劇団ヌーボー
EPISODE V
「ルイが誘拐されたですって?」
劇団の事務室に入って来るなりエリックが言った。そこには既に団長のダニール、脚本家のミカエル、それにクロードとクリフが顔を揃えていた。
「ああ、そうなんだ。うちのルイちゃんにもしものことがあったらどうしよう!」
ダニールが頭を抱えて言った。いつもは強気のダニールも息子のこととなるとただおろおろするばかり。頼りない父親振りが露呈してしまう。
「本当にごめんなさい。僕がいけなかったんです。みんな僕が……」
クリフが泣きながら何度も頭を下げる。
「一体どういうことなんだ?」
エリックが訊いた。
「脅迫状が届いたんだ」
クロードが一枚の封筒をテーブルに置いた。
「脅迫状?」
エリックがその手紙を取り上げて読む。それは巧妙に切り貼りされた文字で、確かにルイを預かっている旨の内容が記されていた。そして、最後には身代金として1,000万ユーロ用意しろとあった。
「1,000万ユーロとはまた大きく出ましたね」
エリックが手紙を封筒に戻しながら言った。
「何言ってるのよ、エリックちゃん。1,000万ユーロなんてルイちゃんの命に比べたら低すぎる値だよ。この犯人、まったくもって価値を知らないんだからいやになっちゃう」
「警察には届けたんですか?」
エリックの問いにミカエルが答える。
「いや、無理だろう。定番の台詞だが、警察に知らせればルイに危害を加えると言って来ている」
「犯人と接触があったんですか?」
「クリフが……」
と、言い掛けるミカエルを遮って、当のクリフが一段と声を張り上げて泣いた。
「泣いてちゃわかんないよ。何があったんだ?」
エリックが訊いた。が、クリフはただ泣きじゃくるばかりで返事ができない。代わりにクロードが説明した。
「今日はダニールに来客があって、ルイを迎えに行けなかったんだ。それで、代わりにクリフに行ってもらったんだが……」
「僕だって学校の帰りに寄り道するのはよくないことだってわかってたんです。お婆ちゃんからよーく聞かされていたんだもの。だから、一度家に帰ってからにしようって言ったんですけど、ルイが今日はいつもより時間が早いからって……それに、今日の5時までで終わってしまうと言うもんだからつい……」
「さっぱり事情が呑み込めないんだが……」
エリックが言った。
「要は、二人でサーカスを観に行ったらしいんだ」
クロードが言った。
「サーカス?」
「ああ、ここにチラシがある」
ミカエルが見せた。
「シルクドスネーク?」
エリックが首を傾げる。
「蛇を使って芸を見せる闇の移動サーカス集団さ。だが、実態は訪れた街で犯罪を行う盗人詐欺の集団だ。ルイの学校からも絶対に立ち入らないようにという注意が来ていたんだが……」
ミカエルが言った。
「そんな所に何故?」
エリックがクリフを見て問う。
「僕、そんな悪い人達の集団だなんて知らなくて……。ただ、蛇が見たくて……。ルイも同じです」
クリフが言った。
「それでどうだったんだ?」
クロードが訊いた。
「それはもう大きいのやら小さいのやらうじゃうじゃいて、ものすごーくエキサイティングでした」
クリフが目をきらきらさせて言った。聞いていた四人はいやそうな顔をしたが、当のクリフはうれしそうだった。
「いろんな珍しい蛇を見られたし、世界でも稀な芸を覚えた蛇とかショーは素晴らしかったです。でも、僕達が帰ろうとした時、支配人だという人が現れて、僕達を誘ったんです。もっと珍しい蛇を見せてくれるって……」
「それで付いて行ったのか?」
エリックが呆れたような顔で訊いた。
「はい」
クリフが頷く。
「まさか蛇につられて付いて行くとはな。まったくもって想定外だ」
クロードが言う。
「そうだよ。チョコレートやキャンディーをもらっても付いて行ってはいけないと言ってあるけど、蛇に付いて行くなとは教えていないんだ」
ダニールが涙を流して訴える。
「そりゃ普通はないだろうさ」
