間、怪物が彼の両の肩に手を掛けグイと力で押し倒した。そして、動けないとみると、怪物は肩に食い込ませた爪でしっかりと押さえつけながら、両の手の親指の爪でそっと彼の喉を撫でた。まるで、怪物は彼が怯え、苦しむのを楽しんでいるかのように見えた。が、ユーリスは怯えも恐れもしなかった。ただ、頭や肩や胸からの出血で彼は朦朧としていた。ボンヤリと開けた目に茶色く雲ってすすけた空が覗いた。一瞬、誰かの顔が過ぎった気がした。が、それが古の姫君だったのか、それとも亡くした親友の顔だったのかも、もうわからない。死ぬのだと思った。
「ふっ。 ユーリス バン ロックともあろう者が……こんなところで……英雄も地に落ちたな……」
と自嘲の笑みを浮かべる。怪物はじっとその顔を覗きこんでいた。その怪物に向けて彼は微笑んだ。
「わたしを食らうか? ならば、止めを刺してみろ!」
と挑発する。
「ここでおまえにやられるならば、所詮わたしもそれだけの男……」
怪物はグルルルと喉を鳴らしている。
「だが、ただでは死なぬ! さあ、殺ってみろ! わたしを殺せ! どうした? わたしが怖いのか? 人間である、このわたしが……!」
そう言って、笑みを浮かべる。怪物は、
「ガゥッ!」
と一声鳴くと、押さえていたユーリスを放し、その手を振り上げた。血濡れた爪の先から赤いしぶきが散った。それで、すべてが終わるはずだった。引き裂いて肉を食らう。怪物にとって、それは久々に新鮮で上等な肉のごちそうだった。が……。
もう動けないかと思った彼が突然、行動を起こした。その爪が喉を切り裂くより早く、怪物の腹に小刀を突き刺したのだ。それは懐に収めたゲザークにもらったあの護身刀だった。その柄を両手でしっかり握り、根元ぎりぎりまで深く刺した。
「グフ……!」
と怪物は一声発したが、次の瞬間には彼の胸に爪を突き刺して、
「グオオオッ……!」
と、その小刀ごと勢いよく弾き飛ばした。
ユーリスは地面に叩きつけられ、動かなくなった。怪物は荒く息をし、刺された腹を押さえた。血はまだ流れ出ていたが、倒れた人間の様子を見に行った。彼は仰向けに倒れて動かなかった。衣服は鮮血に染まり、顔に血の気はない。その端整な顔も漆黒の髪にもベッタリと血が付着し、汚れていた。怪物はそっとその頬を爪で突いた。薄く血が滲んだが反応はない。髪留めにしている繊細な銀細工に何かが反射して微かに光った。怪物にしてみれば、久々の人間だ。食ったらさぞかしうまいだろう。引き締まった筋肉が、血の臭気が、怪物の食欲を刺激した。怪物はゆっくりとその喉元に爪を近づける。引き裂く瞬間を思って胸が高鳴った。
――こんなところで死ぬ訳には行かぬのだ
不意に、そんなユーリスの言葉が蘇った。
――ユーリス バン ロックともあろう者が、こんなところで、死ぬ訳には……
風が疎らに舞い散る砂を飛ばす。それは、ユーリスに、彼が持っていた竪琴にぶつかって乾いた音を立てた。そして、怪物自身にぶつかるそれも感情を消している。怪物はじっと竪琴を見た。それから、自分の足元に横たわっている男を……
「ゆ…り……?」
怪物が言葉を発した。それから、じっと男の顔を見つめる。その男にはまだ、微かに息があった。と、そこへ新たな怪物の気配がした。血の臭気に誘われて来たのだろう。数は3体。それは決して勝てない数ではなかったが、距離がある今のうちならまだ逃げられる。この獲物と怪物3体。どちらの肉が上質なのかを理解していた彼は、迷わず逃げることを選んだ。
それに、これは、特別な獲物だ。そして、あの竪琴だ。怪物は、爪で傷つけないようにそっとユーリスの体を持ち上げた。そして肩に担ぐ。その体は、まだあたたかかったが、首も手もだらんとして動かない。怪物は軽々と片手で彼を肩に担ぐと、少し離れた場所にあった彼の剣と竪琴を拾った。そして、そのまま風の中へと消えて行った。