ミカエルも呆れる。
「しかし、どうする?」
エリックが言った。
「そうだな。まずはそいつらの居場所を突き止めることだ」
クロードが冷静に言った。
「クリフ、場所を覚えているか?」
ミカエルが質問する。
「はい。でも、もうそこにはいないと思います」
「何故わかる?」
「だって、ショーが終わって、荷物は車に積まれていました。それに僕達その車で移動したんです。でも、移動する間、車の窓にはずっとカーテンが掛かっていて外は見えませんでした。その、蛇にはよくないからって言われて……」
「それで、移動した先で蛇を見たのか?」
クロードが促す。
「いいえ。その蛇はまだ眠っていて巣穴から出て来ないからって……。それで、僕達しばらく待っていたんですけど……」
「おい、それで何でおまえだけここに帰って来れたんだ?」
エリックが疑問をぶつける。
「わかりません。でも、気がついたら、ルイの学校の前にいて……ポケットにこの手紙が……」
「薬でも嗅がされたか……」
ミカエルが推理する。
「今は9時20分。ショーが終わったのが5時だとすると、動けるのはこの半径だな」
テーブルの上に周辺の地図を広げて、クロードが円を描く。
「しらみつぶしに探すか?」
エリックが訊いた。
「いや、ネットワークを使おう」
クロードが言う。
「そうだな。警察なんかよりはずっと役立つだろう」
ミカエルも同意する。
「それにしても犯人も見誤ったな。放すならルイの方にしておけばよかったものを……」
クロードが呟く。
「そうです。ルイはまだ小さいのに可哀そうです。僕が代わりに人質になればよかったんだ」
クリフが言った。
「そういう意味じゃないよ」
エリックが慰める。
「そ。ルイを人質にするなんて犯人も気の毒にと思ってさ」
ミカエルも言った。
「犯人の奴、絶対に許さん! 見つけたらぼこぼこになめして、1ミリごとに切り刻んでやる!」
指をぽきぽき鳴らしながら、凶悪犯もたじろぐような凄まじい形相でダニールが言った。
「二重の意味で気の毒な犯人だな」
クロードが言った。
「ああ」
他のメンバーも同意する。
「そうだ。この際だからマスコミにも協力してもらって、ルイちゃんの救出には独占インタビュー付きで取材させよう。こいつは大きな宣伝にもなる」
ダニールがすっくと立ち上がって言った。
「まったくもって転んでもただ起きない人ですね」
エリックが呆れる。
「ま、それくらいじゃなきゃ劇団のきりもりなんかやっていけないさ」
ミカエルが言った。
「ルイはどうなっちゃうんですか?」
クリフが心配そうに訊いた。
「大丈夫だ」
クロードがその肩を叩いて言った。
その夜。突然、劇団の事務室にジェニーと市乃助が呼ばれた。
「何だか妙な雰囲気ですね。こっそり裏口から入ってくれなんて……」
市乃助が言った。
「そうね。こんな時間に呼び出すなんて尋常じゃないわ」
ジェニーも解せないといった顔をする。
「おれ達、何か逆鱗に触れることしちゃった訳じゃないですよね? こっそり呼び出して闇に葬られるとか……」
「馬鹿ね。それなら、わざわざ劇団に呼びつけたりしないでしょ?」
「でも、灯台もと暗しなんて言いますからね」
やたらそわそわと落ち着かない市乃助を見てジェニーが言った。
「何か心当たりでもある訳?」
「とんでもない。いつだっておれは清廉潔白ですよ」
市乃助が慌てる。
「あんたじゃせいぜいケーキのつまみ食いがばれた程度でしょうからね」
ジェニーが呆れ顔で言う。
「そんなあ」
市乃助がぼやく。
だが、実際中へ入るとそんな冗談も言えない雰囲気に包まれていた。ダニールが来て簡単に挨拶を済ませると沈痛な面持ちで言った。
「実は、息子のルイが誘拐されたのです」
「誘拐?」
二人が驚く。
「それで、警察へはもう届けたんですか?」
ジェニーが訊いた。が、ダニールは首を横に振り、額に右手を当てて俯いた。
「いいえ。そんなことをすればルイを殺すと犯人が……」
重々しい沈黙。壁に掛けられた時計でさえ遠慮がちに時を刻む。二人は息を呑んでダニールを見つめた。
「それで、犯人の要求は何なんですか?」
ジェニーが真剣な顔で訊いた。
「金です。連中は1,000万ユーロを要求して来ました」
「1,000万ユーロですって?」
市乃助が驚く。
「金はどんなことをしてでも用意します。でも……まだたった12才でしかないルイがどれほどまでに恐ろしく、心細い思いをしているかと思うと辛くて……胸が張り裂けそうなのです」
その瞳からは今にも涙が溢れそうだった。
「わかります。誰であろうと子どもを誘拐するなどと卑劣なことをする犯人を許してはおけません」
市乃助がきりりと言った。
「ありがとうございます。あなた方だけなのです。数いるマスコミの中でも真に信頼がおけるのは……」
そんなダニールの言葉に胸を打たれた二人も目を潤ませた。
「そこで、ぜひ、あなた方に協力をお願いしたいと思いまして……」
ダニールが熱を込めて言う。
「協力? それは、わたし達にできることでしたらどんなことでも協力させていただきます」
二人は同意した。
「まずはルイの救出です。何があろうと、あの子の命を優先しなければなりません」
「当然です」
彼らは深く頷いた。
「そこで、我々は警察に頼ることなく、自分達の手でルイを取り戻そうと考えました」
「でも、どうやって……?」
ジェニーが訊いた。
「犯人の見当はついているのです。そこで、あなた方マスコミの情報網を利用してぜひとも探し出して欲しいのです」
「犯人は一体誰なんですか?」
市乃助がずばり訊いた。
「シルクドスネークの一団です」
「シルクドスネークっていうと、あの蛇使いのサーカス団のことですよね?」
市乃助が念を押す。
「サーカス団とは名ばかりで、実態は犯罪集団だという噂よ。でも、警察も、マスコミもなかなかしっぽを掴めないでいたのよ」
ジェニーが補足的に説明する。
「そいつらがルイを攫ったと言うんですか?」
市乃助が身を乗り出して訊く。
「その通りです」
ダニールが頷く。
「でも、その者達が犯人だという確かな証拠でもあるのですか?」
ジェニーが慎重に訊いた。
「はい。実は今日の夕方、ルイとクリフがそのショーの見物に行っていたのです。二人は環境保護、特に動物保護などにとても感心のある子達でして……。本来自然の中で生きている蛇が人間のエゴによって不遇な扱いをされているかもしれないと聞いて胸を痛めていたのです。それで、彼らは危険を承知で様子を見に出掛けました。二人はとても正義感が強いのです。どうしても支配人に注意をしなければと、ショーが終わったあとに楽屋を訪れたそうです。ところが、二人がうちの劇団員だと知ると、彼らに悪い考えが浮かんだのでしょう。あろうことか二人を拉致して連れ去ったのです」
「何と……」
「悪い連中ですね」
ジェニーも市乃助も本気で腹を立てていた。
「そして、子どものルイの方が扱いやすいと思ったのでしょう。犯人はルイを人質にし、可哀そうなクリフは薬で眠らされた挙句、道路に放置されて、危うく車に轢かれそうになったのです。幸い命は取り留めることができましたが、彼もまた私の息子同様な存在です。私の大切な息子達に非道なことをするシルクドスネークの連中を許せない。できることなら、この手で捕まえて八つ裂きにでもしてやりたいところです。しかし、そんなことをしても何も解決はしない。今はただルイを無事に救出し、彼らを警察に引き渡す。そして、人間としてあるべき姿を取り戻して欲しい。こんなことをもう二度と起こすことなく……。今、劇団の者達が手分けをして彼らの行方を追手います。ぜひ、あなた方にも協力をお願いします」
ダニールの言葉に二人は感動し、必ずお役に立ちましょうと誓った。
その頃、ルイはシルクドスネークの大型バスの中に監禁されていた。暗くじめじめとしたその箱の中には大量の蛇が詰め込まれている。
「可哀そうに……」
ルイが呟く。
「可愛い蛇達をこんな目に合わせるなんて絶対に許せない」
しかし、その手も足もロープで巻かれ、彼自身が蛇のように床に転がされている。そのすぐ隣には箱から溢れた蛇が這ったり、とぐろを巻いたりしていた。
「へへへ。どうだ、坊主、自分が蛇になった気分は……。恐ろしいか?」
大蛇のように目つきの悪い男が来て言った。
「楽しいよ」
ルイが応える。
「ふん。負け惜しみを言いやがって……」
「負け惜しみなんかじゃないよ。ほんとにそうだから言ったんだ。それにね、このロープ、締め方が甘いよ。これなら、逃げようと思ったら簡単に抜けられちゃう。こんなんじゃつまんない」
そう言うとルイは身体をくねらせ、反対を向いた。
「馬鹿なこと言うな。そのロープは外れないさ。おれがきっちりと縛ったんだからな」
「信じないの? それじゃ解いてみせようか?」
ルイはもそもそと手を動かした。確かにロープにたるみができて今にもその手が抜け出て来そうに見えた。
「ふざけやがって……」
男が慌ててそのロープを掴むと結び目を強く締め付ける。
「あぅ…ん……」
ルイが微かに声を漏らす。
「へっ。どうだ? これならもう逃げられないぞ」
「あん、駄目だよ。もっと強く……」
ルイが切なそうな目で男を見上げる。
「何だと?」
逆上した男が更に強く締めあげる。
「あん! いいよ……もっと……!」
ルイが言った。
「このガキ……!」
馬鹿にされたと勘違いした男がムキになって締めあげる。
「これならどうだ? ほんとに 骨が折れちまったって知らねえぞ」
「まだだよ。こんなんじゃぜんぜん足りない……」
ルイが喘ぐように言った。
「何度言ったらわかるの? もっと強くって言ってるじゃない。こんなんじゃちっとも感じないじゃないか! おじさん、へたくそだね」
「このクソガキがっ!」
少年の言葉に思わず逆上した男がベルトでルイの身体を打ちつけた。
「あぅ!」
悲鳴を上げながらも少年は男を挑発する。
「今のはいいね……。すごく効いた……。でも、できれば一回きりじゃなくて、もっと続けてくれないかな?」
そう言って見上げる瞳が笑っている。
「こ、この野郎……! ガキだと思って手加減すれば……」
「ふふふ。誰が手加減して欲しいなんて言ったのさ。ぼくはもっと激しいのが好きなんだ。こんなもんじゃ全然足りないよ。せっかく素晴らしいシチュエーションが揃ってるんだから、もう少し楽しませてよ」
「き、貴様、ガキのくせして変態か?」
震えるように男が言った。
「失礼だね。世の中にはいろんな性的嗜好が認められてるんだよ。ぼくがマゾヒズムの快感に酔いしれたいと願うのはごく自然の欲求から来ているものなんだ。誰もそれを妨げることはできないし、誰にも批判されることもない。おじさんが僕を満足させてくれないなら、もうここに用はない。ぼくは帰るよ」
そう言うとルイはするりとロープを解いて手を抜き、足の結び目を解き始めた。
「この野郎!」
ルイが放り出したロープを掴むと男が少年に向かって打ちつける。しかし、ルイは避けなかった。
「こいつ……!」
男は何度も何度もロープを振るう。と、その時。ドアが開いて複数の男達がバスの中になだれ込んで来た。
「貴様!」
男が打ちつけるロープがしなり、揺れるカーテンの隙間から射し込んだ月光に閃く。その下には少年と蛇達がいた。
「よくもうちのルイちゃんに酷いことをしたな!」
ダニールが叫ぶ。薄暗い照明に照らされてその形相はまさしく鬼か蛇かという迫力だ。
「ミミズにも劣る屑野郎がっ!」
誰の言葉も聞かず突進する団長。
「な、何故ばれた?」
動揺する男に豪快なアッパーパンチをくらわせると、ダニールは男の胸倉を掴んで何度も拳を振るった。男の身体のあちこちがぎしぎしと鳴り、骨の砕ける音がした。
「うちのルイちゃんに暴力を振るうなんて……絶対に許さん! 全身粉々にしてやる!」
「ひぇ〜っ! やめて! おれだけがやったんじゃない。悪いのは支配人で、おれはただ頼まれて……」
見苦しい言い訳をする男の顔面を殴りつける。と、それきりその男はくたりとして大人しくなった。
「ルイ! 無事か?」
その隙にエリックが少年の身体を抱えて外に出た。
「ルイ! よかった」
すかさずクロードとミカエルが来てその手を掴む。瞬間、フラッシュの光が何度も飛んだ。
「ああ、かわいそうに……こんなにあちこち赤くなってる……。きっと酷いことされたんだね」
クリフが涙を流す。そんな彼らの様子を見て思わずもらい泣きしているジェニーと市乃助。
上空ではヘリコプターがこの様子の一部始終を捉えていた。既に警察によって逮捕されていたシルクドスネークの面々がゆっくりと警察車両に乗せられて行く。
そして、格闘の末(?)犯人を取り押さえたダニールは後日、英雄として週刊誌の見出しを飾った。そして、この件で、これまで逮捕に踏み切ることのできなかったシルクドスネークの一味を捉えることができたと劇団ヌーボーには感謝状が贈られた。しかも、ルイとクリフには動物保護団体から特別名誉会員としての地位が与えられた。
「それにしたって心配したぜ、ルイ。ほんとにおまえ大丈夫だったのか?」
エルンストが訊いた。
「うん、全然物足りなかった。見かけ倒しの大男しかいなくてさ、ほんとがっかりしたよ」
ルイが答える。
「まあ、連中にとっても相手が悪かったよな」
エルンストが週刊誌を置いて言った。
「結局、奴らケチな泥棒でしかなかったんだ」
ルイが不満を漏らす。
「ケチな泥棒にしちゃ今回の罪は派手だね。未成年者拉致、監禁、暴行、児童虐待、動物保護法違反及び脅迫、麻薬取り締まり法違反、殺人未遂etc」
週刊誌に列挙されていた主な罪をエルンストが読み上げた。
「ぼくとクリフにしたことが助長されているね。多分パパがやったことだろうけど、ほんと、ああいうタイプは敵に回したくないね」
などと言ってルイが首を竦める。
「あはは。おまえだって立派にその血を継いでるよ」
エルンストが笑う。
「そうかなあ? ぼくは至って健全で普通だと思うけど……」
「普通? なら、今夜はやめとく?」
「ノン! それはないだろ? 何といっても君のロープの締め方が最高なんだからね」
「ロープがいいの? 今日はチェーンにしようかと思ったんだけど……」
「それじゃ2段階でっていうのはどう?」
「そいつはいいね。けど、パパが心配しないかい?」
「大丈夫。今夜はエリックのところにお泊まりだから……」
「クリフは?」
「彼はクロードが連れて行ったよ。夜の台本読みするからって……」
「クリフはまだ気がついてないのか? 夜の台本ってのが何なのか」
「彼、憑依しちゃうからね」
「可哀そうにな。自分がみんなから何をされてるのか知ったらショックなんじゃないか?」
「気づいた頃には身体がそれを求めるようになっているさ」
「おまえも悪だねえ」
「ここはそういうところだろ? 恋愛は自由解禁、誰がどんな性癖を持っていようと咎めないのが劇団ヌーボーのいいところさ」
ルイがそう言って笑った時、メールを知らせるメロディーが鳴った。
「あ、ちょっと待って。依頼メールだ」
ルイはそう言うとPCを開いてチェックした。
「OK。また夜の部の台本の依頼だ」
「闇の脚本家がおまえだと知ったらみんなびっくりするだろうな」
「おかげで劇団の人間関係を的確に掴むことができて便利だよ。意外な奴がMだったり、みんな刺激が欲しいのさ。今のも濃厚で危険なプレイの依頼だったよ」
にっと笑ってルイが振り向く。
「まあ、そのスキンシップで感情表現が豊かになるってんだから貢献してないことはないよな」
エルンストも頷く。
「そうだよ。劇団員同士も親密になるし、信頼も生まれるし、秘密の共有にもなる。ヌーボーの強さはそれかもね」
「それじゃ、早速、今夜も闇の台本。愛のレッスンを始めようか?」
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